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この項目では、植物のアサ(麻)について説明しています。姓については「麻 (姓)」を、花椒の味については「麻辣味」を、その他の用法については「アサ (曖昧さ回避)」をご覧ください。

アサ
アサ Cannabis
分類

:植物界 Plantae
階級なし:被子植物 Angiosperms
階級なし:真正双子葉類 Eudicots
階級なし:バラ類 Rosids
:バラ目 Rosales
:アサ科 Cannabaceae
:アサ属 Cannabis

学名
Cannabis L.
和名
アサ
英名
Cannabis
Hemp



アサ C. sativa L.

C. indica Ram.

C. ruderalis Janisch.

アサ(麻、Cannabis sativa)は、中央アジア原産[1]とされるアサ科アサ属の一年生の草本であり雌雄異株である。大麻草(たいまそう)とも呼ばれる[2][3]

茎の皮の植物繊維は、木綿合成繊維が普及するまで麻繊維麻布、として主に用いられていた。大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く)並びに大麻草の種子及びその製品を除いた、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品は大麻取締法で禁止されており、2022年時点では主におお麻として神道における神具向けなどが生産が許可されている[4][5]。戦前までは麻といえば、おお麻(ヘンプ)を意味したが、2010年代には「麻」と言えば、亜麻(あま、リネン)と苧麻(ちょま、ラミー)を指す。 家庭用品品質表示法で、「麻」と表示することが認められているのは、衣服やシーツの素材として使われている亜麻と苧麻の2種類だけで、おお麻(ヘンプ)は“指定外繊維”となっている[5]。麻の実(種子)は古くは5つの主食のヒトツ・現在は七味唐辛子として、麻の実油は食用や燃料に用いられる[6]
概要

伊勢神宮の神札の大麻と呼ぶ由来となった植物であり、三草のひとつに数えられ、米と並んで主要作物として盛んに栽培されてきた。第二次世界大戦中に農林省が日本原麻を設立した日本でも[7]、終戦後にGHQの指令により規制したが[8]、繊維用の麻まで強く規制され伝統継承の問題が生じされたため、解放後に産業利用と伝統工芸利用を認める改正がされている[9]。20世紀半ばより国際的に薬用の大麻が規制されたが、21世紀初頭には医療大麻、違法かつ非犯罪化という緩い規制への変化、米国首都での嗜好大麻の合法化など例外も増えてきた[10]

大麻として、1961年の麻薬に関する単一条約で国際統制されるのは、繊維や種子や園芸以外を目的とした花や果実のついた枝端である[11][12]。一方、日本では大麻取締法の大麻として、カンナビス・サティバ・エルの繊維型の品種も葉と花穂が規制されており[2]、種子や茎を除外している。葉や花には向精神性のテトラヒドロカンナビノール (THC) が多く摂取すると陶酔する。薬用型あるいは「マリファナ」と呼ばれる[13]。薬用型の代表的な品種ではTHCの含有量は15%を超える[14]。一方、神道における大麻(おおぬさ、あるいは、たいま)は、神に捧げられた布(ヌサ)の多くが麻であったことから麻の字が当てられ、これを形式化した祓い具である[15]

ヘンプ (hemp) は、繊維型とされ、繊維利用のために品種改良した麻の呼称で、繊維利用の研究が進んだ欧米諸国でそう呼ばれ、規制法で表記される植物名のカンナビスと区別している。ディーゼルエンジンなどに使用できる化石燃料よりも低公害の油をとることもでき[16]、近年その茎から採れる丈夫な麻繊維はエコロジーの観点から再認識されている。産業用ヘンプのTHC含有量は0.3%未満であり、摂取しても陶酔作用はない[2]

2016年前後の産業用ヘンプの生産面積(単位:ヘクタール)[14]カナダ34000
アメリカ合衆国3905
ドイツ1501
フランス14500
オランダ2443
スペイン300
イタリア2300
ロシア3800
中国26800
日本6

広義には、アサは麻繊維を採る植物の総称であり、亜麻苧麻(カラムシ)、黄麻(ジュート)、マニラ麻サイザル麻を指すことがあるが、本項目とは別の植物である。
大麻の形態学による違い麻の葉

真の野生の大麻は失われており、人間が栽培した種に起源をもつ[13]。現在の分類体系では、単一の種 Cannabis sativa、あるいは sativa サティバだけでなく、亜種インディカ indica との2種、またルデラリス ruderalis を加えて3種として言及される[17][18]。かつてクワ科とされていたが、DNAの類似性からアサ科にまとめられる。形態的にも、托葉が相互に合着しない、種子胚乳がある等の点でクワ科と区別できる。CannabisCannabis sativa L.C. sativa subsp. sativaC. sativa subsp. sativa var. sativaC. sativa subsp. sativa var. spontaneaC. sativa subsp. indicaC. sativa subsp. indica var. indicaC. sativa subsp. indica var. kafiristanicaC. sativa subsp. ruderalis

カンナビス・サティバ Cannabis sativa は、フックスが1542年の草本誌で最初に用い、欧州の麻(hemp)が描かれていた[13]。1753年の『植物の種』(Species Plantarum)でリンネが、単一型として割り当てたが、しばらくするとラマルクは短く精神作用のあるインディカ indica をインド亜大陸の形態学的に異なるものだと説明した[13]。シュルテス(英語版)や Anderson は、形態学的に Cannabis sativa L.(高く育ち、繊維、種子、精神作用に使われる)、Cannabis indica Lam.(短く、ハシシがとれる)、Cannabis ruderalis Jan.(短く、枝分かれがない)の3種を推定した。

2003年の短い反復配列によるDNA指標は、繊維型と薬物型を明確に区別しなかった[13][19]。繊維型と薬用型の区別は、THCの量によって決定されており、形態的な区別はできない[17]

2004年、 Karl Hillig と Paul Mahlberg は157種の麻の体系的な化学分類を行い、現在のカザフスタンにおけるサティバ sativa の起源的な発生地、西ヒマラヤを起源とするインディカ indica の地図を描き、また中央アジアの ruderalis は第三の遺伝子プールが推定される[13]。サティバとインディカの分裂は人間の介入に先行している可能性があった[13]。カンナビノイドの合成につながる遺伝的な起源は、インディカにあるようである[13]。2005年の研究も断片長多型がこれを裏付ける[13]。また、8か国53の大麻から、ルテオリン-C-グリクロニドはサティバから検出されるが、インディカからの検出はまれであり遺伝子流動が制限されている[13]

2011年に、麻のゲノムの草案が発表されている[18]。薬用型と繊維型の遺伝子的な相違は、用途によって栽培してきた慣行によりヒト遺伝子に喩えるとヨーロッパ人と東アジア人の程度であるが、サティバとインディカでは栽培の慣行のためかその祖先を同定することは部分的にしかできない[20]。2019年の調査では、最も古い indica の花粉はおよそ32,600年前のものである[21]

本項とは別の植物として、広義に麻とされる種類には、イラクサ科の苧麻(カラムシ)、アマ科の亜麻など、植物学上の分類が異なる20種類がある[22]。これらに麻の字があてられたのは、屋根の下で茎をこすり繊維を取り出すことからきており、強くて長い繊維を総称しているため、明治以降に外来のマニラ麻などと区別するために、本項アサが大麻と名付けられた[22]。ほかにアオイ科黄麻(ジュート)、バショウ科マニラ麻キジカクシ科サイザル麻もアサと呼ばれることがある。
生態緑色は世界における麻の生育に適した気候を持つ地域

雌雄異株[1]。110日(約4か月弱)で高さ2.5メートルに成長する[22]。品種や生育状況によりさらに高く成長する。ヒマラヤ山脈の北西山岳地帯が原産地といわれている。生育速度と環境順応性の高さから、熱帯から寒冷地まで世界中ほとんどの地域に定着している。日本にも古来自生しており、神道との関係も深い。

栽培植物としては非常に急速に成長する。アサは生育が早い一年草であり、生育の際に多量の二酸化炭素を消費し、繊維質から様々な物が作れるため、地球規模での環境保護になるという意見もあり、実際にバイオマス原料植物として各国で研究・実用化が始まっている。
逸話

麻の中の蓬(よもぎ)ということわざは、まっすぐ育つ麻の中ではまがりやすいヨモギも曲がらないということで、麻は凡人を感化する善人にたとえられている[23]。生育速度が早く、忍者が種を蒔いて飛び越える訓練をした逸話などが残っている。
麻の葉文様二代目 歌川国輝作。八百屋お七。1867年。詳細は「麻の葉文様」を参照

麻の葉文様は、平安・鎌倉時代から様々な場面での意匠として使われてきた[24]。神社の神紋や、家紋にも使われる。

日本では、赤ちゃんに麻の葉模様の産着を着せることは、麻のようにすくすく育ってほしいという願いが込められている。19世紀の日本では歌舞伎役者の影響から特に若い女性に人気の着物の柄で、それだけでなく定番の模様であった[25]。編み物や籠の編み方に、麻の葉編みがある。

麻の葉文様。この形が基本だが、これだけでなく種類は様々にある[24]

成分

葉・花には薬理作用がある成分が多く含まれる。特に、雌の花穂に樹脂が生成され、THCが多く、これを原料にハシシが製造される。

麻には、100以上のTHCのようなカンナビノイドが含まれる。体内では神経調節物質としてエンドカンナビノイド(英語版)(内因性カンナビノイド)が産生され、そのカンナビノイド受容体は全身に広がっており多くの異なる機能に関与しているため、そのことが大麻の医療応用性の広さの理由となる[26]。麻の実(種子)にも少なくとも鳥の餌用として日本で販売されていた10製品や[27]、麻油から少ないながらカンナビノイドは検出されている[28]

また麻には、テルペンが含まれ、植物的な匂いを発し、抗炎症性、抗菌性、抗不安または鎮痛性がある[26]。食品香料として承認されており一般に安全である[29]。カンナビノイドと相乗作用があるという化学特性を示している[29]リモネンミルセンピネンが優勢だが、麻の乾燥と貯蔵により損なわれβ-カリオフィレンの割合が相対的に増える[29]。他に含まれるテルペン。

リナロール[29]

ネロリドール[29]

こうしたテルペノイドは他の食品において上述の様な作用が見いだされるため、単離されたTHCなどとは異なった作用を示す、大麻の効果の一部分である可能性がある[29]

麻に21種類のフラボノイドが特定されており、麻特有のカンナフラビン(イタリア語版)Aには抗炎症作用がある[13]
品種「en:Cannabis strains」も参照

アサに含まれる陶酔成分がテトラヒドロカンナビノール (THC) であり、その効果を打ち消す成分がカンナビジオール (CBD) である。

アサの薬用型、繊維型といった品種は、THC と CBD の含有率によって決定され、薬用型では THC が2-25%含まれ CBD は少なく、繊維型では CBD が THC よりも多く THC が0.25%未満である[2]。アメリカ、カナダ、オーストラリアでは、THC が0.3%未満の品種を産業用ヘンプと呼ぶ[2]。40ほどの品種が登録されている[2]。一方、薬用型ではTHCの多いものは5-25%であり、代表的な品種では15%以上である[14]。2010年代にはCBD濃度が17%といった薬用型の品種も開発されている[14]


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