魔界転生
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『魔界転生』(まかいてんしょう)は、山田風太郎の伝奇小説、これを原作とする日本映画・演劇・オリジナルビデオアニメ漫画ゲーム作品の総称。

小説は『大阪新聞』に1964年12月から1965年2月まで連載され、この時の題名は『おぼろ忍法帖』(おぼろにんぽうちょう)。1967年講談社で単行本化、角川文庫富士見時代小説文庫講談社文庫で再刊されている。題名は作中に登場する秘術の名でもある。

1981年の映画は主演:千葉真一沢田研二、監督:深作欣二によって製作され、日本では観客動員数200万人・配給収入10億5000万円を記録した[1]

その後は演劇・漫画・オリジナルビデオ・映画・アニメ・ゲームと、次々にメディアミックスが展開された。

山田自身も一番好きな作品と語っており[2][3]、その雄大な構想と奇抜な展開で、数多い『忍法帖シリーズ』の中でも最高傑作と云われている[4]
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概要(小説)

作品名は連載時に『おぼろ忍法帖』、次に『忍法魔界転生』、そして『魔界転生』と変遷[5]1981年の映画化の際に山田自身が改題した。

森宗意軒という怪老人と出会った由比正雪は、紀州徳川頼宣とともに江戸幕府、将軍徳川家光の天下を奪わんとする企てを進めていた。森宗意軒は自らが編み出した忍法、“魔界転生”によって、剣豪たちを意のままになる部下として生まれ変わらせてゆく。これは人並みはずれた技量と、死の直前になっても自分の人生に悔いを残している強烈な生の欲求を持つ人間が、死の直前に心から愛しいと思う女と交わることにより、新たな肉体と生前より優れた技量を持って生まれ変わる忍法であった。

“魔界転生”で蘇る剣豪達は転生衆、あるいは魔界衆と呼ばれる。天草四郎時貞荒木又右衛門居合田宮坊太郎宝蔵院流槍術宝蔵院胤舜、尾張柳生流柳生如雲斎、江戸柳生流の柳生宗矩、二天一流兵法の宮本武蔵ら名だたる剣豪たちが転生した。しかし、森宗意軒にはもう一人、どうしても魔界転生させたい男がいた。その男こそ柳生十兵衛である。ところが十兵衛は宗意軒の意に反し、関口柔心の息子、関口弥太郎などとともに転生衆と戦うことを選ぶ。

転生衆に倒された剣豪には、田宮平兵衛・関口柔心・木村助九郎がおり、彼らの娘や孫娘を救う、仇をとるというのが十兵衛の動機の一つになっている。小説中では十兵衛が自分一人の力で敵を倒すことはほとんどなく、誰かしらの力を借りているのも特徴である。

1981年の映画で天草四郎を魔界衆の総大将として描いてから[注釈 1]、後の映画・演劇・漫画でもこの設定が踏襲された。原作では宗意軒の愛弟子ではあるものの転生衆の1人に過ぎず、中盤で十兵衛によって倒されており、漫画版の一部を除き、派生作品のほとんどが脚色されている。
登場人物
柳生衆

柳生十兵衛三巌(やぎゅう じゅうべえ みつよし) - 柳生宗矩の嫡男。

磯谷千八(いそや せんぱち) - 柳生十人衆の一人。

逸見瀬兵衛(へんみ せへえ) - 柳生十人衆の一人。

伊達左十郎(だて さじゅうろう) - 柳生十人衆の一人。泣き顔。

北条主税(ほうじょう ちから) - 柳生十人衆の一人。激怒や感激など感情を露わにする。

小栗丈馬(おぐり じょうま) - 柳生十人衆の一人。精悍無比な雰囲気を持つ。

戸田五太夫(とだ ごだゆう) - 柳生十人衆の一人。地味な三十男。

三枝麻右衛門(さえぐさ あさえもん) - 柳生十人衆の一人。朴訥な性格。

小屋小三郎(こや こさぶろう) - 柳生十人衆の一人。最年少の17歳。

金丸内匠(かなまる たくみ) - 柳生十人衆の一人。最年長で40代前半。

平岡慶之助(ひらおか けいのすけ) - 柳生十人衆の一人。のんき者。

魔界衆

森宗意軒(もり そういけん) - 小西行長の遺臣。

天草四郎時貞(あまくさ しろう ときさだ) - 魔界衆の一人。

宮本武蔵(みやもと むさし) - 魔界衆の一人。剣豪。

荒木又右衛門(あらき またえもん) - 魔界衆の一人。鍵屋の辻での仇討ちで知られる。

柳生利厳(やぎゅう としよし) - 魔界衆の一人。尾張柳生の開祖。

田宮坊太郎国宗(たみや ぼうたろう くにむね) - 魔界衆の一人。柳生宗矩の弟子。

柳生但馬守宗矩(やぎゅう たじまのかみ むねのり) - 魔界衆の一人。徳川家の剣術師範。

宝蔵院胤舜(ほうぞういん いんしゅん) - 魔界衆の一人。槍術の達人。宝蔵院流の2代目。

キリシタンくノ一

クララお品(くらら おしな) - 宗意軒に仕える切支丹くノ一。

ベアトリスお銭(べあとりす おせん) - 同じく切支丹くノ一。

フランチェスカお蝶(ふらんちぇすか おちょう) - 同じく切支丹くノ一。

忍法“魔界転生”

森宗意軒が西洋の黒魔術と日本の忍法を混合させ編み出した秘術。呪術者が切り落とした自身の手の指1本ずつを生贄の女性の子宮に宿させたもの(忍体と呼ばれる)を素体に、死の淵に瀕した武芸者を新たな肉体を持った魔人として再誕させる外道の法である。

死の直前になっても自分の人生に悔いを残している、強烈な生の欲求を持つ武芸者を忍体と交合させる。すると忍体は武芸者そのものを身籠り、忍体自体が武芸者の再生のための蛹のような状態となる。再生する武芸者は1か月弱の期間を経て母胎を溶かしながら成長を続け、やがて忍体を押し破り、新しい体を持った本人が生前と同一の姿で再生を遂げる。

魔界転生を遂げた人物は生前と同一の姿、同一の剣技を持ちながら、理性の箍が外れた残忍な人格に変貌し、元がどれほど慈愛ある人格者であっても破壊と陵辱の限りを尽くす魔人と化す。小説における転生衆の顔ぶれは、天草四郎時貞荒木又右衛門田宮坊太郎宝蔵院胤舜柳生如雲斎柳生宗矩宮本武蔵の7名。これに加えて、未遂となった徳川頼宣、そして柳生十兵衛、最後に森宗意軒自身の合計10名が、森宗意軒の10本の指と10人の忍体を介して魔界転生を果たす予定だった。
オマージュ・パロディ小説としての『魔界転生』.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

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出典検索?: "魔界転生" ? ニュース ・ 書籍 ・ スカラー ・ CiNii ・ J-STAGE ・ NDL ・ dlib.jp ・ ジャパンサーチ ・ TWL(2022年12月)

小説『魔界転生』には、吉川英治宮本武蔵』、五味康祐柳生武芸帳』などの先行する有名な剣豪小説、『寛永御前試合』、ほか立川文庫の講談などのオマージュパロディ要素がふんだんに盛り込まれていることが、数多くの文芸評論家、文学研究者によって解説されている。

特に本作の宮本武蔵に纏わる描写には、“吉川武蔵”のパロディ、オマージュとされる要素が多分に含まれている。

小説『魔界転生』は主人公・柳生十兵衛と最強にして最後の転生衆・宮本武蔵の舟島の決闘とその決着を描く最終章「魚歌水心」でフィナーレを迎えるが、この「魚歌水心」という章第は“吉川武蔵”最終巻、武蔵と佐々木小次郎の舟島の決闘とその決着を描く最終章「魚歌水心」と、章第や舞台の地名が同一、かつ勝者と敗者が“吉川武蔵”と完全に裏返しの構図になっている[6]

文芸評論家の細谷正充は『魔界転生』を「吉川英治の代表作への最高に皮肉で、最高に素晴らしいオマージュ」と評価している[7]。牧野悠は「柳生十兵衛が頭上から振り落とされる木剣ごと宮本武蔵を両断する趣向は、章題「魚歌水心」とともに、パロディの意図が明瞭である[8]」と言及している。

また、『魔界転生』で武蔵が連れている弟子の少年「伊太郎」の名と立場が、“吉川武蔵”で武蔵が連れ歩いた2人の少年「伊織」と「城太郎」の名前を合体させパロディ化したものと指摘し、『魔界転生』の宮本武蔵は「(“吉川武蔵”で描かなかった)巌流島後の武蔵を語るところから始めた吉川版武蔵のパロディ」と指摘する論もある[9]など、”吉川武蔵”が確立した正統派ヒーロー然とした宮本武蔵像に対するアンチテーゼとして、”魔界転生”は「巌流島での佐々木小次郎との死闘を人生の頂点」とし、悪鬼外道の類に堕してでも強敵との戦いを渇望するダークヒーローヴィランとしての「それから」の宮本武蔵像を世に提示する側面があった。

宅和宏は、本作の登場人物のうち荒木又右衛門と田宮坊太郎を立川文庫、宮本武蔵と宝蔵院胤舜を“吉川武蔵”、柳生但馬守宗矩と柳生兵庫介利厳を『柳生武芸帳』からの登場人物と紹介し[6]、パロディの中でもいわゆるドリームマッチ物、当世風に言えばクロスオーバー二次創作の分類で『魔界転生』を解説している。宅は「そう、これは剣豪小説のパロディなのです。それもかなり上質のもので、柳生の高弟の木村助九郎や田宮平兵衛が七人と対決するくだりは『柳生武芸帳』の五味康祐の文体にそっくり、ラストの船島での十兵衛と武蔵の決闘は吉川『武蔵』の有名なクライマックスに瓜二つでしかも完全な裏がえし、とくるのだからケタケタ笑ってしまう[6]」と、『魔界転生』本文には既存作品の展開の踏襲・キャラクターや章題のネーミング被せなどのわかかりやすいオマージュのみならず、文体模写などの高度なテクニックが含まれることを指摘し、『魔界転生』のパロディ要素を大いに賞賛している。

『魔界転生』に先行する著名剣豪集合作品に、講談『寛永御前試合』(1895年、求光閣)を背景にした柴田錬三郎『赤い影法師』(『魔界転生』と共通する剣豪は柳生十兵衛、柳生但馬守、柳生兵庫介(如雲斎)、宮本武蔵、荒木又右衛門等が挙げられるが、『寛永御前試合』に見られる由比正雪と柳生十兵衛の対決というモチーフは、『魔界転生』でも拾われている[9]
後世への影響(小説)

剣豪小説パロディの側面を持って誕生したが[6]高木彬光が「およそ時代小説を書こうとした作家が一度は夢に見て、しかもどのような鬼才怪筆の持ち主でもとうてい実現不可能とあきらめていたはずの見果てぬ夢[10] 」と評した、没した時代や全盛期が異なる名だたる剣豪たちを心身ともに全盛期の状態で蘇らせ、夢の対決を行う本作の革新的な発想は、小説の誕生から50年以上が経過した現在もなお多彩な媒体でフォロワー作品を生み出し続けている。

時代伝奇小説家荒山徹は、陰陽師山田一風斎の秘術「擬界転送(まがいてんそう)」によって蘇った12人の幕末志士が明治政府を狙う筋書きの、『魔界転生』とクトゥルフ神話をミックスしたパロディ伝奇小説『大東亜忍法帖』[11]、森宗意軒率いる「神聖ハポン騎士団」の七剣士に柳生十兵衛が挑む『柳生黙示録』、動物に生まれ変わった人間を前世の姿に戻す「前世逆生」という朝鮮妖術が登場し、『魔界転生』や『柳生忍法帖』などと世界観を一にし、またも荒木又右衛門が復活する『竹島御免状』などの『魔界転生』オマージュ作品を上梓している。

柳生宗矩を主人公とした近衛龍春の時代伝奇小説『柳生魔斬刀』は、「平成の魔界転生」というキャッチコピーで出版されている。

魔界から蘇った天草四郎が徳川幕府への怨恨と魔王サタンならぬ「邪神アンブロジァ」の導きによって世界を破滅に導こうと暗躍する、島原の乱から150年後の島原の地を舞台に12人の剣士が戦いを繰り広げる和風格闘ゲーム『サムライスピリッツ』シリーズ(SNK)、歴史や伝説に名を残す英雄の写し身を召喚して戦う伝奇ファンタジー『Fate』シリーズ(TYPE-MOON)などのサブカルチャーにも影響を与えている[12][13][14]。漫画原作者七月鏡一は、黄泉還った由比正雪を黒幕にした『サムライスピリッツ』本編の前日譚『サムライスピリッツ 魔界武芸帖』は『魔界転生』のオマージュ作品であると公表している[13]。『Fate』シリーズの原作者奈須きのこは「『Fate』はもともと、『魔界転生』のオマージュです[15]」と言及しており、シリーズの原点『Fate/stay night』の製作動機に、学生時代に読んで衝撃を受けたという石川賢の漫画版と[14][16] 、山田風太郎の原作[15]、原作と漫画両方の『魔界転生』を挙げている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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