高齢者所在不明問題
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高齢者所在不明問題(こうれいしゃしょざいふめいもんだい)とは、2010年(平成22年)以降の日本において、多数の高齢者が公的記録上(戸籍上)では存在しているが、実際には生死または実居住地などの確認が取れなくなっていることが発覚した社会問題

なお、この項で扱う「高齢者所在不明問題」とは、認知症等が原因の一時的な失踪や徘徊を指すものではなく、永続的な失踪かつ親族等による失踪届や、失踪後の死亡宣告等の書類上の処理がなされていない特殊な状況の高齢者のことを取り扱う。

一時的な失踪や徘徊に関しては、他の項を参考にしたい。
概要

2010年(平成22年)7月29日に、東京都足立区に住む1899年(明治32年)生まれの「111歳男性(報道当時)」が白骨化した状態で発見されたことを契機として、高齢者戸籍住民票などの公的記録上は存在しているが、実際には生死または実居住地などの確認が取れなくなっている例が多数存在していることが明らかになった。住民登録が抹消されていない事例については、年金給付の不正受給(詐欺罪)や死体遺棄(保護責任者遺棄致死罪死体遺棄罪公訴時効はそれぞれ5年と3年)など複数の問題が発覚している[1]

2010年8月27日に発表された厚生労働省のサンプル調査によると、85歳以上の年金受給者のうち3%に不正受給の疑いがあることがわかった[2]

一方、平均寿命や80歳以上の高齢者といった統計資料は、国勢調査に基づいて推計されており、また、男性98歳以上、女性103歳以上のデータについても、サンプル数が少ないため曖昧さが拭えずに除外されていることから、虚偽の記載があったとしても影響は少ないとされている[3]

ギネス世界記録が認定している世界最長寿の人物であるジャンヌ・カルマンの年齢(122歳164日)を大幅に上回る、極端な高齢者(130歳 - 200歳以上)の案件についてはマスコミの過剰報道ではないかという意見がある。200歳ともなればその出生は江戸時代であるため、明治時代以降の戸籍法に基づく戸籍制度は無論存在していない。また江戸時代には寺請制度によって、事実上戸籍や住民票同様の管理がなされていたとしても、明治政府が宗門人別改帳を基にして壬申戸籍を整備したわけではなく、制度の目的や調査主体も異なる。また、後の戦火や経年経過などにより資料が消失していると考えられるためである、このような事件は大正期以降にたびたび報告されており、彼らの存在は認知されながらも放置されていた可能性もあるといえる[4]。このような指摘がなされてから間もなく、本件に関する報道は急速に沈下していった。
呼称

厚生労働省では2010年8月5日以降、「高齢者所在不明」「高齢者所在不明問題」という呼称を使用しているが[5][6][7]、「行方不明高齢者」とされることもある[8]

マスコミの間でも「高齢者の所在不明問題」[9]「高齢者所在不明問題」[10]「所在不明高齢者」[11]といった呼称などが使われている。

新語・流行語大賞においても、2010年(平成22年度)の大賞候補に「名ばかり高齢者」が選出されている[12]

またインターネット上では、東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案に出てきた「非実在青少年」という言葉になぞらえて、「非実在高齢者」[13]あるいは「非実在老人」[14]という言葉が用いられることもある。ただし、非実在青少年は実在したことさえない青少年だが、非実在高齢者はかつて実在(生存)したことのある高齢者である点が異なる。
経緯
2010年までの事例

2005年(平成17年)3月7日、兵庫県伊丹市に住む1898年(明治31年)生まれの「107歳男性」がミイラ化し布団に寝かされたままの状態で発見された。この男性は兵庫県内男性最高齢者で、年約40万円の年金が支給されていた。この事件は、後述の東京都内男性最高齢者の件とかなり酷似しているが、関西地方で「兵庫県内の長寿男性が死亡していた」と話題になっただけで、全国的な問題とはならなかった。
足立区での事例

2010年(平成22年)7月29日、当時東京都内男性最高齢者であり、東京都足立区に住民票があった1899年(明治32年)生まれの「111歳男性」が自宅室内で白骨化した状態で発見され、司法解剖の結果30年以上前に死亡していることが明らかになった。部屋の中からは1978年(昭和53年)付けの新聞も見つかっていることから32年前に死亡したと見られている[15]。家族によれば、男性はほぼ同時期に「即身成仏するから絶対に入るな」と部屋に閉じこもったという[16]。この地区を担当する民生委員が、同年1月に、男性と一度も面会できないことを足立区に相談したことがきっかけとなって発覚した。

この男性の遺族共済年金が家族に支給されており、8月27日に長女と孫が詐欺容疑(年金の不正受給)で逮捕された。この事件の報道後、同じように住民票や戸籍簿にのみ存在する高齢者に関する記事が増えた。日本の法制では、年金給付や選挙権など公民権に関する個人情報、あるいは人口統計などは住民登録をもとに実施されており、戸籍簿のみの不実記載案件については年金の不正受給問題のような側面から焦点を当てたものではない。
その他の事例
2010年


8月2日 - 足立区の事例を受けて高齢者の所在確認作業を行っていた東京都杉並区が、当時東京都内女性最高齢者であった1897年(明治30年)生まれの113歳女性の所在が確認できていない、と発表した[17]。杉並区の担当者は女性とは一度も面会できていなかった。この女性の住民票があった杉並区のアパートには長女が暮らしていたが、長女は杉並区では女性と同居したことは無かったという。女性には長女の他長男と次女がいたものの、警察の調査に対し両名とも「母とは音信不通」と答えている。女性と長女・長男は1975年(昭和50年)頃まで千葉県市川市のアパートで同居していたが、長女が就職を契機に市川市のアパートを離れ別居した後、相互に疎遠となった。女性は1977年(昭和52年)、長女の職場を訪問し、長女と面会しているが、それが最後となり、以後30年以上音信不通となっている。女性と長男は1978年(昭和53年)に市川市のアパートを退去したものと見られるという。以降女性の行方が分からなくなっている。なお長男の行方は判明しており、警察に対し長男は「母は昭和50年代に出て行った」と話したという。長女は1998年(平成10年)から杉並区のアパートに居住していたが、女性の住民票が杉並区の長女のアパートに移された経緯は明らかになっていない。ただ税金介護保険料、後期高齢者医療保険料等については長女が納入し続けていた。女性の夫は東京都職員であったが、1960年(昭和35年)に死去。その遺族扶助料(遺族年金)が女性の口座に振り込まれ続けていたほか、老齢福祉年金も支給されていた。年金等の行方については判然としない面があるものの、長女はこれらの金については受け取っていなかった模様という。女性が介護保険後期高齢者医療制度などを利用した形跡もなく、問題発覚以降も女性の所在は分からずに終わった。以後も安否不明のままとなっているが、長寿者名簿等からは削除された。この113歳女性の問題については2010年9月5日、NHKスペシャル「消えた高齢者 "無縁社会"の闇」において「家族がいたにもかかわらず意図せずして高齢者が行方不明となった事例」として放送され、長女がNHKの取材に応じている。

この結果、2010年当時の東京都内男性最高齢者・女性最高齢者はともに自治体が所在を確認できていない状態であったことが明らかとなった。

NHKスペシャル「消えた高齢者 "無縁社会"の闇」の調査によると、全国の所在不明高齢者のうち半数以上が2010年当時の東京都内男性最高齢者・女性最高齢者同様、住民登録上は家族とともに生活していることになっており、身寄りのない独居老人孤独死していた等の事例よりも多いという。


8月6日 - 大阪府東大阪市で国内最高齢の113歳(当時)の長谷川チヨノを上回る119歳女性と115歳男性が住民登録されていることが判明。


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