高低アクセント(こうていアクセント、英: pitch-accent)またはピッチアクセントとは、アクセント(すなわち語あるいは形態素の中の1音節が他の音節よりも卓立していること)の一種で、アクセントの置かれた音節が、音の特定の高低配置により指定されるものを言う。強勢や長短によるアクセントとは異なる。高さアクセント[1][2]あるいは高アクセント[3]とも。
標準中国語のような声調言語ではそれぞれの音節が独立の音調(トーン)を持つことができ、高低アクセントと対照をなしている。
高低アクセントを持つとされる言語には、セルビア・クロアチア語、スロベニア語、バルト語派、古代ギリシア語、ヴェーダ語、トルコ語、日本語、ノルウェー語、スウェーデン語、西部バスク語[4]、ヤキ語(英語版)[5]、朝鮮語の一部の方言、上海語がある[6]。
高低アクセント言語は二種類のカテゴリーに分けられる傾向にある。一つはアクセントの置かれた音節が持つ高低配置(例えば「高」、あるいは「高-低」)が一種類のもので、東京の日本語や西部バスク語、ペルシャ語などが該当する。もう一種類はアクセントの置かれる音節が持ちうる高低配置が二種類以上あるもので、パンジャーブ語、スウェーデン語、セルビア・クロアチア語などが該当する。後者のカテゴリーでは、アクセントの置かれた音節は同時に強くも発音される場合もある。
高低アクセント言語とされる言語のなかには、アクセントを持つ語だけでなく、アクセントの置かれない語を持つ言語もある(日本語、西部バスク語など)。他の言語では、すべての主要な語にアクセントが置かれる(ブラックフット語、Barasana-Eduria語など)[7]。
一部の研究者は、「高低アクセント」という類型は存在しないと主張している[8]。
「高低アクセント」という術語は、上記とは異なる用法もある。すなわち語句内の音節または拍(モーラ)にプロミネンスを与えるときに音高を用いることを指すこともある[9]。
以下で用いているトーン記号は次の通り。a:高、?:中、a:低、a:下降、?:上昇。アクセントの置かれる音節を太字(a)で示している。 学者らは高低アクセントに様々な定義を与えている。典型的な定義は以下の通りである「高低アクセントシステムとは、同じ語の中で一つの音節が他の音節よりも卓立し、この卓立が音高により実現されるシステムである」(Zanten and Dol (2010))[10]。すなわち、高低アクセント言語では強勢アクセント言語と同様、単語をどう発音するかを示すには、語中のどの音節(一音節のみ)にアクセントが置かれるかを示すことが必要であり、全ての音節のトーンをいちいち明示する必要はない。この、語または形態素の中に卓立する音節が一つだけある特徴は、”culminativity”(仮訳:頂点性)として知られる[11]。 高低アクセント言語を強勢アクセント言語と区別する他の特性として以下が提唱されている「高低アクセント言語は、アクセントの置かれた音節が「一様で不変の音調曲線」を持つという基準を満たさなければならない。純粋な強勢アクセント言語では、この点が異なり、強勢の置かれた音節の音調曲線は非常に自由に変化しうる」(Hayes (1995))[12]。この特性は多くの高低アクセント言語に当てはまるが、例外もあり、例えばフランク語方言では肯定文と疑問文となどではアクセントに伴う音調が異なる[13]。 他に提唱されている説によれば、高低アクセント言語はアクセントの置かれた音節を示すのに「F0だけを用いることができる」(F0とは音高である)が、強勢アクセント言語では他に長さや強さも用いる場合がある(Beckman)[14]。しかし他の学者らはこれに同意せず、高低アクセント言語で強さや長さにも役割がある場合があることを知っている[7]。 強勢アクセント言語の特徴として考えられているものの一つに、強勢アクセントは「義務的」である、すなわち全ての主要な語にアクセントが置かれる、という点がある[15] 。これは高低アクセント言語では必ずしもあてはまらず、例えば日本語や北部ビスカヤ・バスク語では、アクセントの置かれない語がある。ただしすべての語がアクセントを持つ高低アクセント言語もある[7]。 高低アクセント言語と強勢アクセント言語で共通する特徴の一つに、”demarcativeness”(仮訳:境界性)がある。すなわち卓立のピークは形態素の端付近(語や語基の最初または最後、最後から2番目)になる傾向がある[16]。 しかしながら、ときにより高低アクセント言語、強勢アクセント言語、声調言語の違いは明確でないことがある。「実際は、特定のピッチシステムを声調かアクセントかどちらで記述するのが最適か判断するのは簡単ではない場合がある。…なぜなら音高の上昇は、特にそれが長母音化と同時に起きた場合、その音節は卓立しているように知覚されるが、特定の言語において音高が強勢としての役割を果たしているのか声調としての役割を果たしているのか解明するには音声的および音韻的な詳細な分析が必要になる場合があるからである」(Downing)[17]。 ラリー・ハイマンは、トーンは様々な異なる類型特徴により構成されていて、それらは互いに独立して混合されたり組み合されたりできると主張している[18]。ハイマンは、高低アクセントという術語は、トーンシステム(あるいはトーンシステムと強勢システムの両方)が持つ特性の、典型的でない組み合わせを持つ言語を記述するのに用いられているので、「高低アクセント」に一貫した定義を与えることはできないと主張している。 ある言語である音調が指定される場合、大抵は高い音調である。しかし、低い音調を指定する言語も少ないながら存在する。例えばカナダ北西部のドグリブ語[19]や、コンゴのバントゥー語群の、ルバ語やRuund 高低アクセントと強勢アクセントの違いの一つに、高低アクセントではアクセントが2音節に渡って実現することが珍しくないということが挙げられる。セルビア・クロアチア語では、「上昇」アクセントと「下降」アクセントの違いは、アクセントの置かれる音節の次の音節の高さのみで観察できる。つまりアクセントの置かれる音節よりも次の音節が高いまたは同じ高さであれば「上昇」アクセントとみなされ、低ければ「下降」アクセントとみなされる[21]。 ヴェーダ語では、古代インドの文法家は、アクセントを高いピッチ(ud?tta)とその後に続く音節における下降調(svarita)として記述している。ただし2音節が結合したときには、高音調と下降音調が結合して1つの音節に出現することもあったという[22][23]。 スウェーデン語では、アクセント1とアクセント2の違いは2音節もしくはそれ以上の語において聞くことができる。なぜならアクセントに伴う音調が発現するのに2音節以上を要するからである。ストックホルムのスウェーデン中央方言では、アクセント1は「低高低」の音調を持ち、アクセント2は「高低高低」という2番目のピークが第2音節に来る音調を持っている[24]。 ウェールズ語では、大半の語でアクセントは語末から2番目の音節での低い音調で実現し(同時に強勢も置かれる)、それに続く語末音節が高くなる。ただしある方言においては、この「低高」という音調が語末から2番目の音節内部だけで実現する場合もある[25]。 マラウィで話されるチェワ語でも同様に、最終音節の音調がしばしば一つ前の音節に拡張する。例えばChichewaは実際にはChich?w?のように中程度の高さが2音節に渡って出現するか[26]、あるいはChich?w?,のように最後から2つ目の音節に上昇調が現われる[27]。文末においては、これはChich?waのように語末から2つ目の音節での上昇の後、最終音節での低い音調で現れることがある[27][28]。
高低アクセントの特徴
定義
アクセントの特徴
高アクセントと低アクセント
2音節のアクセント