騎士鉄十字章
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騎士鉄十字章

騎士鉄十字章(きしてつじゅうじしょう、ドイツ語: Ritterkreuz des Eisernen Kreuzes)は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツにより制定された鉄十字章の一種である。
名称

日本では「騎士鉄十字章」と訳される[1][2]。直訳では「鉄十字章の中の騎士十字章」(てつじゅうじしょうのなかのきしじゅうじしょう)の意である[3]
騎士鉄十字章の制定

第二次世界大戦が開戦した1939年9月1日に「前大戦で祖国のために戦った人々を記念するため鉄十字章を再制定する」という法令が出された[4][5]。この法令には総統アドルフ・ヒトラー内相ヴィルヘルム・フリック国防軍最高司令部(OKW)総長ヴィルヘルム・カイテル無任所相オットー・マイスナーの署名がある[4]

この法令の第1条において1939年版鉄十字章に大十字章(大鉄十字章)、騎士十字章(騎士鉄十字章)、一級鉄十字章二級鉄十字章の4等級があることが定められた[5][3]。第2条では鉄十字章は任務遂行の際に大きな成功を収めた者や勇気ある行動を取った者、勇敢な戦闘行為を為した者に授与され、また上位の章を得るには下位の章を得ていなければならない旨が定められた[5][3]。このように「飛び級」の扱いがなかったため、鉄十字章を持たないが騎士鉄十字章に値する抜群の戦功を挙げた兵士に対して、便宜的に騎士章と共に二級章・一級章が同時に授与されたケースもあった。

最上位の大鉄十字章(鉄十字章の中の大十字章)は空軍総司令官ヘルマン・ゲーリング国家元帥にしか授与されなかった[1]。そのため実質的には騎士鉄十字章が一般のドイツ軍人が獲得し得る最高の戦功章だった。鉄十字章はナポレオン戦争普仏戦争第一次世界大戦に於ても制定されていたが、騎士鉄十字章の種別が設けられたのは第二次世界大戦時のみである[6]

大鉄十字章と一級鉄十字章の間を埋める勲章という意味ではプロイセン王国が制定したプール・ル・メリット勲章等の将校用軍事功労賞に代わる勲章だったとも言える[7][1]
騎士鉄十字章の授与

騎士鉄十字章の授与は総統アドルフ・ヒトラーの電報による承認を経て直属の上官によってなされていた[8]

受章者には予備勲記(Vorlaufiges Besitzzeugnis、授与を告げる簡易な印刷文書)が手渡された[8]。予備勲記は簡単な印刷文書で「総統及びドイツ国防軍最高司令官は(授与者の氏名、階級、部隊)に(授与される鉄十字章の名称)を(授与年月日)付けで授与する」と書かれており、その下に受章を確認した高級将校の署名が入っていた。ヴィルヘルム・カイテルヴァルター・フォン・ブラウヒッチュヴィルヘルム・ブルクドルフの署名が確認されている[8]

正式な勲記(Urkunde)は皮製のフォルダに挟まれており、フォルダの表には金箔捺しの鷲章が入っていた[9]。その中に挟まれた羊皮紙(1枚が折られており4ページ構成)に「ドイツ民族の名において(名前、階級)に(授与される鉄十字章の名称)を授与する。総統大本営。(日付)総統兼ドイツ国防軍最高司令官 A.ヒトラー」という文面でヒトラー直筆の署名が入っていた[9][10]。しかし戦時下のドイツの情勢から正式な勲記を大量につくるような余裕はなく、正式な勲記を受けられた者はごく少数であった[11]
騎士鉄十字章の佩用式

騎士鉄十字章の上部に付いた吊り輪に専用の綬(リボン)を通し、その綬を使って首許に騎士鉄十字章を佩用した[2][1]。騎士鉄十字章の綬は二級鉄十字章の綬と同じく黒白赤(ドイツ語版)の国家色のデザインだが、幅が45ミリと二級鉄十字章の綬よりも広かった[12]。綬がゆるまないよう、また装着の利便性のため綬にゴム紐フックを付着させることが多かった[13]。なお、戦功十字章騎士章も襟元に佩用するものであるが、はじめこの2つ(騎士鉄十字章と戦功十字章騎士章)を同時に襟元に佩用することは禁じられていた[13]。しかし後に許可され、その場合には騎士鉄十字章を下、戦功十字章騎士章を上にして佩用することとされた[13]

ドイツの軍隊スラングにおいては、鉄の首枷(Halseisen)やブリキのネクタイ(Blechkrawatte)と形容された。また騎士鉄十字章を受章できるよう張り切る人物の心境は、病気になぞらえて喉の痛み(Halsschmerzen)と呼ばれた。

1942年には、騎士鉄十字章を受章して佩用する者は、階級にかかわらず先に敬礼を受ける権利を有すると定められた(アメリカにおける名誉勲章と同じ扱い)。

なお騎士鉄十字章を含めた鉄十字章は日本の金鵄勲章のように家宝として大事に保管されるような性質の物ではなく、武勲の証として戦場でも一般的に佩用された[14]

襟下に綬をまいて柏葉・剣付騎士鉄十字章を佩用

綬を首にかけて騎士鉄十字章を佩用。第二ボタンホールに二級章の綬、左胸ポケットに一級章も写っている

騎士鉄十字章を佩用して演説する退役軍人(オットー・リース

騎士鉄十字章の形状

デザインは下位の一級鉄十字章や二級鉄十字章とほぼ同じである。中央にハーケンクロイツが入っており、その下には鉄十字の制定年である1939の数字が入っていた。裏面には初めて鉄十字章が制定された年である1813の数字が入っている。鉄十字の内側は無光沢の黒い鉄製だった。その周りを玉縁状の無光沢の純銀の枠が囲んでおり、さらにその周りを平面上の光沢のある純銀の枠が囲っていた[15][16]

上部にはリボン用ループを付けるためのループがついているが二級鉄十字章の上部のループとは向きが異なり、また二級鉄十字章のループのように溶接された物ではなく勲章と一体だった(一級鉄十字章は左胸に佩用するので、そもそもループなし)[1]。上部の平面上の銀の枠の部分に「800」あるいは「900」という数字が刻まれていることが多いが、これは銀の純度を示している[1]


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