騎士戦争
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バート・クロイツナハにあるフッテン(左)とジッキンゲン(右)の銅像。戦乱で破壊された修道院跡(19世紀の作品)。騎士として活躍したブルゴーニュの「突進公」シャルル。シャルルの重騎兵が軽装歩兵に敗れたムルテンの戦い。ライプツィヒでのルターの討論。

騎士戦争(きしせんそう、ドイツ語: Ritterkrieg)は、1522年秋から1523年春にかけて、宗教改革期のドイツ南西部で起きた戦乱[1]

フランツ・フォン・ジッキンゲン(ドイツ語版、英語版)(1481-1523)とウルリヒ・フォン・フッテン(1488-1523)が在地の騎士を率いてトリーア大司教に対して起こした争いである[2]
概要[ソースを編集]

中世のドイツで戦場の花形として活躍した騎士は、火薬の登場による戦術の変化や、貨幣経済の普及に伴う封建制度の崩壊、神聖ローマ帝国内の法整備と領邦の成長によって没落していった。特にドイツ南西部のライン川上流域(オーベルライン地方(de・en))では、小さな領地しか持たない下級貴族や領邦君主が乱立していた。その地方の中でも有力騎士であるジッキンゲンは、しばしば近隣の諸侯や都市を攻撃しては賠償金を捲きあげていた。

フッテンもこの地方の騎士階級の出身だが、神学や文学を学び、詩人として諸国をまわっているうちに人文主義に感化された。フッテンは教会に対する反発とドイツに対する愛国心から反ローマ主義者となっていった。

1517年にルターによる宗教改革がはじまり、宗教界が分裂して対立が始まると、1522年秋にジッキンゲンとフッテンは同郷の没落騎士を率い、ルターを奉じてカトリック教会を駆逐すると称して、近隣のトリーア大司教領に攻めかかった。しかし、翌1523年春に周辺諸侯によってすぐに鎮圧された。

この戦いについての評価は立場や時代によってさまざまで、単なる金目当てのフェーデ(私闘)にすぎないものだったというものから、プロテスタントによる性急過ぎる宗教改革、封建制度におけるドイツ騎士の生き残りをかけた領地争い、ドイツ農民戦争の序章、ドイツ民族の自立と統一に殉じた先駆者の英雄譚、といった解釈が行われている。
背景[ソースを編集]
フェーデと永久ラント平和令[ソースを編集]

神聖ローマ帝国では、15世紀に国政改革が進められ、帝国支配に関する法制度の整備が行われた。1495年にマクシミリアン1世が定めたラント平和令(永久ラント平和令(ドイツ語版、英語版))によって、この制度は一定の完成をみた。この平和令は帝国内の諸々の自立勢力と皇帝が取り交わした協約の形をしており、帝国内には法と秩序に基づく支配体系が確立されるとともに、諸勢力によって構成される帝国議会の位置づけが明確にされた[3][4]

「ラント平和令」というものは、1495年以前にも度々発布されたものである。そのもともとの趣旨は、神聖ローマ帝国内における「フェーデ」(私闘)を禁じるためのものだった。フェーデというのは合法性をもつ決闘の一種で、元来は適切な手続きによって問題解決を武力で行う権利(フェーデ権)であったが、やがて身代金目的の誘拐や略奪の方便として横行するようになった。これを禁止するために「ラント平和令」がしばしば発布されたのだが、実際にはあまり効果はなかった[注 1]。1495年の「永久ラント平和令」は、この措置を恒久化しようという名目で結ばれたものだった[7][4]。これにより帝国内の司法権が確立され、その司法権を維持するために各領邦君主の権利や義務が法制化されたのだった[4][注 2]
大諸侯の成長と騎士の没落[ソースを編集]

永久ラント平和令により、大衆を直接支配し、税を徴収したり徴兵を行ったりするのは領邦(世俗諸侯である領邦君主や聖界諸侯である大司教など)や帝国自由都市が担うことになった。この意味で、帝国の直属下にあるのは領邦であり、大衆は間接的な臣民ということになった[8]。この制度が出来上がるまでには有力な諸侯の意向が働いており、大諸侯ほど有利に領邦国家を形成していったのに対し、中小諸侯の力は弱められていった[4]。とりわけ下級貴族である騎士層の身分の取り扱いはあいまいで[8]、彼らは「帝国騎士(ドイツ語版)(ライヒスリッター)」と位置づけられて帝国直属ではあるようだったが[9][10]、きちんと定められていなかった[8]。彼らは帝国直属の身分であるにもかかわらず、帝国議会の票決権も有していなかった[10][注 3]。オーベルライン(ドイツ語版、英語版)と呼ばれるライン川の上流域、すなわちドイツの南西部は、とりわけこうした帝国騎士や小領邦が多かった[10][注 4]

この時代には、火薬の登場に代表される技術の進歩と発展によって戦術が大きく変わった[12]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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