馬の毛色
[Wikipedia|▼Menu]

馬の毛色(うまのけいろ)とは、の個体識別要素の一つで、体毛や肌の色、模様のことを指す。
概要

馬の毛色は複雑に見えるが、何れもユーメラニン(真正メラニン)とフェオメラニンの量と微細構造、メラニン細胞自体の数や分布によって表現される肌や毛の色にすぎない。

馬は自然界では肉食動物の標的にならないよう目立たない毛色が望ましく、目立つ毛色の馬は淘汰されてしまう関係にあった[1]。しかし、馬の家畜化によって飼主となった人間が珍しい毛色の馬も珍重するようになり、馬が家畜化されるようになった6000年前頃から毛色の多様化がみられるようになった[1]

は太古からこれらの中にいくつかのパターンを見出し、鹿毛、栗毛などと呼んできた。馬の個体識別に非常に有用であり、多くの場合血統登録時に記載が義務付けられる。
化学的性質

体毛の色はメラニンによるものである。メラニンには、黒色から茶褐色のユーメラニン(真性メラニン)と、赤褐色から黄色のフェオメラニンの2種類がある。色の濃淡はユーメラニンにより決定され、黄色み・赤みはフェオメラニンに左右される。つまりユーメラニンが多ければ毛色は黒色に近付き、フェオメラニンが多ければ暖色に近付く。フェオメラニンは赤褐色の色素であるが、濃度が低いと黄色や象牙色を呈する。つまり、体毛の黄色み・赤みは同一の色素によるものである。ほとんどの馬はこれらの2種類の色素を混合して持っている。

フェオメラニンはユーメラニンよりも化学的に安定しており、体毛が酸化された場合にはユーメラニンから先に破壊されていく。長毛の先の色が薄いのはこのためで、季節による体毛の僅かな変化もユーメラニンの分解による。
体色決定メカニズムメラニン細胞中の各メラニン合成量の模式図(上から鹿毛、栗毛、青毛)
メラニン合成の基本

メラニンを合成する細胞であるメラニン細胞は、アミノ酸の一つチロシンを出発物質とし、いくつかの段階を経てメラニンを合成している。メラニン合成の詳細は以下のとおりである。

まず、チロシンがチロシナーゼによって酸化され、ドーパ、ついでドーパにもチロシナーゼが作用しドーパキノンへと変化する。ドーパキノンは不安定な物質であり、自発的にドーパクロムインドールキノンへと変化し、最終的にこれらが酸化重合しユーメラニンとなる。また、ドーパキノンはシステインと重合することで、システイニルドーパを経てフェオメラニンの合成にも使用される。

このメラニン合成の最終段階であるドーパキノンから2つのメラニンの合成量は、細胞内のcAMP(サイクリックAMP)濃度が深く関与する。途中の制御機構はかなり複雑だが、省略して簡単に説明すると、cAMP濃度が高いときユーメラニンの合成が増加し、フェオメラニンの合成は抑制される。逆にcAMP濃度が低下すればフェオメラニンの合成量が増加する。
毛色の決定

少なくとも数十の遺伝子が馬の毛色の決定に関わっている。このうちアグーチシグナリングタンパク(ASIP:agouti-signalingprotein)遺伝子、メラニン細胞刺激ホルモンレセプター(MC1R:melanocortin-1-receptor)遺伝子の2つについてはよく研究されている。

MC1Rは細胞内のcAMP濃度を調整することで間接的にメラニン合成に関与する。MC1Rにメラニン細胞刺激ホルモン(MSH:melanocyte-stimulating hormone)が結合することによってGタンパク質を経てアデニル酸シクラーゼが活性化、ATPからcAMPが合成され、最終的にユーメラニンの合成が促進される。

対して、ASIP濃度が高いとMSHとMC1Rの結合が阻害され、cAMPが合成量が低下する。よってフェオメラニンの合成へと傾く。なお、ここまでの過程は多くの動物で共通している。

馬の毛色のうち少なくとも鹿毛、青毛、栗毛を上記メカニズムで説明できる。野生型、つまりMC1R、MSH、ASIP何れもバランスが取れている場合、ユーメラニンとフェオメラニンが適度に合成され茶色っぽくなる。さらに馬のアグーチ遺伝子は四肢・長毛では転写量が低く制御されているため、これらの部位ではASIPが合成されずユーメラニン優位の黒色になる。この状態は鹿毛と呼ばれる。

また、仮にASIPの活性を欠く場合、MSHによりMC1Rが過剰に活性化され、全身ユーメラニンによる真っ黒になる。これは青毛と呼ばれる。一方、MC1Rが変異するなどして活性を失った場合、ユーメラニンよりもフェオメラニンの合成に傾き、のような色になる。同時に、MC1Rを欠くとASIPによる模様もつかないため、全身が一様に着色する。つまり栗毛となる。
毛色に関連する主な遺伝子

KITMATPSTX17DUN[2]MC1RASIP
W / -・・・・・白毛
SB1 / SB1・・・・・白毛
w / wCcr / Ccr・・・・佐目毛
w / wC / -G / -・・・芦毛
Rn/Rn, Rn/wC / -g / g・・・(粕毛の要素を追加)
w / wC / Ccrg / g・E / -・河原毛
w / wC / Ccrg / g・e / e・月毛
w / wC / Cg / gD / -・・薄墨毛
w / wC / Cg / gd / dE / -A / -鹿毛または黒鹿毛
w / wC / Cg / gd / dE / -At/At, At/a青鹿毛
w / wC / Cg / gd / dE / -a / a青毛
w / wC / Cg / gd / de / e・栗毛または栃栗毛

毛色に関連のある遺伝子をリストする。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:34 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef