香り米
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香り米の品種の一つ、バスマティ

香り米(かおりまい、: Aromatic Rice)とは、のうち、玄米香りを持つ品種をいう[1]。麝香米[2]、匂い米[2]、香子(かばしこ)[2]、鼠米[2]、有臭米[2]とも呼ばれる。世界的に最も高価な米として流通しており[3]、特にインドパキスタンバスマティ[4]タイカーオ・ホーム・マリ(通称ジャスミン米)が有名である。香りは米だけでなく、イネ全体から発せられ、特に開花中が強い[2]
性質

そもそも米の香りは200以上の成分によって複合的に構成されているが、香り米の有力な香気成分は2-アセチル-1-ピロリン(アセチルピロリン)である[5][† 1]。香り米ではγ-アミノブチルアルデヒドをγ-アミノ酪酸(GABA)に代謝する酵素が欠損しているため、アセチルピロリンが生成する[8]。香り米に含まれるアセチルピロリンの濃度は普通米品種の数倍から数十倍にのぼる[5]。アセチルピロリン以外にも、数種類のカルボニル化合物が香気成分として考えられている[7]。なお、香り米同士であっても品種によって微妙に香りが異なるが、その原因となる成分についてははっきりとは解明されていない[7]

香りの発現は、栽培中および収穫後の環境によって影響される。日本で行われた調査結果によると、標高が高く昼夜の気温差の大きい地域で栽培した方が香りが強い、施肥量を多くすると香りが弱くなる、出穂後30日を経過すると徐々に香りが薄くなる、高温で乾燥させると香りが失われるなどの特徴を有する[9]。また、香り米の有力な香り成分であるアセチルピロリンは米粒の外側に多く分布しているため、精白の歩合が高まるに従い香りが弱くなる[10]。しかし、環境の違いによって香りが変化する機構については未解明の部分が多い[11]

香り米の香りは、アメリカではポップコーン[3][2]ナッツのような匂いと形容される。その他、茹でた枝豆アズキ[3][2]、煎り大豆[2]スミレ[3]にたとえられる。香りの感じ方には個人差があるが、一般に香りが強すぎると嫌われる傾向があり、強い香りを「ネズミの尿の臭い」と表現することもある[2]。なお、香り米の香りは米だけでなく植物全体から発せられる。開花中は特に強い。中国三国時代の文献には、開花時に畔を通れば気付くほどの香りを放つ品種の存在が記載されている。

香り米は吸肥力の強さに特徴があり、棚田などの環境不良田であっても育成が比較的容易である[12]。ただし肥料を多くやり過ぎると香りが少なくなる傾向がある[13]。病害虫[12][14]や環境の変化[12]にも強い。一方、丈が長く倒れやすい、収量が少ないなどの短所も有している[15]
歴史

香り米が初めて栽培されたのは、紀元前4世紀に成立したマウリヤ朝統治下のインドであったとされ、高級品種として富裕階級の間で流通した[16]。当時の香り米はハゼキビのような匂いがイネ全体からしたといわれている[16]。前述のようにインド・パキスタン産の香り米バスマティは現在でも高級米として流通している[4]

中国では1世紀頃の文献に香り米を指すとみられる「香?」という言葉が登場する[16][† 2]。中国でも香り米は上流階級の間で珍重されていた[17]

日本において香り米が記載されている最古の文献は、日本最古の農書とされる『清良記』で、「薫早稲」「香餅」と記載されている[18]。『清良記』と同じく17世紀に刊行された『会津農書』にも「香早稲」「鼠早稲」との記述がみられる[19]19世紀初頭に刊行された鹿児島の農書『成形図説』によると、日本では古代から神饌[† 3]、祭礼用、饗応用に用いられてきた[19]。19世紀末に北海道庁が編纂した『北海道農事試験報告』によると、香り米は古くから不良地帯向けのイネとして知られており、北海道開拓の黎明期にも活用された[20]

日本では明治中期以降、香り米は収量が低いことや香りが鼠の尿のように感じられることがあることが問題視され、全国的に普通米奨励品種によって淘汰されていき、日本各地で細々と栽培が続けられた[16]20世紀後半になると高知県宮城県山形県宮崎県和歌山県などの地方自治体が「古代米」と銘打って付加価値商品としての販路を開拓し、生産量は増加傾向にある。また、1989年から6年間にわたって進められた農林水産省によるプロジェクト研究「スーパーライス計画」に基づいて品種改良が促進された[21]
利用法調理した香り米(バスマティ)

として調理されるのが最も一般的な用途である[22]。香りの強い品種(ヒエリ、ハギノカオリなど)は香りのない米などに3?7%程の割合でブレンドして調理される[3]。香りの弱い品種(バスマティ、サリークイーンなど)についてはブレンドされず調理される[23]

古米に香り米をブレンドすると、古米がもつ匂いを隠す効果が得られる[24]。バスマティやサリークイーンなどのアミロース含量の高い品種は、カレーピラフに適しているとされる[25]。インドにおけるバスマティの調理法としては、塩と油のみを入れて炊く他、油で炒めてから香辛料や具を入れてプラーオ(ピラフ)やビリヤニにするのが一般的である。キールというライスプディングにも用いられる。日本の奈良県では茶粥にして食する習慣もある[26]。日本ではその他にレトルト食品への利用[26]や、米菓への加工も行われている[26]

サフランで黄色く染めたバスマティで作るピラフは、インドにおいて最高級の食事とされ[25]、パキスタンやイランにも見られる[27]


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