飛行船
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「飛行船」のその他の用法については「飛行船 (曖昧さ回避)」をご覧ください。

飛行艇」とは異なります。
ツェッペリンNT飛行船USSロサンゼルス号
1924-1932年頃のニューヨーク市南マンハッタン上空

飛行船(ひこうせん、英語: airship)は、空気より比重の小さい気体をつめた気嚢によって機体を浮揚させ、これに推進用の動力や舵をとるための尾翼などを取り付けて操縦可能にした航空機(軽航空機)の一種である。
概要

機体の大部分を占めるガス袋(気嚢)に水素もしくはヘリウムが充填されている。通常、ガス袋は空気抵抗を低減させるため細長い形状をしており、乗務員や旅客を乗せるゴンドラや、エンジンおよびプロペラなどの推進装置が外部に取り付けられている。機体後部には尾翼があり、方向安定を得るとともに取り付けられた舵面を動かして船体の方向を変える。

20世紀前半には大西洋横断航路などで旅客運行に従事していたが、1937年に発生したヒンデンブルク号爆発事故を契機に水素利用の飛行船の信頼性は失墜し[注 1]、航空輸送の担い手としての役割を終えた。その後、広告宣伝用や大気圏の観測用等として、不燃性のヘリウムガスを利用した飛行船が小規模に使われている。
呼称

飛行船は英語では Airship (エアシップ)、ドイツ語では Luftschiff (ルフトシッフ)と言い、フランス語では  Dirigible (デリジャブル、ディリジャブル)という[1][2]。フランス語の Dirigible という単語は、もともとは「操縦できるもの」という意味である[3]。日本語ではもともと「飛行船」という言葉はなく、1909年(明治42年)頃には飛行船に相当するものは「飛行気球」あるいは「遊動気球」と呼ばれた[1]。1914年(大正3年)になると「航空船」という名称が用いられるようになり、大日本帝国海軍で航空船を運用する部隊は航空船隊と呼ばれた[1]。その後、1928年(昭和3年)に、航空母艦による「航空戦隊」の創設が決まり、同じ読み仮名となるのを避けるために航空船隊が飛行船隊に改称された[1]。これに伴い航空船は「飛行船」と呼ばれることとなった[1]
飛行原理

飛行船は、周囲の大気より軽い浮揚ガスを用いて空中に浮揚する[4][5]。船体内の浮揚ガスの重さと、船体が押しのけた大気の重さの差から、重力を上回る浮揚力を得る[4][5]。この浮揚力は、いわゆるアルキメデスの原理による浮力であり、静的浮力(静的揚力ともいう)と呼ばれる[5]。静的浮力はエネルギーを消費することなく得られ、その大きさは、飛行船が飛行していても、空中に静止していても同じである[5]

飛行船に働く浮力は、静的浮力の他に、動的浮力(揚力)もある[6]。揚力は、物体の周りを流体が流れる時に発生する力であり、飛行機は翼に働く揚力によって飛行する[6]。飛行船においても、船体に迎え角をつけて飛行することで揚力を得る場合がある[6]
構造様式による分類

飛行船の分類は、浮揚ガスを収めるガス袋を直接船体とする加圧式と、船体の中に別にガス袋を設ける非加圧式に分けられる[7]。飛行船は、構造様式によって軟式、半硬式、硬式に大別され、その他に全金属式や準硬式と呼ばれるものもある。
軟式飛行船詳細は「軟式飛行船」を参照

軟式飛行船(以下、軟式船)は、船体がエンベロープと呼ばれるガス袋でできている[8][9]。エンベロープはガスが漏れないよう加工された膜材で構成され、その内部に浮揚ガスが充填される[10]。エンベロープの形状は内部のガス圧により保たれる[9]。初期の飛行船は気球から直接発展し、基本的に軟式であった[8][9]。21世紀初頭における飛行船は、ほとんどが軟式である[9]

重量やコストの面で有利であり、現代の飛行船はほとんどがこのタイプである。しかし、ガスの放出によって圧力が弱まると船体を維持できなくなる。突風などによって船体が変形するとコントロールを失ってしまう。また、一旦気嚢に穴が開くとガスの漏出が全体に影響するなどの欠点もある。また、船体の剛性が確保できなくなるため大型化に適しない。
半硬式飛行船詳細は「半硬式飛行船」を参照

半硬式飛行船(以下、半硬式船)は、エンベロープの下側に沿ってキール(竜骨)を取り付けたものである[9][11]。軟式船のエンベロープは、上側に張力、下側に圧縮力が作用し、船体が「へ」の字型に折れる傾向がある[11]。これを防ぐため、船舶と同様にエンベロープの下部にキールを設けることで船体形状を維持し、大型化を可能とした[9][11]

イタリアで開発された『ノルゲ号』や『イタリア号』などが半硬式船である[12]

半硬式の利点として、硬式よりも骨格が少なく軽量化できるにもかかわらず、硬式飛行船と同様に大型化が可能であること、硬式同様に枠組みにエンジンや船室を取り付けられるので設計に柔軟性があり制約が少ないことがある。たとえばエンジンと船室を離れた場所に設置できるので、船室内の環境が快適である利点がある。
硬式飛行船「ツェッペリン」も参照

硬式飛行船は、アルミ合金や複合材料といった軽量な部材により籠のように船体骨格を組み立てて、これにピアノ線などを張って補強を加え、船体に強度を持たせる[13]。骨格は肋材(フレーム)と縦通材で構成され、それを外皮で覆うことで船体形状を維持する[11][14]。船体内部のガス袋は、十数個に分割されている[11]

金属製の枠組みにより船体の重量が増加する欠点があるが、船体の強度が高くなるため大型化、高速飛行が可能。ツェッペリン号の最高速度は135km/h。

特にツェッペリン伯爵製作による一連の飛行船が有名であり、「ツェッペリン」は硬式飛行船の代名詞となった。しかし、船体が頑丈といっても強風や荒天に耐え切れるほどではなく、悪天候による「難破」事故も多発している。また航空機の進歩により大型飛行船の存在意義自体が消滅したため、21世紀現在では生産・運用はされていない。
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この節の加筆が望まれています。

エンベロープを膜材でなく薄いジュラルミンの板で構成した飛行船は、全金属飛行船(以下、全金属船)またはメタルクラッド飛行船と呼ばれる[15]。アメリカ海軍が運用したZMC-2が全金属船である[11]

ZMC-2は1929年に初飛行し、1941年に運用を終了し解体された[16]
準硬式飛行船

20世紀末に開発・初飛行したツェッペリンNTは、膜製のエンベロープを持ち、その内部に骨格を備える[17]。骨格はキールではなく、三角形のフレームと縦通材で構成される[18]。当初は準硬式の用語が無くツェッペリンNTを半硬式船と分類していたが、ツェッペリンNTの構造は従来の半硬式船とは異なることから、準硬式飛行船と呼ばれている[18][9][11][注 2]
歴史伊土戦争にてリビアを爆撃するイタリア王国陸軍航空隊(世界初の航空爆撃)「航空に関する年表」も参照

1852年9月23日 - フランスアンリ・ジファールによって蒸気機関をつけた飛行船の試験飛行が成功。出力3馬力、時速8キロメートル。

1884年シャルル・ルナールとA・C・クレプスによる初の電動飛行。塩化クロム電池と9馬力電動モーターを使い、7.5キロメートルを23分間で飛んだ。

1897年にはユダヤ系オーストリア人ダーフィット・シュヴァルツによって、硬式飛行船が試作された。ツェッペリンはシュヴァルツの家族から特許を購入する。
ツェッペリンの飛行船 (1900)

1891年ドイツでは、フェルディナント・フォン・ツェッペリン伯爵が退役後に独力で硬式飛行船の開発に乗り出し、1900年には飛行に成功。1909年にはドイツ海軍に飛行船を納入し、1911年にはドイツ国内民間航路(ヴィルヘルムスハーフェン - ベルリン)を開設した。ツェッペリン伯爵の成功によりツェッペリンは飛行船の代名詞となった。

1901年フランスで硬式飛行船ルボーディT号が完成。初の操縦可能な飛行船として成功を収めて軍から高く実用性を買われ、実質的な飛行船実用化の確立に至った。

1911年9月20日に、山田猪三郎が開発した山田式飛行船が東京上空一周飛行に成功した。

第一次世界大戦においては、ドイツ軍により軍用飛行船が用いられ、ロンドン空襲などを行った。

第一次世界大戦後、ツェッペリン伯爵の跡を継いだエッケナーは、ツェッペリン飛行船を使った長距離・国際的な民間航路の開設に乗り出した。

1924年に大陸縦断航路(ストックホルム - ベルリン - ローマ - カイロ - ケープタウン)を開設。

1925年に太平洋横断航路(上海 - 霞ヶ浦 - サンフランシスコ)開設


1926年にノルウェーの探検家アムンセンがイタリア製の飛行船ノルゲ号で北極を横断。

1929年にはツェッペリン伯爵号が世界一周飛行を行い、当時の飛行機の限界をはるかに超える長距離・長時間の飛行性能を見せ付けた。ドイツは第一次世界大戦の敗戦国ではあったが、飛行船の製造および運用技術ではアメリカやイギリスなどを引き離していた。

1930年10月5日早朝、イギリスの飛行船R101がフランス北部のボーヴェにて墜落。乗員乗客48名が死亡(生存者6名)した。以後、イギリスは飛行船計画を全面的に破棄した。

1933年 アメリカ合衆国ニューイングランド沖合にて、アメリカ海軍の硬式飛行船アクロン号が墜落。乗員73名が死亡(生存者3名)する、飛行船史上最悪の死亡事故となった。

1937年に大西洋横断航路に就航していたドイツのヒンデンブルク号が、アメリカ合衆国ニュージャージー州レイクハースト空港に着陸する際に、原因不明の出火事故を起こし爆発炎上。この事故の後、航空機固定翼機)の発達もあり、民生用飛行船は使われなくなっていった(→ヒンデンブルク号爆発事故)。


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