顔料
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粉末状の天然ウルトラマリン顔料合成ウルトラマリン顔料は、化学組成が天然ウルトラマリンと同様であるが、純度などが異なる。

顔料(がんりょう、pigment)は、着色に用いる粉末でに不溶のものの総称。着色に用いる粉末で水や油に溶けるものは染料と呼ばれる。

特定の波長を選択的に吸収することで、反射または透過するを変化させる。蛍光顔料を除く、ほぼ全ての顔料の呈色プロセスは、自ら光を発する蛍光燐光などのルミネセンスとは物理的に異なるプロセスである。

顔料は、塗料インク合成樹脂織物化粧品食品などの着色に使われている。多くの場合粉末状にして使う。バインダー、ビークルあるいは展色剤と呼ばれる、接着剤溶剤を主成分とする比較的無色の原料と混合するなどして、塗料やインクといった製品となる。実用的な分類であり、分野・領域によって、顔料として認知されている物質が異なる。

顔料の世界市場規模は2006年時点で740万トンだった。2006年の生産額は176億USドル(130億ユーロ)で、ヨーロッパが首位であり、それに北米アジアが続いている[1]。生産および需要の中心はアジア中国インド)に移りつつある。
呈色の物理学的原理様々な波長(色)の光が顔料に当たる。この顔料の場合、赤と緑の光は吸収され、青い光だけを反射するため、青く見える物体として図示されている。ただし、現実の顔料はこのように単純ではなく、光線自体に分光特性は存在しても色がある訳ではないし、三原色として機能する絶対的な光も存在しない。

顔料は特定の波長の光を選択的に反射または吸収するため、色があるように見える。白色光は可視光スペクトル全体をほぼ均等に含んでいる。この光が顔料に当たると、一部の波長は顔料に吸収され、他の波長は反射される。この反射された光のスペクトルが人の目に入ると色として感じられる。単純に言えば、青い顔料は青い光を反射し、他の光を吸収する。顔料は蛍光物質や燐光物質とは異なり、光源の波長の一部を吸収して除去するだけであり、新たな波長の光を追加することはない。

顔料の見た目の色は、光源の色と密接に関連する。太陽光は色温度が高くスペクトルも均一に近いため、標準的な白色光と見ることができる。人工的な光源にはスペクトルになんらかのピークや谷間がある。そのため、太陽光の下で見たときとは色が違って感じられる。

色を色空間で数値的に表す場合、光源を指定しなければならない。Lab色空間の場合、特に指定がない限り D65 と呼ばれる光源で測定したと仮定される。D65とは "Daylight 6500 K" の略で、ほぼ太陽光の色温度に対応している。

色の濃さや明るさといった属性は、顔料と混ぜ合わせた別の物質によっても変わってくる。顔料に加える展色剤や充填剤もそれぞれに光の波長の反射・吸収のパターンを持ち、最終的なスペクトルに影響を与える。同様に顔料を混ぜる量によっては、個々の光線が顔料粒子に当たらずに反射されることもある。このような光線が色の濃さに影響する。純粋な顔料は白色光をそのまま反射することはほとんどなく、見た目の色は非常に濃いものとなる。しかし大量の白い展色剤などと少量の顔料を混ぜると、色は薄くなる。
顔料の化学的分類

顔料にはその組成から、無機顔料と有機顔料の2種類に大別される。無機顔料は、有史以前から使われていた鉱物の加工品である天然無機顔料と、化学的に合成された合成無機顔料に区別可能である。有機顔料は、藍玉のように植物から採った不溶性を示す染料前駆体をそのまま顔料として使用するものと、植物や動物から抽出される染料をレーキ化させたものが古くからある。現在工業的に使われているものの大半は石油工業によって成立する合成有機顔料である。合成有機顔料には化学構造自体が不溶性を示すもの(不溶性色素)と、水溶性の合成染料を不溶化させたレーキ顔料(lake, lake pigment)がある。

それぞれの顔料にはカラーインデックスによって分類番号および分類名が付与されている。例えば、二酸化チタン(チタン白)のColour Index Generic Name[2] はPigment White 6、Colour Index Constitution Number[3] は77891である。
無機顔料

無機顔料は大別して天然鉱物顔料と合成無機顔料に分類される。有機顔料に比べてはるかに生産量が多いため、日本工業規格(JIS)では特に生産量の多い12品目を統一規格の対象として規定している。

古来、顔料は油脂類を燃やした際のを使用した黒色以外は自然の鉱物を粉砕したものが主体であった。黒色の煤は現在カーボンブラックと呼ばれ、非常に多様な用途に使用されている。書道で使うの高級品は昔ながらの油煙(ランプブラック)を使うが、一般的には天然ガス石油を不完全燃焼させて作ったファーネスブラックが使用されている。また絵具では植物を燃やしてつくった植物性黒動物を燃やしてつくった骨炭も使われている。ラピスラズリを使ったウルトラマリン青孔雀石を使った緑青などは高価であり、高級な絵画や装飾物に使用された。赤色弁柄天然酸化鉄赤)や辰砂(硫化水銀)が使われた。

現在工業的に使用されているものは、アンバーシェンナといった天然土由来の褐色顔料や、炭酸カルシウム色)、カオリン(粘土、淡色)などが多い。これらの天然鉱物顔料のうち、淡色ないし無色の顔料は、淡色の塗色を作るときに使われる。また、レーキ顔料の製造における担体としても使われる。特殊な例として白色雲母を粉砕して使うパール顔料(真珠様光沢を有する)がある。天然鉱物顔料は今日では顔料工場にて微粉砕されており、使用目的に応じた化学的処理を受けて出荷されている品種も多い。

化学的に合成された純然たる合成無機顔料は、1704年にドイツで合成された紺青(プロシア青)以来、数多くの品種がある。白色顔料は今日ではチタン白(二酸化チタン)や亜鉛華(酸化亜鉛)が使われており、古くから白粉に多用され中毒を起こして問題になっていた鉛白油絵具以外には使われなくなった。代表的な合成無機顔料としては他に合成酸化鉄赤、カドミウム黄ニッケルチタン黄ストロンチウム黄含水酸化クロム酸化クロムアルミ酸コバルト、合成ウルトラマリン青等がある。無機顔料は一般的に有機顔料に比べると着色力、鮮明さ、透明性に欠けるが、耐光性が良く塗料などに多用される。銀色金色(銀色を黄色く着色したものが多い)の塗料やインクに使われるアルミニウム粉も無機顔料である。なお、陶磁器に使われるセラミック顔料も、無機化合物でありかつ顔料であり、無機顔料である。
日本工業規格で規定されている顔料


白色顔料:亜鉛華、鉛白、リトポン、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウムおよびバライト粉

赤色顔料:鉛丹酸化鉄赤

黄色顔料:黄鉛亜鉛黄(亜鉛黄1種、亜鉛黄2種)

青色顔料:ウルトラマリン青、プロシア青(フェロシアン化鉄カリ)、YInMnブルー

黒色顔料:カーボンブラック

有機顔料Pigment Red 170
青味赤のモノアゾ顔料

有機化合物を成分とする顔料を有機顔料と呼称する。有機顔料はその化学構造から大きくアゾ顔料と多環顔料に類別されるのが普通であるが、色相によっても区分することもあり、不溶性色素とレーキ顔料に分類されることもある。有機顔料は構造中に不飽和二重結合を有し、共鳴エネルギーを光から吸収して安定する。この特定吸収波長域が可視光域(380-780 nm)の一部にあると、顔料を通過または結晶中で反射した光は、それ以外の波長で構成される色の着いた光となる。

主に、多環顔料(polycyclic pigment)、アゾ顔料の2種類がある。一般に、アゾ顔料は多環顔料に含めない。一般に、有機顔料は高分子化すると耐久性が高まるが、コストの上昇や分散性の低下などのデメリットを伴う。このため、低分子であっても高い耐久性を有し、鮮明なものを求める研究がされる。

アゾ顔料の中心となる窒素同士の結合は、鮮明な化合物を生じるが、耐久性に難がある為に、耐久性の高い構造を組み込むなどして耐久性の高い顔料にする工夫が知られている。

顔料として使用出来る植物由来のや、マダーレーキに代表されるアントラキノンレーキ顔料のように、植物や動物から採取した染料をレーキ化した顔料もある。ただし、今日使われている有機顔料の多くは、石油由来の原料に石油化学的加工を重ねることによって製造したものである。


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