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頚椎症(頚部脊椎症、cervical spondylosis)とは、頚椎の椎間板、ルシュカ関節、椎間関節などの適齢変性が原因で、脊柱管や椎間孔の狭窄をきたして症状が発現した疾患である。そのうち脊髄症状を発現した場合を頚椎症性脊髄症、神経根症が発現した場合は頚椎症性神経根症とよぶ。神経根症では主に一側性に痛みやしびれが生じる。[1] 頚椎症は神経根症と脊髄症、およびその混合型に大別される。神経根症では初発症状で疼痛が顕著であり、首の痛み、肩こり、上肢の痛み、しびれ、感覚鈍麻が見られる。 脊髄症では初発症状がしびれの場合が多く、しびれ、感覚鈍麻のほか、手指の動きのぎこちなさ(巧緻運動障害)、筋力の一時的急低下、歩きにくさ(歩行障害)などを訴えることが多い。また排泄障害を呈することもある。 まずは首の姿勢、即ち首下がり症候群や斜頚の有無を確認する。関節可動域制限、C2などに圧痛がないか、叩打痛などがないかを確認し、神経学的所見の有無を確認する。 ジャクソン試験は神経根刺激症状をみる検査である。頚椎をやや後屈位にし、頭部を下方に圧迫すると患側の肩、および上肢に放散痛が生じる。なお、一般的には上肢への放散痛が生じるとされるが、実際にはそのような典型例は少なく、頚部痛・肩甲部痛のみが誘発されることも多い。試験者に上肢(腕)に放散痛があるか尋ねられ、肩甲部痛のみで上肢の放散痛がないことから否定の回答をしてしまうことがあるが、肩甲部痛が生じたことを伝えることが重要である。ジャクソンテスト陽性の場合、神経根症の疑いがある。 スパーリング試験は神経根刺激症状を見る検査である。頚椎を患側へ後側屈させ軸圧を加えると椎間孔が狭窄されて疼痛が症状側の上肢にはしる。これも、一般的には上肢放散痛が生じるとされるが、実際にはそのような典型例は少なく、頚部痛・肩甲部痛のみが誘発されることも多い。肩甲部痛のみの場合であっても、症状が誘発された旨を伝えることが重要である。スパーリングテスト陽性の場合、神経根症の疑いがある。 レルミット徴候は仰臥位で頭部を他動的に前屈させる。背部から下肢に電撃痛が走った場合は陽性であり、脊髄症の疑いがある。 10秒試験は巧緻運動障害の有無を調べる検査である。グーとパーを繰り返す動作を10秒間で何回できるか数える。20回以下では巧緻運動障害ありと考える。 アドソン試験は鎖骨下動脈の圧迫を調べる検査である。 簡便に調べるには以下のような手順でスクリーニングする。まずはバンザイの動作をして肩周囲の筋力と肩の関節可動域を確認する。次に抵抗下で肘の曲げ伸ばしでC5とC7の筋力を確認する。手首の背屈でC6の筋力を確認する。そして握力計で握力を測定する。 頚部神経根症の多くは頚部痛や一側上肢の痛みやしびれが主訴になる。スパーリング徴候が重要な手がかりになるが、そのような所見がなければ神経症状が単一神経根症として説明できるか、画像診断で圧迫因子が証明できるかが診断のポイントとなる。上肢ではデルマトームに重なりや個人差が多いためミオトームの信頼性が高い。 神経根C5C6C7C8 C4/C5が罹患椎間となる。肩外転筋(三角筋、棘上筋)と肩外旋筋(棘下筋、小円筋)の筋力低下や筋電図異常が認められる。それよりも程度が軽いものの、肘屈筋(上腕二頭筋、腕橈骨筋)の筋力低下と筋電図異常が認められる。上腕二頭筋反射と腕橈骨筋反射が消失する。鑑別としては肩挙上障害をおこす神経疾患として副神経麻痺と長胸神経麻痺がある。 C5/C6が罹患椎間となる。円回内筋の筋力低下と筋電図異常がC6神経根症を示唆する。その他の症状はC5神経根症類似の場合とC7神経根症類似の場合がある。 C6/C7が罹患椎間となる。頚部神経根症で最も多く見られる。上腕三頭筋、手根屈筋、総指伸筋が選択的に筋力低下や筋電図異常を示し、上腕三頭筋反射の低下や消失があればC7神経根症の可能性が高い。なお、主にC7神経根症において大胸筋の痛みを訴えることがある。これは頚性狭心症(cervical angina)と呼ばれ、心臓そのもの(胸部中央)ではなくむしろ左右いずれかに偏った胸部に痛みが生じる。 C7/Th1が罹患椎間となる。頸椎手術後に起こりやすい。総指伸筋、指屈筋、手内筋の筋力低下や筋電図異常が特徴である。下垂指を示すことがある。 正中神経障害では感覚障害は手首より遠位部の掌側に限局し、第4指は橈側半分が障害される。C6?C7根症では手首より前腕の方に感覚障害の分布が広がっており手背部も障害される。 尺骨神経障害では感覚障害が手首より遠位部第4指の尺側と第5指の掌側と背側が障害される。C8?T1根症では手首より前腕に感覚障害が広がっている。 神経学的診断を補うものとして画像検査がある。画像検査はしばしば無症候性ヘルニアを描き出すため、画像検査を過度に重視することはかえって誤診を招く恐れがある。必ず神経学的診断や他の検査を総合して診断を下さなければならない。画像検査にはX線撮影、CT、MRI、ミエログラフィーが知られている。また、画像検査と疼痛再現検査を兼ねるものとして神経根造影ブロック検査や椎間板造影検査がある。神経症状がある場合はすみやかにMRI撮影を行う。痛みのみの場合は必要に応じて行う。 薬物治療、注射治療、装具療法、理学療法、神経ブロック、手術療法が知られている。 消炎鎮痛薬 疼痛が存在する部位が明らかな場合はトリガーポイント注射を行う。生理食塩水100ml+ノイロトロピンR1A+メチコバールR1Aや痛みが強い場合はデカドロンR2?4mgを投与する。このほか神経根造影ブロックは治療と検査の両方を兼ねるもので、疼痛が顕著で神経根症が疑われる場合責任高位の同定に有益である。 首が痛みで動かせない場合は頚椎カラーを用いて頚椎の安静をはかる。 急性期には行わないが1週間程度経過し症状が落ち着いたら理学療法を行う。頚椎牽引、温熱療法、ストレッチなどがある。 体重の1/6から開始し8?15Kgまでを目安にする。 肩すくめ、胸はり、首の回旋などの指導を行う。 慢性炎症の消炎に効果がある。 頚椎後方手術としては頚椎症性脊髄症に対する片開き式脊柱管拡大術が知られる。頚椎前方手術としては頚椎椎間板ヘルニアに対する前方除圧固定術が知られる。
症状
身体所見
Jackson test(head compression test)
Spurling test(foraminal compression test)
Lhermitte sign
ten second test
Adson test
筋力試験
代表的な神経根症
腱反射(上腕二頭筋反射低下)上腕二頭筋反射低下上腕三頭筋反射低下(上腕三頭筋反射低下)
筋力低下三角筋筋力低下(上腕二頭筋筋力低下)上腕二頭筋筋力低下上腕三頭筋筋力低下(上腕三頭筋筋力低下)、小手筋筋力低下
感覚障害肩周辺母指、示指示指、中指薬指、小指
C5神経根症
C6神経根症
C7神経根症
C8神経根症
重要な鑑別
正中神経傷害とC6?7神経根障害の鑑別
尺骨神経障害とC8?T1神経根障害の鑑別
検査
頚椎X線撮影、骨破壊
治療
薬物治療
注射治療
装具療法
理学療法
頚椎牽引
ストレッチ
温熱療法
神経ブロック
手術
頚椎前方到達法 全身麻酔下で、仰臥位(仰向けの姿勢)で手術を行う。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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