『預言者』(よげんしゃ、仏: Le Prophete、『予言者』と表記されることもある)は、ジャコモ・マイアベーアによる5幕のグランド・オペラである。初演はパリ・オペラ座(サル・ペルティエ)で1849年4月16日に行われた。ミュンスターでのアナバプテスト(再洗礼派)の蜂起(1534年 - 1535年)を素材にしているが、史実とは大きく異なる。ジャン・ド・レドのモデルはオランダ人の宗教家であるヤン・ファン・ライデンで、彼は16世紀の神聖ローマ帝国で発生したミュンスターの反乱の指導者の一人であり、ミュンスターの王に即位して独自の千年王国を築こうとしたが、敗北し処刑された。
作曲の経緯アリ・シェフェールによるポーリーヌ・ヴィアルド(1840年), パリ市立ロマン主義博物館所蔵
マイアベーアは『悪魔のロベール』(Robert le Diable, 1831年)でグランド・オペラを確立し、この形式のプロトタイプとなった『ユグノー教徒』(Les Huguenots, 1836年)の圧倒的な成功により、経済的にも急いで新作を投入する必要には迫られていなかった。コルネリー・ファルコン(ソプラノ)やジルベール・デュプレ(テノール)といった有力な歌手たちがそのピークを越えたため、歌手選びに長い時間を要することになった。結局フィデス役は、パリ・イタリア座で活躍していたポーリーヌ・ヴィアルドのために創られることとなった。ジャン役はオペラ・コミック座のベテランであるギュスターヴ=イポリット・ロジェを起用することにしたが、スタミナの衰えを危惧して、出番を削っている。
序曲のフルスコアはリハーサル時にカットした際にシャルル=ヴァランタン・アルカンに与えたため失われ、ピアノ4手連弾編曲譜だけが現存していると長らく考えられていた。しかし、1990年代初めに序曲の手稿がパリのフランス国立図書館で発見され、その後パート譜もパリ・オペラ座で発見され、2010年に新編集の総譜が出版された[1]。 長く待ち望まれた1849年4月16日の初演には、ジュゼッペ・ヴェルディ、イワン・ツルゲーネフ、フレデリック・ショパン、テオフィル・ゴーティエ、エクトル・ベルリオーズ、ウジェーヌ・ドラクロワなどが列席した。ヴィアルドのフィデス役は大当たりとなり、ヴィアルドは200回もの上演をこなした[2]。なお、この公演では第3幕で太陽が昇るシーンにおいて、オペラ史上初めて電力による照明が試みられている[3]。今日においては当然のことながら、演出史上においては画期的であり、相応のインパクトもあったものと見られる。1849年 7月24日にはロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場にて英国初演がコスタの指揮、ヴィアルド(フィデス)、エイエ、マリオ、タッリャフィーコほかの配役で行われた。1850年4月1日にはニューオーリンズのオルレアン劇場で、R・ドヴリエ、タボン=ベッサン、デュリック、スコットらの配役、指揮はE・プレヴォにより米国初演が行われた[4]。
初演