音圧
[Wikipedia|▼Menu]

音圧(おんあつ、: sound pressure)とは、音波によって生じる媒質の静圧からの変動分[1]である。大気中においては大気圧からの変動分である[2][3]。媒質中のある点の瞬間圧力が静圧から変化した分を瞬時音圧といい、ある時間内の瞬時音圧の実効値を実効音圧という[4][5]。通常は実効音圧を単に音圧という[4][6]。音圧のSI単位はパスカル(Pa = N/m2)[7]
概要

音波は、一般的には、固体、液体、気体などの媒質中を伝わる密度変化の波である[8]。液体が水である場合は特に水中音と呼ばれ、水中音響学という研究分野もある。また、固体の場合は、気体や液体のような伸縮に対する弾性だけでなく、ねじり変形と曲げ変形に対する弾性もあり、ねじり波と曲げ波も伝搬される[9]

空気中の微粒子の密度についてみると、粒子が密になった部分では圧力が増加し、疎になった部分では圧力が低下する。このような圧力の変化が伝播していくのが、空気中の音波であり、音波による大気圧からの圧力の変化が音圧である。こうした空気中の音圧の変化が耳に達すると、音がするという感覚が得られる。[8]

空気中の音波は疎密波であり、音圧は粒子密の部分では正値、疎の部分では負値をとる。音響学では、電気分野において交流電圧実効値で示すのと同様に、特段の明示がない場合でも音圧を実効値として扱うことがある[8]

単位体積毎の媒質に含まれる波のエネルギーであるエネルギー密度は、音圧(実効音圧)の2乗に比例する。これはまた、1秒間に単位面積を通過する音のエネルギーとして定義される音の強さ(単位:W/m2)に比例する[8]
定義

加えられた力に対して元に戻ろうとする力が働くという性質(弾性)を有する媒質(弾性媒質)に加えられた外力が、弾性と慣性の働きによって、媒質中の密度変化(圧力変動)として伝搬される弾性波が音波であり[10]、弾性媒質である空気中を伝わる音波が耳という器官に達して得られる感覚が音である[11]音圧の説明図
(1) 静圧状態
(2) 音が加わった状態の圧力
(a) ある時点の媒質の圧力分布
(b) ある点x0の圧力の時間的変化

音波は媒質を構成する粒子の疎密の状態を進行方向と同じ方向の振幅により伝搬する縦波であり[10]、図の(1)(2)については、それぞれ(1)音波のないとき(静圧状態(Static pressure))と、(2)音波のあるとき((1)に対して音による圧力の変化が加わったもの(Sound pressure))の、ある瞬間における音波の進む方向における媒質の疎密の状態を模式的に示したものである。

この音波による媒質の疎密の状態(図の(2))に対応して、媒質の圧力を縦軸に、音波の進行方向を横軸にとりグラフに表したものが(a)である。線の間隔が狭いほど(密なほど)圧力が高く、逆に線の間隔が広いほど(疎なほど)圧力が低い。

ここで、変動する媒質の圧力pと静圧状態p0の差、

δ p = p − p 0 {\displaystyle \delta p=p-p_{0}}

であるδpが音圧(瞬時音圧)の値であり、圧力pが静圧状態p0よりも高い時にδpが正に、圧力pが静圧状態p0よりも低いときに負となる。この波形の波長は λ (m)である。

この音波による媒質の疎密の状況は、先述のとおり、弾性と慣性の働きにより進行方向に音の速さ(音速)で伝搬していく。これをある点 x0 に着目してその時間変化を見る、すなわち縦軸に媒質の圧力(音圧)、横軸に時間を取って表したものが(b)である。

(b)に示されるような、ある点の圧力の時間的変化が周期的な音について、その周期が T (s)であるとき、音圧の実効値(実効音圧) prmsは瞬時音圧 δp の周期 T における自乗平均平方根であり以下の式で表される[7]

p rms = 1 T ∫ 0 T ( δ p ) 2 d t {\displaystyle p_{\text{rms}}={\sqrt {{\frac {1}{T}}\int _{0}^{T}(\delta p)^{2}\,dt}}}

さて、図に表されるような周期的な圧力の変動を示す音は、一定の調子をもつ音として感じられる楽音と呼ばれる[12]。こうした楽音の瞬時音圧について、その波形は基本周波数の整数倍の周波数のみをもつ正弦波(純音)[注釈 1]の合成として表される[12]。例えば、一定の周期で三角の波形が繰り返される三角波のパワースペクトルを見ると、基本周波数の3倍、5倍…と奇数次の高調波により構成されている[13]

周期的な音の波形は、上述のとおりその周期Tの整数倍の純音(正弦波)の合成により構成されるが、もとの周期的な音の音圧の実効値は、その音を構成する純音それぞれの実効音圧の2乗平均(パワー平均)の平方根に等しいという性質を持つ[14]
音圧の実効値

音圧や交流電圧のような、値が時間的に正負の間を変動する量では、単純な時間平均の値は0または0に近い値となり、変動の大きさを表すことができない。そういった量の変動の大きさを表現する値の1つが実効値である。実効値とは、時間的に大きさの変化する量の2乗の時間平均の平方根である。式で書くと、音圧pの実効値(実効音圧)prms[注釈 2]は、平均する時間をTとして、

p rms = 1 T ∫ 0 T p 2 ( t ) d t {\displaystyle p_{\text{rms}}={\sqrt {{\frac {1}{T}}\int _{0}^{T}p^{2}(t)\,dt}}}

と表される[15]。ここで、日本産業規格 JIS Z 8106:2000「音響用語」では、対象とする瞬間の音圧p(t)を瞬時音圧と定義し、また、特に指定しない限り、ある時間内の瞬時音圧の実効値prmsが音圧であると定義する[16]

波形が正弦波で表される純音など瞬時音圧が周期的に変化する音の音圧の実効値については、上述のとおり、平均する時間Tとして変化の1周期をとる[6]。これにより、どの時点から算定しても実効値は同じ値となる。また、変化の周期の整数倍の時間、無限時間でも1周期と同じ値となる。

一方、非周期の(ランダムな)波であれば、以下の式で定義される[17]

p rms = lim T → ∞ 1 T ∫ 0 T p 2 ( t ) d t {\displaystyle p_{\text{rms}}={\sqrt {\lim _{T\rightarrow \infty }{{1 \over {T}}{\int _{0}^{T}p^{2}(t)\,{\rm {d}}t}}}}}

実際には、有限長の時間で平均して近似する[18]

測定により求める場合、瞬時音圧が周期的に変動する音については、その間隔は周期の整数倍、または、周期に比べて長い間隔とし、非周期的に変動する音については、その間隔は求められた数値(音圧の実効値)が、その時間範囲中の小変化に実質的に独立であるようにするだけ長くなければならないとされる[19]
実効値の時間変化

音をサンプリングして得られた時間波形について、時間波形全体の平均をとることにより全体の実効値を算定することができるが、実効値の時間変化を算定することはできない。時間変化を得る方法としては、時間波形を分割してそれぞれ実効値を求める方法のほか、実効値検波動特性回路による方法がある[20]

実効値検波動特性回路は、(瞬時)音圧を変換した電気信号の時間波形を、2乗してRC直列回路により交直変換するものであり、アナログ回路で容易に実現することができ、また人の感覚(聴覚の時間応答)ともよく合うことから、近似的な方法であるものの広く使われている。RC直列回路におけるτ=RCのτがこの回路の特性を定めるパラメータでこれを「時定数」という[20][21]

このとき、実効値検波動特性回路の時定数がτであるサウンドレベルメータが出力する音圧レベル(後述)は、時間tの関数として、以下のように示される[22]

L p , rms ( t ) = 10 l o g 10 ( 1 τ ∫ − ∞ t p 2 ( ξ ) e − ( t − ξ ) / τ p 0 2 d ξ ) {\displaystyle L_{p,{\text{rms}}}(t)=10{\rm {log}}_{10}\left({{1 \over {\tau }}{\int _{-\infty }^{t}{p^{2}(\xi )e^{-(t-\xi )/\tau } \over p_{0}^{2}}\,{\rm {d}}\xi }}\right)}


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:59 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef