靴叩き事件
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国際連合総会に出席するニキータ・フルシチョフ(靴叩き事件3週間前の9月22日)

靴叩き事件(くつたたきじけん、英語: shoe-banging incident)は、1960年10月12日ニューヨークで開催された第902回国際連合総会において、ソビエト連邦共産党書記長最高指導者ニキータ・フルシチョフが、フィリピン代表ロレンソ・スムロンの演説に抗議して、机を靴で叩いたとされる事件[1][2][3]

実際に靴で机を叩いたか否かは説が割れている。アメリカの政治学者ウィリアム・トープマン (2003)は、フルシチョフは確かに靴を脱いだがそれで机を叩いたわけではない、という目撃者の証言を紹介している。またトープマンによれば、実際にフルシチョフが靴で机を叩いている写真や映像は見つかっていない[4]。しかしフルシチョフ自身は、自叙伝の中で机を靴で叩いたと認めている[5]。なおフルシチョフが靴を振り上げる写真が知られているが、これは既存の写真に後から靴を描き加えたフェイクである[6]
事件の概要

画像外部リンク
en:File:Khruschev_shoe_fake.jpg

英語版ウィキペディアに掲載されている、「靴叩き」フェイク画像の比較。上の画像が靴叩き事件の写真として有名であるが、フェイク画像である。下が実際の写真(1960年10月10日に国連総会で撮影され、AP通信がアーカイブしているもの)[7][8][9][10]

1960年10月12日の国連総会で、フィリピン代表団長ロレンソ・スムロンが「東欧と、市民の自由な活動と政治的権利を奪われ、飲み込まれた、そうソ連によって(それが為された)すべての人々」というフレーズを発した[11]。これを聞くやフルシチョフは演壇に駆け寄った。この行動は緊急動議の提出として認められた。彼は示威的かつ芝居がかった態度で右腕を掲げながらスムロンのわきをかすめ通り(触れることは無かった)、スムロンを「間抜け、ぼけ、下僕」「アメリカ帝国主義の追従者」などと長々とあてこすり続け[12]議長フレデリック・ボランドにスムロンを黙らせるよう要求した。ボランドはスムロンに「さらなる干渉を引き起こすことが明らかな主張へと逸れないよう」注意したものの、彼が演説を続けることは認め、フルシチョフを自席へ送り返した[13]

この時、一部の情報源によれば、フルシチョフはスムロンへの抗議を示すために拳で机を叩き始め、さらには靴を脱いで机を叩いたという[14]。他の説では順序が逆で、フルシチョフはまず靴で机を叩き、それから演壇に向かったのだとされている[15]。そのせいでスムロンの演説はまたも中断させられた。さらに東側諸国の一つルーマニアの副外相エドゥアルド・メジンチェスクも煽り立てられて緊急動議を出した。彼はスムロンに怒りを込めた非難をぶつけ、さらにはボランド議長にも矛先を向けた。メジンチェスクは挑発や侮辱、議長の軽視を続けたので、ついには彼のマイクが切られてしまった。すると東側諸国の代表たちから怒号や野次の大合唱が起きた。大混乱の中で、顔を紅潮させたボランド議長が唐突にガベルを打ち(強打するあまりガベルが壊れ、その頭が飛んで行ってしまうほどだった)、総会の休会を宣言した。フルシチョフの靴叩きを目撃したイギリス首相ハロルド・マクミランは「あれの翻訳をしてもらってもいいか?」と皮肉を言ったといわれている[16]

一連の事件はニューヨーク・タイムズ[17]ワシントン・ポスト[18]ガーディアン[19]タイムズ[20]ル・モンド[21]など数々の新聞で報じられた。ニューヨーク・タイムズはフルシチョフとアンドレイ・グロムイコが写った写真を掲載しているが、この写真でフルシチョフの机の上に靴が乗っているのが確認できる[22]
フルシチョフの回想と検証

フルシチョフは自身の回顧録の中で、自分がスペインフランコ体制に強い非難を加えていた時に靴叩きをしたと追想している。彼によれば、国連総会でスペイン代表がフルシチョフの非難に回答して席に戻ろうとするとき、社会主義国の代表たちから激しい抗議の声が上がった。「ロシア(帝国)の国家ドゥーマ(英語版)での議事報告書で読んだのを覚えていた私は、もう少し(国連総会での議論に)熱を加えてやることにした。靴を脱いで机を叩き、我々の抗議がさらに大きくなるようにしたのだ。」[23]。なお回顧録の脚注によれば、これはフルシチョフの記憶違いである。1960年10月3日のタイムズ紙は、同1日の国連総会でフルシチョフがフランシスコ・フランコを糾弾する「怒りの長演説」を繰り出したと報じているが、「靴叩き」に関する言及はしていない[24]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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