数学、特に現代代数学と環論において、非可換環(ひかかんかん、英: noncommutative ring)とは乗法が可換ではない環である。つまり、a•b ≠ b•a なる R の元 a, b が存在する。非可換環論 (noncommutative algebra) は可換とは限らない環に適用できる結果の研究であるが、この分野の多くの重要な結果は特別な場合として可換環にも適用できる[1]。 可換でない環の例をいくつか挙げる: 幾何学から生じる可除環をはじまりとして、非可換環の研究は現代代数学の主要な分野に成長している。非可換環の理論と解釈は数多くの著者たちによって19世紀と20世紀に拡張、洗練された。そのような貢献をした人を何人か挙げる:E. Artin, Richard Brauer
目次
1 例
2 歴史
3 可換環論と非可換環論の違い
4 非可換環の重要なクラス
4.1 可除環
4.2 半単純環
4.3 半原始環
4.4 単純環
5 重要な定理
5.1 ウェダーバーンの小定理
5.2 アルティン・ウェダーバーンの定理
5.3 ジャコブソンの稠密性定理
5.4 中山の補題
5.5 非可換の局所化
5.6 森田同値
5.7 ブラウアー群
5.8 オール条件
5.9 ゴールディーの定理
6 関連項目
7 参考文献
8 関連文献
例
実数上の n 次全行列環、ただし n > 1。
ハミルトンの四元数。
可換でない群と零環でない環から作られる任意の群環
歴史
非可換環は可換環よりもはるかに広いクラスであるから、非可換環の構造や振る舞いは可換環ほど解明されていない。多くの成果は可換環の結果を非可換環に一般化することによって得られてきた。可換環と非可換環の主な違いは右イデアルと左イデアルを考える必要性である。非可換環の研究者にとってこれらのイデアルの一方にある条件を課しもう一方には課さないということはよくあることだが、可換環では左右の違いが存在しない。
非可換環の重要なクラス
可除環詳細は「可除環」を参照
可除環あるいは斜体とは、除法が可能な環である。つまり、0 でない任意の元 a が乗法逆元、すなわち a・x = x・a = 1 なる元 x を持つような、零環ではない環である[2]。別の言い方をすれば、環が可除環であることと単元群が 0 でない元全体であることが同値である。
可除環が可換体と唯一異なるのは乗法が可換であると仮定されないということである。しかしながら、ウェダーバーンの小定理によって、すべての有限可除環は可換でありしたがって有限体である。歴史的には、英語では可除環は field と呼ばれることもあり、一方可換体は “commutative field” と呼ばれた。日本語では、現在でも体は可換体を指すことも可除環を指すこともある。
半単純環詳細は「半単純環」を参照
(可換とは限らない)単位的環上の加群が半単純(あるいは完全可約)であるとは、単純(既約)部分加群の直和であるということである。
環が(左)半単純であるとは、自身の上の左加群として半単純であることをいう。驚くべきことに、左半単純環は右半単純環でもあり、逆もまた然り。それゆえ左右の区別は不要である。
半原始環詳細は「半原始環」を参照
代数学において、半原始環、あるいはジャコブソン半単純環、あるいは J-半単純環とは、ジャコブソン根基が 0 であるような環のことである。これは半単純環よりも一般的なタイプの環であるが、単純加群はなお環についての十分な情報を与えてくれる。整数環のような環は半原始環であり、アルティン的半原始環はちょうど半単純環である。半原始環は原始環の部分直積
(英語版) として理解することができ、それはジャコブソンの稠密定理(英語版)によって述べられている。単純環 (simple ring) とは、自身と零イデアルの他に両側イデアルを持たない、零環でない環である。単純環は必ず単純多元環 (simple algebra) と考えることができる。環としては単純だが加群としては単純でない環が存在する。例えば、可換体上の 2 次以上の全行列環は、(M(n, R) の任意のイデアルは、R のイデアル I に対して M(n, I) の形であるから)非自明なイデアルを持たないが、非自明な左イデアル(すなわちある固定された列が 0 である行列全体の集合)を持つ。