電磁場解析(でんじばかいせき、英語: electromagnetic field analysis)とは、マクスウェルの方程式を解くことにより、対象物と電磁場の相互作用を解析することである。過去には、マクスウェルの方程式から導出される偏微分方程式を解析的に解くことを指していたが、現在はもっぱらコンピュータによって数値計算することを指す。
工学分野では、電磁界解析という。電磁場解析には、静電場(静電界)解析、静磁場(静磁界)解析、電磁誘導解析、電磁波解析等が含まれる。このうち、電磁波解析は高周波回路や無線通信用回路、アンテナやレーダー等の設計・解析、電磁環境適合性 (EMC) 回折格子などに使用される。また、比較的低周波(数十Hz - 数百Hz)の磁界解析は、モーターなどの回転器やリニアアクチュエータ
(英語版)の設計などに用いられる。コンピュータを用いて電磁場の解析を行う分野を 計算電磁気学(英語: computational electromagnetics; CEM) と呼ぶ[1]。
散乱・放射・導波路などのようないくつかの現実の電磁界問題は、使用される物質の不規則な形状が複雑に関連しており、分析的に手計算することが不可能である。そのため、媒体と境界状態の様々なマクスウェルの方程式の補助方程式は、コンピュータにより計算される。計算電磁気学は、アンテナ・レーダー・衛星などの通信システム、ナノフォトニック
(英語版)デバイス、高速シリコンエレクトロニクス、医療画像処理、携帯電話のアンテナなど様々なアプリケーションの設計とモデリングにおける重要な分野である。計算電磁気学 (CEM) は、通常、問題の対象物について解く場合、対象物の領域の周りにある電界と磁界をコンピュータで計算することによって計算し問題を解く(言い換えると、計算電磁気学 (CEM) で任意形状のアンテナ構造について解析するには、アンテナの電磁波放射パターンについて計算する)。
電磁波の電力進行方向(ポインティング・ベクトル)、導波路の正常モード、媒体による電磁波の分散、そして、散乱などは、電磁界解析において重要な項目であり、これらは全て電界と磁界の関係からコンピュータを用いて計算することができる。計算電磁気学のモデルは、対称性を仮定したり、現実の構造を、筒状や球状あるいはその他の規則正しい幾何学的な形状に簡素化する。計算電磁気学のモデルは、徹底的に対称性を利用することによって、解析対象のシステムの次元を3次元から、2次元、更には 1次元にまで減少させることがある。計算電磁気学は、前述の幾つかの重要事項に挙げたような様々な問題を定式化できる。計算電磁気学の固有値定式化を用いることによって、特定の構造について、定常状態の正常モードを計算することができる。
過渡応答やインパルスによる電磁界への影響は、時間領域の電磁界解析手法であるFDTD法によって、より正確にモデル化される。曲面を含む物体は、有限要素法 (FEM) や、非直交のグリッドを使用することによって、より正確に扱うことができる。ビーム伝播法(英語版) (BPM)[2] は、導波路での電力の流れを解析する。以上のように、いくつかの手法によりある媒体の電磁界や電力の関係をモデル化できる場合でも、解析を行う応用分野ごとに計算電磁気学で使われるモデルが決まってくる。 コンピュータを用いた電磁界解析では、一般的に(直交あるいは非直交の)グリッドと呼ばれる空間の離散化(分割)し、媒体をモデル化した後、各グリッドごとにマクスウェルの方程式を解く。当然、計算に使われる空間の離散化は、コンピュータのメモリを消費するため、グリッドの数が多くなるほど、方程式を解く時間が長くなる。コンピュータの仕様については「並列コンピューティング」を参照 大規模な電磁界解析では、コンピュータで使用するメモリ量や、CPU時間などにより、計算の制限を設定する。2007年現在、計算電磁気学では、スーパーコンピュータや、高性能クラスタ、ベクトルプロセッサ、そして、並列コンピュータ上で電磁界解析を実行することを問題としている。 電磁界解析で用いられる定式化の典型的なものを、次に挙げる。 電磁界解析を行わなければならなくなったときに、どの手法を選ぶかは十分に検討する必要がある。積分方程式による解析を行うのか、それとも、微分方程式による解析を行うのか。そして、どのような時にどのような理由で高周波回路の近似が使われているのか理解しておく必要がある。 双曲系の偏微分方程式としてマクスウェルの方程式を定式化できる。これは双曲型偏微分方程式を数値解析するための強力な数学理論を提供する。 今、電磁波はx-y平面を伝播し(電力進行方向がx-y平面)、磁界がz軸方向にあると仮定する。この場合、電界はx-y平面にある。この電磁波は、TE波 (Transverse Electric wave) と呼ばれる。 2次元平面で、かつ誘電分極がないという条件が与えられている場合、マクスウェルの方程式は以下のように定式化できる。 ∂ ∂ t u ¯ + A ∂ ∂ x u ¯ + B ∂ ∂ y u ¯ + C u ¯ = g {\displaystyle {\frac {\partial }{\partial t}}{\bar {u}}+A{\frac {\partial }{\partial x}}{\bar {u}}+B{\frac {\partial }{\partial y}}{\bar {u}}+C{\bar {u}}=g} ここで、u、A、BおよびCは次のように定義される: u ¯ = ( E x E y H z ) {\displaystyle {\bar {u}}=\left({\begin{matrix}E_{x}\\E_{y}\\H_{z}\end{matrix}}\right)}
解析方法
全時間領域の各瞬間でマクスウェルの方程式を解く。
有限要素法 (FEM) でモデル化されているときは、基本式の係数をまとめた逆行列を解く。
転送行列法
モーメント法 (MoM)を使う場合は、積分方程式を解く。
分割ステップ法(英語版)やビーム伝播法(英語版) (BPM) により計算する場合は、FFTと逆FFT (IFFT) を解く。
解析方法の選択
双曲型偏微分方程式のマクスウェルの方程式
A = ( 0 0 0 0 0 1 ϵ 0 1 μ 0 ) {\displaystyle A=\left({\begin{matrix}0&0&0\\0&0&{\frac {1}{\epsilon }}\\0&{\frac {1}{\mu }}&0\end{matrix}}\right)}
B = ( 0 0 − 1 ϵ 0 0 0 − 1 μ 0 0 ) {\displaystyle B=\left({\begin{matrix}0&0&{\frac {-1}{\epsilon }}\\0&0&0\\{\frac {-1}{\mu }}&0&0\end{matrix}}\right)}
C = ( σ ϵ 0 0 0 σ ϵ 0 0 0 0 ) {\displaystyle C=\left({\begin{matrix}{\frac {\sigma }{\epsilon }}&0&0\\0&{\frac {\sigma }{\epsilon }}&0\\0&0&0\end{matrix}}\right)}