電磁波
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空間を伝わる電磁波。横軸は電磁波の進行方向を指す。縦軸は電場と磁場であり、磁場の軸は奥行き方向に倒して描かれている。図に示されるように、電磁波は横波として伝播する。

電磁波(でんじは、: electromagnetic wave)は、電場磁場の変化を伝搬する波(波動)である。電磁波は波と粒子の性質を併せ持ち、散乱屈折反射、また回折干渉など、波長によって様々な波としての性質を示す一方で、微視的には粒子として個数を数えることができる。電磁波の量子光子である。電磁放射(: electromagnetic radiation)とも呼ばれる。

日常生活で知られる電波などは電磁波の一種である(詳細は「種類」の項目を参照のこと)。
理論

電磁波を説明する理論は、歴史的経緯や議論の側面によって光学電磁気学量子力学において統合的かつ整合的に扱われる。

電磁波は、その一種である、特に可視光線について古くから研究されてきた。光の性質を研究する学問は、光学と呼ばれている。

光学とは別に、静電気摩擦電気)や、磁石磁力などの研究において、電場(電界)と磁場(磁界)という二つのによって物理現象を記述することが試みられた。この学問を電磁気学といい、伝搬する電磁場の振動として電磁波の存在が知られるようになった。

量子力学は、古典的な電磁気学に反する現象が知られるようになり、電磁気学を修正する試みの中で構築された。これに伴い、電磁波の理論も量子力学、特に場の量子論(単に場の理論とも)によって記述されることになった。たとえば、自然放出誘導放出などの電磁波の放出現象などは、量子力学的な粒子と場の相互作用によって説明される。
光学

波を伝える媒体媒質)が存在しない真空中でも電磁波は伝わる。電場と磁場の振動方向は互いに垂直に交わり、電磁波の進行方向もまた電磁場の振動方向に直交する。つまり、電磁波は横波である。基本的に電磁波は空間中を直進するが、物質が存在する空間では、吸収屈折散乱回折干渉反射などの現象が起こる。また、重力場などの空間の歪みによって進行方向が曲がる(歪んだ空間に沿って直進する)。

媒質中を伝播する電磁波の速度は、真空中の光速度を物質の屈折率で割った速度になる。例えば、屈折率が 2.417 のダイヤモンドの中を伝播する可視光の速度は、真空中の光速度の約 41 % に低下する。ところで、電磁波が異なる屈折率の物質が接している境界を伝播するとき、その伝播速度が変化することによって屈折が起こる。これを利用したものにレンズがあり、メガネカメラ天体望遠鏡などに使われ、電子回路の複写などにも利用されている。なお屈折率は電磁波の波長によって異なるため、屈折する角度も波長に依存する。これを分散と呼ぶ。が七色に見えるのは、太陽光などの微小な水滴を通るとき、分散があるために、波長が長い赤色光と波長の短い紫色光が異なる角度に屈折するためである。

電磁波は、特にその波長によって物体との相互作用が異なる。そこで、波長帯ごとに電磁波は違う呼び方をされることがある。すなわち、波長の長い方から、電波赤外線可視光線紫外線X線(あるいはガンマ線)などと呼ばれる。我々の目で見えるのは可視光線のみだが、その範囲(波長 0.4–0.7 μm)は電磁波の中でも極めて狭い。可視光線の中では単色光の場合、の順に波長が短くなる。そのため、ある基準よりも波長の長い電磁波を「赤い」、波長の短い電磁波を「青い」と表現することがある。

前述の通り、真空中では電磁波の速さは一定であるため、波長の長い電磁波は振動数が小さく、波長の短い電磁波は振動数が大きい。

電磁波には重ね合わせの原理が成り立ち、電磁波は線型性を持つことが知られる。線型性によって、電磁波を平面波、すなわち特定の振動方向と進行方向を持つ波の重ね合わせとして表現することができる。平面波はまた、同じ方向へ進む正弦波を用いて分解することができる。各々の正弦波は、波長振幅伝播方向偏光位相によって特徴付けられる。

ある電磁波を多くの正弦波の重ね合わせとみなしたとき、波長ごと、あるいは振動数ごとの成分の大きさの分布をスペクトルという。例えば、理想的な白色光はすべての波長成分が一様に含まれている。逆に単色光は一つの波長成分だけを持つ。
電磁気学

1864年ジェームズ・クラーク・マクスウェルは、それまでに明らかにされていた、
ファラデーの電磁誘導の法則

アンペール=マクスウェルの法則

電場に関するガウスの法則

磁場に関するガウスの法則

という電磁場に関する四つの法則を統合することによって、マクスウェルの方程式を完成させた。これは電磁気学の基本原理である。電磁波は振動する電磁場であるため、マクスウェルの方程式によって電磁波も記述することができる。

マクスウェルの方程式は、電荷電流もない空間では電場に対する波動方程式と磁場に対する波動方程式に帰着する。電磁場が波動方程式によって記述されるということは、電荷の運動に起因する電磁場の振動が波として空間を伝わるということである。マクスウェルの理論によって予想されたこの電磁波の存在は、1888年ハインリヒ・ヘルツによる実験で確認された。

また波動方程式から得られる真空中を伝播する電磁波の速さは一定である。そのため、相対性原理を仮定するならば、どのような慣性系についても、すなわち観測者がどのような方向と速度で動いていたとしても、観測される電磁波の速さは不変である。これを光速度不変の原理という。その速さは真空中の光速に等しく 299792458 m/s(約 30万 km/s)である。光速度が不変であることは、有名なマイケルソン・モーリーの実験をはじめとして様々な実験により確かめられている。この真空中の光速は最も重要な物理定数の一つである。光速度不変の原理から、光速を用いて長さ時間単位を定義することができる(メートルの定義を参照)。

波動方程式のとして、電磁場が時間関数空間の関数の積で表されるような変数分離形のものを仮定すると、電磁場は調和振動子として記述されることが分かる。波動方程式の線型性から、このような変数分離形の解の線形結合もまた波動方程式を満たす解となるため、一般に電磁場は独立な調和振動子の集まりであると見なせる。
電場および磁場の波動方程式の導出

電場の波動方程式は、電磁誘導則の式について両辺の回転を取り:

∇ × ( ∇ × E → ) = − ∇ × ∂ B → ∂ t {\displaystyle \nabla \times (\nabla \times {\vec {E}})=-\nabla \times {\frac {\partial {\vec {B}}}{\partial t}}}

さらに電荷0および電流0の条件を加えることで導出可能である(誘電率や透磁率を変化させることで事実上同じ式に行き着く場合もあり、そのような場合には定数を異なる値にすることで同様に議論できる)。

前式の左辺は

∇ × ( ∇ × E → ) = ∇ ( ∇ ⋅ E → ) − ∇ 2 E → {\displaystyle \nabla \times (\nabla \times {\vec {E}})=\nabla (\nabla \cdot {\vec {E}})-\nabla ^{2}{\vec {E}}}

と変形できる。さらに電荷0すなわち ∇ ⋅ E → = 0 {\displaystyle \nabla \cdot {\vec {E}}=0} であるため − ∇ 2 E → {\displaystyle -\nabla ^{2}{\vec {E}}} が残る。


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