電気けいれん療法
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電気けいれん療法
治療法
電気けいれん装置と患者
ICD-10-PCSGZB
ICD-9-CM ⇒94.27
MeSHD004565
OPS-301 code ⇒8-630
MedlinePlus007474
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電気痙攣療法(でんきけいれんりょうほう)は、両前頭葉上の皮膚に電極をあてて頭部に通電することで、人為的に痙攣発作を誘発する治療法である[1][2]。ECT(英語: electroconvulsive therapy)、電撃療法(英語: electroshock theraphy: EST)、電気ショック療法(ES)[3]とも言う。

ECTには大きく分けて、四肢や体幹の筋に痙攣を実際に起こすもの(有痙攣ECT)と、筋弛緩剤を用いて筋の痙攣を起こさせないもの(修正型ECT、無痙攣ECT)に分類され、用いる電流も「サイン波」型と「パルス波」型に分類できる。

1938年イタリアローマウーゴ・チェルレッティとルシオ・ビニ(英語版)によって創始された、元は精神分裂病(現在の統合失調症)に対するショック療法として考案されたものである。日本では1939年昭和14年)に、九州大学の安河内五郎と向笠広次によって創始された。その後、他の疾患にも広く応用されて急速に普及し、精神科領域における特殊療法中、最も一般化した治療法である[4]。作用機序は不明である[5][6]

多くの場合、ECTはインフォームド・コンセントを得たうえで[7]大うつ病躁病緊張病の治療手段として用いられている[8][9]
適用

日本では、うつ病双極性障害統合失調症などの精神障害(まれにパーキンソン病などにも)の治療に用いられている。

うつ病重症で自殺の危険が高く緊急を要する場合や、薬物療法を充分行っても症状が改善しない場合、薬物療法の副作用が強い場合など。

双極性障害うつ状態で上記したような問題がある場合や、躁状態で興奮が強く緊急を要する場合など。

統合失調症難治性の場合や、抑うつを伴い自殺の危険が強い場合、緊張型の昏迷状態など。

パーキンソン病気分症状と運動症状の両方にしばしば効果が認められる。薬物抵抗性がある場合、あるいは抗パーキンソン病薬が副作用により使えない場合など、疾患の末期に用いられるのが典型的である。

1961年当時の厚生省保険局通知「精神科の治療指針」によると適応症として『精神分裂病、躁うつ病、心因反応、反応性精神病。神経症神経衰弱麻薬中毒覚せい剤中毒酒精中毒性、精神病等』があげられていた。
ガイドライン

アメリカ精神医学会 (APA) のECTガイドラインでは、精神病・躁せん妄・緊張病の伴う深刻な抑うつについて、早期のECTを実施する明確な合意があるとしている。APAの2009年ガイドラインでは、予防段階でのECT使用を支持している。

2003年の英国国立医療技術評価機構 (NICE) のECTガイドラインでは、重症のうつ病、継続する重症のエピソード、緊張病のみに用いられるべき(英語: should only be used)だとしている[10]

2009年のイギリスでのガイドラインでは、成人の抑うつに対して、急性期の深刻な抑うつであり、生命危機に迫った救急状況、もしくはその他の治療手法が失敗した場合に検討するとしている[11]。標準的なうつ病に対しては、繰り返しECTを行ってはならないが、だが複数の薬物治療と心理療法に効果を示さない場合は検討できるとしている[11]

NICEは、再発性うつ病の予防のため長期のECTを行ってはならない、統合失調症の一般的管理にECTを用いてはならないと勧告しており[10]、NICEの成人の抑うつ治療ガイドラインでも同じ立場である[12]

生物学的精神医学会世界連合のガイドラインではうつ病急性期(単極性、および双極性)、躁病急性期に推奨される治療法の1つとされエビデンスレベルC(A?Eのうち)、推奨度グレード4(5段階の上から2番目)に位置づけられている[13]。一方で統合失調症に関しては治療抵抗性における付加的治療法として限定的に推奨されるにとどまっている[13]
日本

日本のガイドラインとしては、日本精神神経学会の「電気けいれん療法の主義と適応基準の検討小委員会」が2006年にまとめ2013年に改定した「電気けいれん療法推奨事項改訂版」では、適応症に大うつ病、双極性感情障害、統合失調症の記載がある[8]。「日本うつ病学会ガイドライン」では、大うつ病、双極性感情障害のいずれの治療にもECTが組み込まれている[14]。大うつ病の特に自殺の可能性や生命危機の差し迫った最重症の状態においてECTが推奨されている[14]。「統合失調症薬物治療ガイドライン」では特に治療抵抗性統合失調症に対して、クロザピンと並んで有効な治療法としてECTが推奨されている[13]。日本精神科救急学会の「精神科救急医療ガイドライン2022年度版」では感情障害や変換症を背景にした昏迷では、ベンゾジアゼピン系薬剤と電気けいれん療法が第一選択として望ましいとの記載がある[15]
副作用

2001年より、APAは永続的な逆行性(術前の)健忘症に関して、説明を含んだ同意書を強く推奨している[16]。混乱はよくあり問題を生じさせず、順行性(術後の)健忘症は数週間から数か月続くことがある[16]。自伝的な記憶に関する永続的な逆行性健忘は、.mw-parser-output .frac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .frac .num,.mw-parser-output .frac .den{font-size:80%;line-height:0;vertical-align:super}.mw-parser-output .frac .den{vertical-align:sub}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}1⁄3の人々に生じうる、頻繁かつ重篤な副作用のひとつである[16]

以下のような副作用が起こることがある。
心血管系の障害:筋は痙攣しなくても、通電直後数秒間に迷走神経を介した副交感神経系の興奮が生じ、徐脈や心拍停止、血圧の低下を生じることがある。また、カテコールアミン放出を伴う交感神経系の興奮が惹起され、頻脈や血圧上昇、不整脈などが起こることもある。

認知障害:通電直後に生じ、見当識障害、前向性健忘(以前の記憶はあるが、ECT後の出来事などが覚えられなくなる)や逆行性健忘(新しいことは覚えられるが、以前の記憶、特にECT施行直前の記憶がなくなっている)が見られることがある[17]。老人に頻度が高い。多くは時間とともに回復する。失見当識・前向性健忘は比較的短時間に回復し、逆行性健忘は回復が緩徐である。また、そのまま認知機能の低下が遷延するという例も少数だが報告されている[18]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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