電子辞書
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電子辞書(でんしじしょ)とは、CD-ROMフラッシュメモリなどの記憶媒体ネットワーク上に保存されている辞書事典の内容を記録したデータを、コンピュータ携帯端末によって読み出し、検索・表示・再生する電子機器またはソフトウェアの総称[1]
概要カシオ製の電子辞書 (XD-Z6500)

電子辞書という語が指し示す範囲は広範にわたる。具体的には、専用の液晶画面とキーボードを搭載した携帯型の電子辞書専用機(IC電子辞書)、インターネット上の辞書検索サイトに代表されるオンライン辞書、パソコンやスマートフォン・タブレットなどの汎用OSを搭載したコンピュータにインストールして利用する辞書アプリ、パソコンなどの光ディスクドライブで読み込んで利用するCD-ROM辞書(DVD-ROM辞書)、電子書籍端末に付属する辞書機能などがある。さらに、かな漢字変換システムに組み込まれた語義表示機能などもこれに含められ得る。日本で一般に「電子辞書」といえば、最初に挙げた携帯型の電子辞書専用機(狭義の電子辞書)を指す[2]。一方、欧米では「電子辞書」といえば、CD-ROMやDVD-ROMの辞書を指すことが一般的であるとされる[3]
特徴

紙媒体では表現することが不可能だった音声や動画などのデータも収録・再生できる、辞書・事典のマルチメディア化が電子辞書の一つの特色といえる[4]

紙の辞書と比較した場合の電子辞書の長所としては、

書籍にして数百冊分の大量の情報を小さな記憶媒体に集約できるため、収納・保存に場所を取らず、持ち運びも容易である[5]。また、オンライン辞書の場合、辞書データはネットワーク上に保持されるため、辞書データを収めるための記憶容量は無限に近い[6]

項目数の多い辞書でも、分厚い紙の辞書に比べて、高速な検索ができる[6][7]

前方一致検索・後方一致検索・部分一致検索・完全一致検索・全文検索など、多様な検索方法が用意されている場合がある[6][8]。特に、共通規格で記録された辞書ファイルに対しては、一括で検索をかけることができる(これは俗に「串刺し検索」と呼ばれる)[9]

関連項目などの別項目へも、ハイパーリンクの要領で、項目間、さらには辞書間を簡単に移動できる(いわゆる「ジャンプ機能」)[6]

などがある。

反対に短所としては、

どのような機器で閲覧するにしても、本質的に画面の大きさの制約からは逃れられないため、紙媒体の辞書と比べて、一度に視野に入れられる文字量が圧倒的に少なく、スクロールすると前の情報が画面の外に隠れてしまう[10](広辞苑第五版の書籍版、CD-ROM版、電子辞書版の3つを比較したところ、紙媒体の表示面積は、CD-ROM版の約9.3倍、電子辞書版の約36倍だったとする2007年の調査結果がある[11])。

前記の制約があるため、基本的に複数の辞書の情報を並べて見比べることには向いていない[8]

パソコンなど使用環境によっては、文字コードの差異から、外字などが適切に処理されない場合がある[12]

紙媒体の辞書では慣習的に概ね巻頭に記される、凡例の掲載場所とそれを開く操作方法に決まりがない[13]など、辞書の形式が多様な分、電子辞書としての典型が一定しない。

などがある。
規格・形式

市販されている電子辞書・百科事典ソフトウェアは数多あるが、電子化された辞書データのファイル形式やディレクトリ構造など、そのフォーマット(形式や規格)については、複数のメーカーが共同で策定した共通規格 (EBやEPWINGなど) のほか、メーカーごとの独自規格で作成されたソフトウェア製品も相当数存在する[14]

主な電子辞書ソフトウェアのファイルフォーマットには、

電子ブック (EB/EBXA/S-EBXA)

EPWING (JIS X 4081)

ONESWING(EPWINGの後継規格)

BAS

StarDict(英語版)

LeXML(辞書・事典用に特化したXML[15]

などがある。電子ブックを除けば、多くがMicrosoft Windowsなどのパソコン向けの規格である。また、規格が策定されていても、その仕様が非公開となる場合も少なくない。これは、著作権保護の観点のほかに、ベンダーロックインを狙ったものであるとも考えられる。
CD-ROM辞書

開発時の歴史的背景としては、まず1980年にソニーフィリップスが共同で策定した規格、CD-DA(音楽CD)用に開発された記憶媒体であるコンパクトディスク (CD) [16]を、コンピュータの外部記憶媒体として利用するCD-ROMの仕様(イエローブック)が1983年に提案されたことがあった[17]。CD-ROMは、一枚当たりの容量が約600MBという、当時としては非常に大きな記憶容量を持ち、音楽CDと同じ生産ラインが使えるために安価に量産が可能であるという2つの利点があった。さらに、致命的な欠点とされていた「書き換え不可能」という特性を逆に利用して、データ集や出版物、それも大きな記憶容量を十分に生かせる、辞書や百科事典の記憶媒体として期待されていた[16][17]

そして、1985年に日本で最初のCD-ROM辞書『最新科学技術用語辞典』が三修社から発売された[16][17][18]。その翌年の1986年に、当時の富士通のワープロ専用機OASYS向けの『広辞苑第三版CD-ROM版』の試作が発表され、翌々年の1987年に発売された[16][17]。この『広辞苑第三版CD-ROM版』は、富士通・ソニー・岩波書店大日本印刷により共同開発され[16]、WING規約と呼ばれたその辞書形式は他社にも無料で提供された[17]。その結果、1988年の三省堂『模範六法昭和62年版CD-ROM版』と自由国民社現代用語の基礎知識CD-ROM版』の発売に続いて、多くの辞書がこの形式で制作され、発売された[16][17]

その後、WING規約はEPWINGと名称を変え、出版社、印刷会社、ソフトウェアメーカー、ハードウェアメーカーが集まって1991年に設立された団体「EPWINGコンソーシアム」による普及活動もあって、EPWINGは日本のパソコンで動作する電子辞書形式のデファクトスタンダードとなり、1997年には「日本語電子出版検索データ構造」 (JIS X 4081) という名称でJIS規格化された[16][17]。しかしEPWING形式の電子辞書は2012年10月30日をもって販売を終了し、以降は後継規格であるONESWINGに移行している[19]

WING規約から派生したもう一つの電子辞書フォーマットに、ソニー独自の電子ブック (EB)がある[17]。富士通主導でEPWINGコンソーシアムが設立されたのと同じ年に、ソニーが中心となって、同様の団体である「電子ブックコミッティー」が組織され、電子ブックの普及活動が展開された[17]。電子ブックは通常のCD-ROMとは違い、8cm CD-ROMをキャディーと呼ばれるケースに入れて、専用のハードウェア「電子ブックプレーヤー」で利用する形態をとる[17]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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