電力自由化
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電力自由化(でんりょくじゆうか)、または電力市場の自由化とは、従来自然独占とされてきた電気事業において市場参入規制を緩和し、市場競争を導入することである[1]。電気料金の引き下げや電気事業における資源配分の効率化を進めることを目的としている。コンテスタビリティ理論を理論的支柱とする[要出典]。
概要

電力自由化において具体的に行われることとしては、主に以下のことがある。

誰でも電力供給事業者になることができる(発電の自由化)
[1]

どの供給事業者からでも電力を買えるようにする(小売の自由化)[1]

誰でもどこへでも既設の送・配電網を使って電気を送・配電できるようにする(送・配電の自由化)

既存の電力会社の発電部門と送電部門を切り離すことで競争的環境を整える(発送電分離

電力卸売市場の整備

局所的な猛暑と瞬時的な交通動力の利用によって高負荷が発生する(電力各源化:POWER1.0)

電力源の多様化(電力各源化:POWER2.0)源水素発電施設の新設

理論的背景

電力産業には規模の経済があると考えられてきたため、多くの国で電力会社に地域独占を認め、その代わり料金を規制してきた。ところが、2つの環境変化が地域独占の必要性をなくした。

発電についての規模の経済が重要でなくなった。現在では個々の発電所の発電能力に比べて需要規模が十分大きいため、発電に関しては規模の経済がなくなっている。その一つの原因はガスタービン発電などによって小規模でも安く発電ができる技術進歩が起きたことであり、もう一つの原因は多くの国で単に電力需要が増加し続けたため、個々の発電所の生産規模に比べて電力市場が大きくなったことによる。このため多くの発電事業者が競争的に電力供給に参加できることになった。

情報通信技術の発達により分散的な発電が可能になった。発電に関する競争が導入されると多くの需要家と供給家による需要供給を瞬時に調整する必要がある。このため、以前は電力会社内の閉じた世界で発電をしなければ能率的に給電指令を行えなかった。しかし、情報通信技術の発達によって分散的な市場参加者間の需給調整が可能になった(スマートグリッドも参照)。

このような環境変化によって発電に関する競争が導入できるようになった。これが電力の自由化である。なお、送電配網に関しては規模の経済があるため、発電事業の自由化後にも送電網提供サービスは独占のまま残し、送配電料金は従来通り規制することになる[2]

自由化は2つのルートで電気料金を引き下げると考えられていた[3]

従来の総括原価主義の規制下のように、無駄なコストまで料金に上乗せすることができなくなる。反面、コストを引き下げた企業はその分利潤を増大することができる。このため競争によって発電コストが下がる。

電力料金が需給のバランスで決まるようになると夏のピーク時間帯の電力料金は高くなる。夏が蒸し暑い日本では、夏の冷房電力需要量が大きく、このピーク時間帯の需要に備えて過大な送電や発電の設備がつくられてきた。ピーク時の高い電力料金によってこの時間帯の需要量が抑えられると、これまでのような過大な施設は不用になり、ピーク時以外の時間帯の電力料金は大幅に引き下げられる。

世界の電力自由化
ヨーロッパ

欧州連合(EU)では市場統合の一環として1987年に欧州委員会が域内エネルギー市場構想を提唱。1997年にはEU電力指令が発効し、加盟国は2003年までに、

発電部門を自由化すること(許可制又は入札制の導入)

段階的に小売市場を32%まで自由化すること

第三者に対して、非差別的に送配電系統の利用機会を与えること

発電・送電・配電が垂直統合された電力会社から、運営面で独立した送電系統運用者を設置すること(機能分離)

電力会社に、発電・送電・配電別に会計を分離するよう義務付けて、内部補助を防止すること(会計分離)

などが求められた[4]。2003年にはさらなる自由化を進めるためにEU電力指令の改正が行われ、加盟国は、送電系統運用者を法的に別会社として分離すること(資本関係があることは許容される)、2007年7月までに小売市場を全面自由化することなどが求められた[4]

これを契機に、各国では電力自由化の導入、発電・送電・配電各社の民営化や再編などが行われた。これにより電力・ガス・水道などを扱う巨大パブリック・ユーティリティ企業が次々誕生し、ヨーロッパだけでなく南北アメリカなど世界各地へも買収の手を伸ばしている。

代表的な大手にはフランスEDF(フランス電力)、スペインのイベルドローラドイツE.ONおよびRWEスウェーデンヴァッテンフォールイタリアENELがある。各国の二番手以下の企業は他国の大手の傘下に入りつつあり、大手各社がスペインのエンデサなどの準大手に買収を仕掛けている。
イギリス

イギリスでは1957年電気法に基づき、電気事業は独占的に発電・送電を担う国営の中央電力公社(Central Electricity Generating Board, CEGB)と、地域ごとに分けられた12の配電局によって運営されてきたが、卸供給義務からくる過剰な発電設備の建設、供給コストのインセンティブ不足、割高な国内炭の使用等の原因もあって経営効率は低いと言われていた[5]

1979年にサッチャー政権が成立すると「競争原理の導入と政府関与の最小化による経済の活性化」を目標として国有企業を次々と民営化したが、電気事業もこの対象となった[5]。1983年には上記の状況を変えようと発電部門へのIPP等の新規事業者の参入を認めたが、CEGBが提示する購入価格は低かったため参入者は現れず、CEGBの独占状態に変化はなかった[5]

その後サッチャー政権は電力改革計画を議会に提出し、1989年電気法が成立した。1990年、電気事業が再編され、CEGBは

発電部門は2つの発電会社(ナショナル・パワー、パワージェン)と1つの原子力発電会社(ニュークリア・エレクトリック)に、

送電部門は自然独占の分野とされナショナル・グリッド1社に、

12の配電局はそのまま12の地域配電会社に、

それぞれ分割され、発電分野には強制プール制による競争が導入された。1990年からは小売供給部門にも段階的に競争が導入されることとなり、1999年に全面小売自由化が行われた[5]


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