難聴
[Wikipedia|▼Menu]

難聴
概要
診療科耳鼻咽喉科学
分類および外部参照情報
ICD-10H90-H91
ICD-9-CM389
MeSHD034381
[ウィキデータで編集]

世界の疾病負荷(WHO、2019年)[1]順位疾病DALYs
(万)DALYs
(%)DALYs
(10万人当たり)
1新生児疾患20,182.18.02,618
2虚血性心疾患18,084.77.12,346
3脳卒中13,942.95.51,809
4下気道感染症10,565.24.21,371
5下痢性疾患7,931.13.11,029
6交通事故7,911.63.11,026
7COPD7,398.12.9960
8糖尿病7,041.12.8913
9結核6,602.42.6857
10先天異常5,179.72.0672
11背中と首の痛み4,653.21.8604
12うつ病性障害4,635.91.8601
13肝硬変4,279.81.7555
14気管、気管支、肺がん4,137.81.6537
15腎臓病4,057.11.6526
16HIV / AIDS4,014.71.6521
17その他の難聴3,947.71.6512
18墜死3,821.61.5496
19マラリア3,339.81.3433
20裸眼の屈折異常3,198.11.3415

難聴(なんちょう、英語: hard of hearing[注釈 1])とは、聴覚が低下した状態のこと[注釈 2]医学分野で多く使用される表現であり、診断名や聞こえの障害の性質(例:伝音難聴・感音難聴)、程度の数量的表現(例:軽度難聴・高度難聴)として用いられる[2]耳科学的には、聴力[注釈 3]が、正常聴覚閾値(正常最小可聴値) (0dB HL) [注釈 4]よりも劣っている事とされる。そのレベルは30dB HLとされている。難聴は代表的な疾患の症状である[5]外耳内耳中耳から聴覚伝導路のどの部分が障害されても難聴になる[5]。難聴を検査する方法が聴力検査である。



0dB HL(標準聴力閾値)

難聴の程度を決めるにはオージオメータ(audiometer、聴力計)によって純音聴力検査をしなければならない。

オージオメータとは、被検者に電気的に発生した検査音を減衰器を通して与え、被検者自身の認知、応答により、聴覚機能を検査する装置であり、JIS T 1201(オージオメータ)に規定されている。検査音を与える方法も指定された気導受話器(イヤホン)で被検耳の外耳に適切に圧着されなければならない。最初に 0dB を決めたのは、1951年に米国で徴兵検査の折に18歳の若者で行なわれた。この値がしばらくの間 0dBとして採用されていたが、その後英国でも検討されたが10dBほど小さい値になり混乱していたので、0dB の再検討が世界的に行なわれるようになった。日本オージオロジー学会でも 0dB 委員会が作られ検討された。最終的に ISO 規格に世界が合わせる事になった。当時は暫定的にそれぞれの周波数で10dBを加える事で対応した。JIS T 1201-1982 には財団法人機械電子検査協会が保有しているイヤホンをISO NBS 9?Aカプラ (6cc) で規定されている基準最小可聴値をもたらすカプラ内音圧レベルが4種類の国産受話器に対して示されている。ここで注意する点は何れも工業規格であり、オージオメータの製造、販売の規格である。従って、一人一人違ったヒトの外耳に気導受話器を使用して聴力検査をすると言う現実とは無関係である。例えば、圧着の程度が少ないと僅かな隙間から低音域の低下が発生するし、防音室の程度により閾値に 10 - 15dB の測定誤差を生ずる。これは全ての聴覚検査で生ずる現実である。
難聴とコミュニケーション

難聴をコミュニケーション障害の立場より考える事も重要な問題である。小寺によれば、純音聴力検査で求める平均聴力レベルを基準にした平均聴力、500Hz、1kHz、2kHzの各閾値の平均聴力値(3分法)で正常聴力は25dB以内であるとしている。平均聴力レベルが26dBから39dBは軽度難聴で、40dBから69dBは中等度難聴で、70dB以上であれば高度難聴と分類すると記している。この場合は良聴耳のレベルである。このように軽度難聴のレベルは文献により一定値ではないのが現状である。ここでも会話の了解度と組み合わせて記載されている。

平均聴力レベルとコミュニケーション障害の関係。

26dB - 39dB: 小さい声での会話のみ聞き取りにくい。

40dB - 54dB: 普通の会話に不自由。正面から大きい声で会話する。

55dB - 69dB: 大きい声での会話が理解できないことがある。

70dB 以上。 非常に大きい声のみ理解できるが、理解できないことがある。

(日医雑誌 第123巻・第6号/P-788.2000-3-16)
聴覚障害レベル

難聴者の最小可聴閾値(聴力レベル)の上昇が4分法(500 Hz×1 + 1 kHz×2 + 2 kHz×1)/4 の数値により障害の重さが区分される。

聴覚障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)[6]級別状態指数
2両耳の聴力レベルがそれぞれ100デシベル以上のもの(両耳全ろう)11
3両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの(耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの)7
41. 両耳の聴力レベルが80デシベル以上のもの(耳介に接しなければ話声語を理解し得ないもの)
2. 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの4
61. 両耳の聴力レベルが70デシベル以上のもの(40センチメートル以上の距離で発声された会話語を理解し得ないもの)
2. 1側耳の聴力レベルが90デシベル以上、他側耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの1

難聴の分類

難聴の分類には、病変部位、原因・要因、難聴の程度、聴力型、発症時期、言語習得などにより、さまざまな基準がある[7]。分類基準の多様性は、障害像、予後、必要とされる対応(医学的・福祉的・教育的)の多様さを示唆する[7]。また、両方の耳に同時に症状が現れる両側性難聴(りょうそくせいなんちょう)とどちらか一方の耳にのみ症状が現れる一側性難聴(いちそくせいなんちょう)に分けられる。なお一側性難聴、つまり逆側の耳が健聴の場合、日本の現行制度では障害とみなされない。
病変部位による分類

病変部位により、伝音(性)難聴・感音(性)難聴に大きく2分される。混合性難聴(こんごうせいなんちょう)はこれらを共に持っているものであり、独立させる場合もある。
伝音性難聴

伝音(性)難聴(でんおんせいなんちょう)(conductive hearing loss)は、音の伝わり方の異常である[8]。聴こえの仕組みは、ヒトの耳に外界から空気の振動である可聴音(20 Hz - 20,000 Hz と言われている)が外耳中耳を通して内耳へ伝えられる。伝音難聴では、外耳・中耳・蝸牛窓・前庭窓のいずれか、又はそのすべてがおかされることで、伝送特性が変化する[9]
感音性難聴

感音(性)難聴(かんおんせいなんちょう)(sensorineural hearingloss [注釈 5])は、内耳での音の電気変換?電気信号の伝達の異常である[8]。通常、外耳や頭蓋骨から入力された音のエネルギーは、内耳でリンパ液や有毛細胞を振動させる。この振動が刺激となり有毛細胞から神経伝達物質が放出され、付着している聴神経の終末部を興奮させて活動電位という電気的インパルスが発生する。感音難聴は、内耳又は内耳から聴覚中枢に至る部位に器質性の病変で生じる[11]

内耳性難聴 (ないじせいなんちょう、inner ear hearingloss)

障害の部位が蝸牛に限局している場合の感音性難聴。


後迷路性難聴(こうめいろせいなんちょう、retrocochlear hearingloss)

障害の部位が蝸牛神経から皮質聴覚野を含む区間の聴覚伝導路に限局している場合の感音性難聴。


難聴の程度による分類

軽度難聴、中等度難聴、高度難聴、重度難聴、最重度難聴に分類される。
発症時期による分類

先天性難聴、中途難聴・失聴、老人性難聴に分類される。
言語獲得による分類

言語習得前難聴、言語習得期難聴、言語習得後難聴に分類される。
化学物質が原因の難聴

ブロモバレリル尿素を含有する鎮痛剤[12][13][14]、コールドパーマ第2液[15]などの臭素化合物を含む物質の摂取による中毒症状。
機能性難聴

全く器質的な障害が見られないのにもかかわらず、難聴が生じていると訴える例が見られる。この、聴覚に関わる部分に全く器質的な障害が見られない難聴を、機能性難聴(心因性難聴)と呼ぶ。意図的に難聴を装った結果難聴になった詐聴(さちょう)も含まれる。また、ヒステリー性難聴も含まれ、「ヒステリー」と付けられたことからも女性に多い難聴である。診断には聴性脳幹反応(ABR)測定が用いられる。
罹患者の特徴

かつては中年女性に見られる難聴とされていた。当時から男性よりも女性に多い難聴と認識されており、その点は近年も変わらない。
原因

機能性難聴の正確な原因は不明だが、学校や家庭などでのストレスなどが原因であろうと考えられている。ストレスで音に集中できないため感音難聴になるのではないか、など、推測の域を出ない。
治療

精神的ストレスを見つけその原因を取り除く生活指導、カウンセリングなどの心理療法を施し、耳自体の治療や投薬は通常行われない。なお、詐聴は治療不要である。
聴覚診断検査
純音聴力検査

純音聴力検査(純音オージオメトリー)とは、純音を聴かせ、被験者の聴力の閾値を測定する検査である。JIS 規格の聴力計(オージオメーター)で気導聴力及び骨導聴力の聴力レベルを調べる。遮音性の高い防音室で行われる。

純音聴力検査は、気導聴力検査と骨導聴力検査がある。気導聴力検査では、125 Hz、250 Hz、500 Hz、1000 Hz、2000 Hz、4000 Hz、8000 Hzの合計7つの周波数を検査する。それぞれの周波数の純音を被験者の外耳に JIS 規格の気導受話器を適切に圧着して入力し、それぞれの周波数について被験者が聞こえる最小音圧レベル(閾値)を測定する。骨導聴力検査では、250 Hz、500 Hz、1000 Hz、2000 Hz、4000 Hzの合計5つの周波数を検査する。耳後部に骨導レシーバを当てることで、被験者の骨にそれぞれの周波数の純音を入力する。これにより、それぞれの周波数について被験者が聞こえる最小の音圧レベルを測定する。

検査結果は、聴力図(オージオグラム/audiogram)に記録する。なお、気導検査も骨導検査も、最大出力音圧でも聞こえない場合には、聴力図にはスケールアウト(測定不能)と記録する。検査の結果で、伝音性難聴と感音性難聴と混合性難聴の区別がされる。
閾値上検査

閾値上検査とは、補充現象(リクルートメント現象)の有無を調べる検査である。補充現象とは音圧がわずかに上がっただけで、正常より音が大きく聞こえる現象のこと。補充現象は、感音難聴の中でも内耳性難聴の特徴であり、内耳性難聴と後迷路性難聴の鑑別などに用いられる。なお、この検査は、被験者の閾値よりも少し強い音を使用して行う検査なので、まず先に純音聴力検査を行って、その被験者の閾値を調べておく必要がある。閾値上検査の種類として、両耳バランステスト、音の強さの弁別閾の検査、SISI (Short increment sensitivity index) 検査がある。
語音聴力検査

語音聴力検査とは、言葉が聞き取れるかどうかを調べる検査である。音を感知できるかどうかの検査が純音聴力検査であるのに対し、声の違いという、言わば音色の違いを判別できるかどうかの検査が語音聴力検査ということになる。

語音聴力検査は、被験者に一定の音圧で、被験者が習熟している言語の短い単語や数字、または、被験者が習熟している言語で使用される音(日本語なら「あ」や「い」などの意味のない音)を聞かせるという方法で行う。検査結果は正答率(パーセント)で示され、これを語音明瞭度と呼ぶ。なお、音圧を変えて検査を行い、全ての音圧条件の中で最も高い正答率が得られた時の正答率は何%であったかを、最高語音明瞭度と呼ぶ。

もしも被験者の聴力が正常であれば、最高語音明瞭度は100%となる。また伝音難聴でも、音圧を上げれば(音を強くしてゆけば)語音明瞭度は上がり、100%も出るので、やはり最高語音明瞭度は100%となる。しかし、感音難聴では障害の起こっている部位によって結果が変わってくる。例えば、内耳性難聴では補充現象が起こるために、音圧が上がると逆に言葉が上手く聞き取れない現象(ロールオーバー現象)も起こる。また、最高語音明瞭度も80%程度となる。さらに、皮質性難聴などの場合、純音聴力検査での成績に比べて、語音聴力検査の成績が悪い傾向にある。つまり、純音は十分に聞こえている音圧なのに、その音圧で言葉の聞き取りができないということだ。すなわち、音が鳴っているのは判るのだが、何を言っているのか判別できない状態である。皮質性難聴などの最高語音明瞭度は、50%を切ることもしばしばで、こうなると補聴器も役に立たない。
インピーダンスオージオメトリー

インピーダンスオージオメトリーは、外耳道を密閉し、そこの空気圧を変化させながら行う検査であるため、また、その時に鼓膜反射される音の強さを測定して行う検査であるため、鼓膜に穴が開いている場合は行えない。名称に「オージオメトリー」、すなわち、「聴力検査」と付くものの、この検査は被験者の聴力を測定するものではなく、中耳の抵抗(インピーダンス)を測定する検査である。一定の強さの音を外耳道内に出力し続け、外耳道内の空気圧を、その場の大気圧を基準に-200 [mmH2O] - +200 [mmH2O] の間で連続的に変化させ、その時に鼓膜で反射してくる音の強さを検知する。

検査結果は、ティンパノグラムと呼ばれる、各空気圧で測定された反射音の強さをまとめたグラフで出される[16]。このティンパノグラムのパターンには、Jerger分類と呼ばれる分類がなされている。外耳道内の空気圧が大気圧と同じである時に、最も抵抗が小さくなる(反射音が一番弱くなる)状態を「A型」と呼び、このパターンが正常型である。A型は、後述するA型のバリエーションも含めて、鼓室(中耳の空洞)内の空気の圧力が、大気圧と等しくなっていることを示している。これに対して、どの圧力でもほとんど抵抗が変化せず、したがって反射音もほぼ一定となる状態を「B型」と呼び、このパターンは、本来は空気で満たされているはずの鼓室内に液体が溜まっている時に見られ、例えば、滲出性中耳炎の多くでは、このパターンとなる。それから、外耳道内の空気圧を-100 [mmH2O] 以下(陰圧)にした時に、最も抵抗が小さくなる状態を「C型」と呼ぶ。C型は、鼓室内の空気の圧力が、大気圧よりも低下していることを示している。例えば、何らかの原因で耳管が狭くなってしまった状態(耳管狭窄症)では、このパターンとなる。

なお、まれに滲出性中耳炎でも、このC型を示す例がある。この他、A型にはバリエーションが存在する。A型は外耳道内の空気圧が大気圧と同じである時に最も抵抗が小さくなるわけだが、この時の抵抗の大きさの違いで、3タイプに分類される。抵抗が最も小さくなるのが「Ad型」で、音によって鼓膜が簡単に変形して押し込まれることを意味しており、例えば、本来連鎖しているはずの耳小骨が離断している状態(耳小骨連鎖離断)では、このパターンとなる。抵抗が中庸なのが、先述の「A型」、すなわち正常型。そして、抵抗が最も大きくなるのが「As型」で、音が来ても鼓膜が動きにくいことを意味しており、例えば、耳硬化症では、このパターンとなる。
音叉検査

音叉検査とは、音叉を用いて、音の聞こえの状態を調べる検査である。なお、音叉検査で音の聴取の可否に関する閾値を測定することはできない。この点で純音聴力検査に劣るが、音叉さえあれば手軽に行える検査(大掛かりな装置の不要な検査)であるという利点がある。

音叉検査で使用される音叉は2本で、128 [Hz](ピアノ鍵盤の中央Cの1オクターブ下のCの音)を発する低音の音叉と、2896 [Hz](ピアノ鍵盤の中央Cの3オクターブ上にあるCから、さらに増4度上のFisの音)を発する高音の音叉である。気導聴力検査は、被験者に密着させずに音叉を叩くことで行う。骨導聴力検査は、被験者の耳の後ろに音叉の基底部を密着させた状態で音叉を叩いて行う。

音叉検査でよく知られた検査法としては、リンネ法(リンネ試験)とウェーバー法(ウェーバー試験)がある。
リンネ法

リンネ (Rinne) 法、または、リンネ試験とは、ドイツのアドルフ・リンネが開発した検査法である。音叉を鳴らして被験者の気導聴取時間と骨導聴取時間の差を調べる。検査結果は、気導聴取時間が骨導聴取時間よりも長い場合を「リンネ陽性」、逆に、気導聴取時間が骨導聴取時間よりも短い場合を「リンネ陰性」と判定する。

音叉は、叩いた直後から次第に音が減衰してゆく。従って、気導聴取時間が骨導聴取時間よりも短いということ、つまりリンネ陰性の時は、気導音が骨導音に比べ、著しく聞こえにくいということを示している。この気導音と骨導音の聞こえに差があるのは伝音難聴がある時の特徴であるから、伝音難聴が存在すると考えられる。なお、リンネ陽性となるのは、難聴がない場合(つまり正常な場合)に加え、感音難聴がある場合も含まれる。
ウェーバー法


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:66 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef