集電装置
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集電装置(しゅうでんそうち、英語: current collector)とは、鉄道車両トロリーバス電気を得るための装置をいう。集電器(しゅうでんき)とも呼ばれ、代表例としてパンタグラフが挙げられる。

架空電車線方式電車では通常、編成内の電動車に装備されるが、軸重(車両重量)制限や取り付け位置の制約等の関係で、無動力の制御車付随車に取り付けられる事例もある[注釈 1]。変則例では日本の電車形救援車があり、自走電力は不要な制御車であったが、救援活動に用いる機器の電源が必要なため、集電装置を持つものもあった[注釈 2]
トロリーポール関電トンネルトロリーバス(2018年限りで廃止)ホイールを使用したトロリーポール先端部(ヤキマバレーインタアーバン297号電気機関車)レトリバー(ヘッドライト右側)京都市電蹴上線(1945年休止)蹴上終点で1形の2本のトロリーポールを回す乗務員SEPTAの軽快路面電車

トロリーポール(trolley pole)とは、鉄道車両やトロリーバスの屋根上に取り付けられ、架線(トロリー)に接触させて集電する装置の一種。「ポール」または「電棍」(でんこん)とも呼ばれる。本体は軽金属ステンレス鋼等のパイプで出来ており、先端部分にはトロリーホイールと呼ばれる滑車状の車輪、またはスライダーシューと呼ばれるU字断面のすり板が取り付けられており、架線にはめ込む様に接触させる。鉱山鉄道などでは事故防止の観点から、木製のポールに絶縁材で被覆された電源ケーブルを組み合わせたものも用いられた。トロリーポールは架線に対して斜めに角度を付けてトロリーホイールやスライダーシューを接触させて使用し、架線に突っ込む方向で使用すると離線した時にトロリーポール自体もしくは架線や架線を支持する吊架線(スパンワイヤー)の損傷につながるため、なびく方向で使用するのが原則である。車両の速度が向上するにつれ、架線を外れたトロリーポールが架線や吊架線を切断する事故も増えたため、ぜんまいばねの働きで引き紐を巻き取り、トロリーポールの跳ね上がりを防ぐレトリバー(レトリーバー、トロリーキャッチャー)が考案された。

電気鉄道黎明期には幅広く使用されたが、架線に対して斜めに接触させて使用し架線の高さが変位すると架線に対するトロリーポールの接触角度も変位するので、架線との接触面に加わる圧力(架線を押し上げる力)の変動が大きい[注釈 3]。かつ質量が大きく剛性も低い(しなる)ため、
架線追従性が悪く、架線にはめこんであるトロリーホイールやスライダーシューが架線から外れてしまう離線が起こりやすい。

一旦離線が発生すると再度乗務員により架線に着線させる操作が必要である。

走行中に離線が発生するとトロリーポールが上に跳ね上がって架線や架線の吊架線を切断する事故が起こりやすい。

分岐器通過時各トロリーポールに操作員(通常は車掌が兼務)が必要で貫通路も使用しにくい。

という問題があり、高速化、大出力化、長編成化には不向きであった。

そのため、曲線や分岐が多く連結運転が多用された日本では電気鉄道の発展に伴い1920年代以降パンタグラフへの移行が急速に進展したが、トロリーポールには、構造が単純で製造コストも低い、本体のサイズが大きく作用範囲が広いため、架線の上下左右の偏倚や張力変動に強い、架線をさほど高い精度で設置しなくても使用できるので架線の設置、及び維持コストを低廉化できる[注釈 4]、といった理由から、その後も長きにわたり路面電車や小規模な地方私鉄用として使われ続けた。

アメリカではインターアーバンを中心にその後もトロリーポールを使用する例が多数見られた[注釈 5]。路面電車では1929年(昭和4年)からPCCカーが開発されて1936年(昭和11年)に基本仕様が完成[注釈 6]。以降量産して全米各地で使用され、マサチューセッツ州ボストン市を走るレッドラインのマタパン(Mattapan)支線[1]では2012年(平成24年)現在でも使用中であり、スライダーシュー付きのトロリーポールを使用している。ペンシルベニア州フィラデルフィアSEPTAでも、1980年代にPCCカーの代替として導入された川崎重工軽快電車がトロリーポールを装備して登場し、使用されている。また、アメリカではサンフランシスコ市営鉄道のFライン、ウィスコンシン州ケノーシャなど、トロリーポールを装備したPCCカーのような旧型路面電車を市中で復活運行している例も複数ある。

トロリーポールには進行方向に対して1本(シングルポール)のものと2本(ダブルポール)のものがある。戦前の日本では、大都市の路面電車を中心に、線路からの帰電が漏電して地下埋設した水道用の鉄管を腐食(電食)させる事例があり[注釈 7]、これを防ぐために架線に帰電する方式としたため、2本となった。その後、水道管の材質が電気の影響の少ない鉛等に変更されたため、戦後はすべて1本に変更されている。トロリーバスでは構造上地面への帰電が不可能であり、架線に帰電するためすべて2本となっている。

小型の車両では、屋根の中央に取り付けられ[注釈 8]、進行方向が変わる場合は乗務員が引き紐で旋回させていた。日本ではこの作業はポール回しと呼ばれる。その後車両の大型化に伴い、進行方向ごとに1対を備えるようになり、2本ポールの場合は合計4本となる。この場合、常に後ろ側を使用し、終端部で乗務員が上げ下ろしを行っていた。ポールを上げるには組み込まれたばねの復元力を利用するが、架線への追従性を確保するためにビューゲルやパンタグラフと比較して押し上げる力が強力で、かつ架線にピンポイントで正確にトロリーホイールやスライダーシューをはめ込む必要があってトロリーコード(引き紐)を操り操作するには熟練が必要であった[注釈 9]。また、分岐、転線の際は、本線側の架線から分岐側の架線への架け替えが必要となるため、乗務員は天候にかかわらず身を乗り出してポール操作を行わなくてはならず、大きな負担になった[3]。分岐部でトロリーポールを下げて付け替える手間を軽減するために、軌道側の分岐器よりも進行方向やや奥側に架線の分岐部を設置し、走行中にトロリーコードを分岐側に軽く引くだけでトロリーポールの転線が完了する様に改良されたが、離線も発生しやすいので従来の付け替え作業を行うタイプと併用されていた。

トロリーバスは道路状況によっては架線の直下を大きく外れて走る必要があるが、U字断面で水平・垂直方向に可動式のスライダーシューを装着して架線追従性を高める改良がされたトロリーポールはこの使用状況に向いており、2012年(平成24年)現在もトロリーポールが使われている。スライダー式はトロリーバス用として開発されたが、架線への追従性に優れていたため鉄道でも高速運転を行う路線を中心にホイール式から変更された例がある[注釈 10]

トロリーバスの場合は進行方向が一方のため、終端部には転回線が設けられており、途中の分岐が少ない。トロリーポールの上げ下ろしは(1)数少ない分岐(2)入出庫時(3)電化区間の鉄道線の踏切をわたる場合(4)離線や車両故障時等で、路面電車より頻度を低くして表定速度の向上による高速化を狙っている。トロリーポール自体も当初は路面電車用と同様の構造だったが、高速化に対応し、また離線時の架線や吊架線の切断事故防止のために、後年はほとんどのケースでレトリバー(トロリーキャッチャー)を取り付けた[4]

手動で操作する架線分岐器が開発され、車庫構内や停留所など停車して操作可能な場所で使用された。自動化した架線分岐機構も開発され、世界各国のトロリーバスで使用されたが[5]、構造が複雑なことと、後述するビューゲルやパンタグラフの普及により、手動式・自動式ともに鉄道や路面電車では一般化しなかった。

電気鉄道の黎明期にはさまざまな試行錯誤が行われ、トロリーポールもその起源の完全な特定には今後の研究が待たれるが、1888年(明治21年)にアメリカのダービーホース鉄道(DERBY HORSE RAILWAY)でヴァン・デポール(Van Depoele)の電気品を使用した電気機関車がトロリーポールを用いている。また同年、アメリカのリッチモンドユニオンパッセンジャー鉄道(Richmond Union Passennger Railway)がフランク・スプレイグ(Frank Julian Sprague)考案の電気鉄道システムを採用して開通、やはりトロリーポールを使用している。日本の営業用鉄道におけるトロリーポールの使用は、1895年(明治28年)2月1日の京都電気鉄道1918年(大正7年)に京都市電/京都市交通局により買収)を持ってその嚆矢とする(1890年(明治23年)5月4日から東京・上野公園でトロリーポールを使用した『東京電燈スプレーグ式電車』(鉄軌道の分野ではスプレーグと表記する事がある)が走っているが、内国勧業博覧会開催期間中の限定運行でありサンプル的存在)[6]。ホイール式は1975年(昭和50年)12月の京福電気鉄道嵐山本線北野線、スライダー式は1978年(昭和53年)10月の京福電気鉄道叡山平坦線・鞍馬線[注釈 10](現・叡山電鉄叡山本線鞍馬線)を最後に旅客用鉄道で使用する路線はなくなり、現在は乗客を乗せる車両では明治村等の保存用鉄道でのみ用いられている[7][8]


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