障害者団体向け割引郵便制度悪用事件
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障害者郵便制度悪用事件(しょうがいしゃゆうびんせいど あくようじけん)とは、2009年大阪地方検察庁特別捜査部が、自称障害者団体「凛の会(白山会)」が厚生労働省障害保健福祉部企画課が発行した障害者団体証明を利用し、障害者団体向けの郵便料金の割引制度である「心身障害者用低料第三種郵便物制度」を悪用し、約100億円単位の不正減免を受けていたことで[1][2]、障害者団体・厚生労働省・ダイレクトメール印刷・通販大手「ウイルコ」・広告代理店「新生企業」「博報堂エルグ」・大手家電量販店「ベスト電器」・日本郵便支店長等の各関係者らが摘発された法人税法違反・郵便法違反・虚偽有印公文書作成事件[3][4][5][6]

事件で被告人とされた者のうち郵便法違反の障害団体郵便料金減免制度悪用について、同制度利用郵便の93%[7]を占めていた自称障害者団体「凛の会」会長・倉沢邦夫、凛の会発起人&幹部である河野克史らは有罪判決を受けた。ただし、偽の障害者団体に厚生労働省障害保健福祉部企画課が障害者団体証明公文書を発行した虚偽有印公文書作成事件については、部下へ指示した共犯として誤認起訴されていた厚生労働省元局長村木厚子(発行時:障害保健福祉部企画課長)だけでなく、郵便法違反で有罪判決を受けた倉沢邦夫、河野克史ら「凛の会」幹部も、村木元局長の部下である元厚生労働省障害保健福祉部企画課係長が2004年6月に単独で「凛の会」を障害者団体と認める公的証明書を偽造したと主張したため、同罪では彼以外は無罪となった。元厚生労働省障害保健福祉部企画課係長には、懲役1年執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の有罪判決が下された[3][8][9]

その後、村木を共犯として起訴したことが、「大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件」に発展し、本事件の担当主任検事であった前田恒彦、および上司の元特捜部長・大坪弘道、元特捜部副部長・佐賀元明(いずれも当時の役職)の検事3人による、本事件での職務遂行が犯罪の疑いをかけられ、逆に最高検察庁被疑者として逮捕されるという極めて異例の事態になった。
事件の概要

事件のポイントは、以下のものがある。
複数の団体による心身障害者用低料
第三種郵便物制度の悪用

その内の一団体がおこした障害者団体としての虚偽の内容の公文書発行

前記一団体の捜査中におこった冤罪といわれる事件、すなわち検察による強引な取り調べと証拠の改竄による起訴

なお、この(3)は本来は「郵便制度悪用」とは無関係であるが、一体の事件として扱われることがあり、本記事でも述べる。
事件名

この事件はメディアにより、郵便不正事件[10]、郵便割引不正事件[11]、障害者郵便制度悪用事件[12]、郵便割引制度悪用事件[13]、障害者団体向け郵便割引制度悪用事件[14][15]など、様々な名称で呼ばれている。
事件の背景

郵政省当時の1976年に発足し[16]日本郵政公社を経て郵便事業株式会社に引き継がれた郵便制度として、第三種郵便という一定の要件をそなえた低料金の定期刊行物の内でも、発行人が心身障害者団体であること等の証明を得た場合、さらに低料金の郵便料金が適用される「心身障害者用低料第三種郵便物」の制度がある。例えば、本事件当時、重量200gの書籍はゆうメールだと210円、単なる第三種郵便の月刊誌では84円のところが心身障害者用の月刊誌であれば30円である[17]。このため、本来この扱いを受けないダイレクトメールを虚偽の申請により心身障害者用低料第三種郵便物と認定させることは、正規の郵便料金との差額を不法にまぬかれることで、郵便法第84条に違反する。
郵便法違反事件

障害者団体とされる「凛の会」(白山会に改称)や「健康フォーラム」が、2006年?2008年ころ、ベスト電器紳士服販売店、健康食品通販会社などのダイレクトメールを障害者団体の定期刊行物と装い、「心身障害者用低料第三種郵便物」として低価格で違法に発送して、通常のゆうメールの料金との差額(商品広告や商品販売を主たる目的とし、無料で発行されるダイレクトメールやカタログは第三種郵便物としての認可はない)[17]を数十億円単位で不正に免れたとされる郵便法違反事件である[12][1]

大阪地検特捜部が公表した捜査結果では、障害者団体6団体の定期刊行物を装い、11社の広告主のダイレクトメール約3180万通が違法に発送され、正規料金との差額・約37億5000万円を免れたとして、広告主、団体、広告代理店の関係者らが逮捕・起訴された[18][19]
虚偽公文書発行事件

凛の会の場合、心身障害者用低料第三種郵便物として発送するために必要な障害者団体の証明に、厚生労働省発行の証明書が使用されており、虚偽公文書作成罪及び同行使罪も問題となった。この点に関して、文書を実際に作成した厚生労働省の元障害保健福祉部企画課予算係長だけでなく、文書の発行権限を持っていた元障害保健福祉部企画課長(逮捕時は現職局長)であった村木厚子が、大阪地方検察庁特別捜査部によって逮捕・起訴された。

証明書の作成権限のあった村木の指示については、大阪地方裁判所の刑事裁判において関係者の多くが否定しており、裁判の争点となった。村木の大阪地裁判決では、指示は認められないとして無罪が言い渡された[20]。この無罪判決は、大阪地方検察庁が控訴を断念したため、2010年9月21日に確定判決となった[21]

村木の無罪判決を受け、2010年10月20日の元係長の公判において、検察官は、虚偽有印公文書作成罪及び虚偽公文書行使罪から有印公文書偽造罪及び偽造公文書行使罪に訴因変更する請求を行った[22]

虚偽公文書作成罪は、文書作成権限がある者が虚偽の文書を作成する犯罪である。係長には、証明書を独断で作成できる権限が無かったため、虚偽公文書作成罪が成立するためには、作成権限がある人物[23]の指示を受け、共謀して作成していたことが必要である。

村木が無罪となり、元係長の単独の犯罪となれば、虚偽公文書作成罪は成立しないため、そのままでは凛の会元会長、凛の会発起人、元係長の3人とも虚偽公文書作成罪および同行使罪では無罪となる。そのため、訴因変更により公文書偽造罪および偽造公文書行使罪に変更する手続を行った。


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