陽だまりの樹
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陽だまりの樹
漫画
作者
手塚治虫
出版社小学館
掲載誌ビッグコミック
レーベルビッグコミックス
発表号1981年4月25日号 - 1986年12月25日
巻数全11巻
アニメ
原作手塚治虫
監督杉井ギサブロー
シリーズ構成浦畑達彦
脚本高屋敷英夫水上清資
川嶋澄乃大久保智康
キャラクターデザイン江口摩吏介
音楽松居慶子
アニメーション制作マッドハウス
製作バップ、小学館
放送局日本テレビ
放送期間2000年4月5日 - 9月20日
話数全25話
ドラマ
原作手塚治虫
脚本前川洋一
演出藤尾隆、山内宗信、岡野宏信
制作NHK
放送局NHK BSプレミアム
放送期間2012年4月6日 - 2012年6月22日
話数全12回
テンプレート - ノート
プロジェクト漫画アニメ
ポータル漫画アニメ手塚治虫

『陽だまりの樹』(ひだまりのき)は、手塚治虫による日本の長編漫画、またそれを原作とした舞台劇・テレビアニメテレビドラマ
概要

ビッグコミック』(小学館1981年4月25日号から1986年12月25日号まで掲載された。第29回(昭和58年度)小学館漫画賞青年一般部門受賞。

手塚は自身の先祖が府中藩松平播磨守の侍医であったことをおぼろげに知ってはいたが、本作の執筆の直接的な契機となったのは、1980年秋に順天堂大学大学祭での講演会において祖先の話に触れたところ、聴講した学生の一人より日本医史学会の深瀬泰旦による曽祖父・良仙について書かれた論文[1]が送られてきたことである[2]。この論文に触発され、深瀬とも直接面会し、作品を構想することとなった。なお、深瀬は後に、更に調査を加えた論文を執筆している[3]。論文によれば良仙が福沢諭吉とほぼ同時期に大阪の適塾に入門していることから「福翁自伝」をひもといたところ良仙に関するエピソードがあり[4]、劇中で有効活用されている。

幕末期の日本を舞台に、当時の開国西洋文明と西洋人の流入からやがて続く倒幕、そして戊辰戦争という時代の流れの上で、対照的だが友情で結ばれた男の人生を綿密に構成されたストーリーで描いている。手塚作品の中でも『アドルフに告ぐ』と並んで緻密な取材と資料によって重厚に作劇されており、絵のタッチも劇画寄りである。主人公は二人存在し、一人は真っ直ぐな正義心の持ち主、悪く言えば世渡り下手で頑固者の武士の万二郎。もう一人は融通が効き人付き合いが良い性格、悪く言えば女好きで遊び好きでお調子者の蘭方医良庵、のちの良仙である。

タイトルの「陽だまりの樹」は、作中において主人公の伊武谷万二郎に対し、水戸学の弁証家である藤田東湖の自宅の庭の虫に食われた桜の樹を当時の日本の姿に例えて語ったものである。
あらすじ

19世紀後半、欧米が市場を求めてアジアへ進出した世界状況で日本の安全保障を確保するには、天皇の権威を背景に江戸幕府を中心とする体制を再編し、国体を強化する必要があるとする東湖だが、その幕府は慣習に囚われた門閥で占められていた。東湖はこの状態を”シロアリ等々の虫に食い荒らされ、中身が腐って倒れる寸前の老木のようなもの”だとして「陽だまりの樹」と呼ぶ。閉塞状況を打開するものは青年の行動力以外にないとする東湖の言葉は、回天史詩の「三度死を決し」を愛唱する関東小藩の下級藩士であった伊武谷万二郎の胸に熱い思いを刻み込んだ。

主人公の万二郎は無骨で真面目、退屈なお勤めに疑問も抱かず、登城のマラソンもいつも一番という、平時の武士として見本のような男であった。一方、もう一人の主人公である蘭方医の良庵は、医師の家に生まれて大坂適塾で医師の門をくぐったエリートだが、江戸に戻っても放蕩ぶりが父の良仙に厳しく戒められるほどの遊び人。江戸っ子らしく間口は広いが封建的で権力闘争に終始する医学界には批判的であり、また人間らしく生きたいとする夢想家のノンポリとして時代を眺めている。対照的な万二郎と良庵だがなぜか二人はウマが合った。

安政の大地震に際して被災者を誘導し無事に避難させたことから阿部正弘の目に留まった万二郎は、アメリカ総領事タウンゼント・ハリスへ幕府側からの護衛として派遣され、友人となる通訳ヘンリー・ヒュースケンと出会う。一方良庵は、幕府から提案された種痘所開設を目指して良仙と共に尽力するが、西洋医学を嫌う御典医達から様々な嫌がらせを受ける。

その後、軍制改革により農兵隊の隊長となった万二郎は、朽ちかけた「陽だまりの樹」である幕府への忠誠だけでなく、自分が本当に守りたいと思う人々との出会いにより銃を取り、戊辰戦争の戦場の煙に消えた。万二郎と情熱を傾けて語り合った西郷隆盛は、流れに逆らっても何にもならないと呟く。これに対し、傍観者だったはずの良庵は、時代に合わせるだけが生き方ではない、と反発する。

明治に移り、皮肉にも流れに逆らって自滅の道を選んだ西郷を討つための西南戦争に従軍する良庵。時代は彼を高位の軍医、手塚良仙に変えていた。出陣する準備の中、心のなかに現実に屈せず理想を追った友人への憧憬がよぎる。その良庵も戦場で赤痢に斃れ、時代に流されて帰らなかった。
登場人物

人物説明は原作についてのもの。
架空の人物
伊武谷万二郎
常州府中藩士安政の大地震の避難民を避難させたことで幕府に認められ、下関の米国使節の警備役に抜擢される。攘夷派であるもののそこで米国使節と交流を持ち友情を育む。気難しいハリスの接待にも成功する。その後江戸に戻り幕府陸軍歩兵隊の創設に関与。幕政の改革を志しつつ、倒れ行く幕府に忠誠を尽くす。最後は彰義隊に参加して、敵の砲撃によって姿を消した。帰るべき場所(家族や友達のもと)には永久に戻らなかったことが明言され、その死を示唆していると言えるが、蝦夷地に向かったとの噂も記されてはいる[※ 1]。直情径行型の性格で世渡りが下手だがは強い。誠実な人柄は幕末の偉人達や外国人ですら心を動かすこともある。元々攘夷派であったがハリスやヒュースケンの交流の末に開国し国を強くするという方針に変更する。また、挨拶程度の英語は言えるようになった。
伊武谷千三郎
万二郎の父。万二郎と同様に硬骨な武士。刺客に狙われた良仙を守ろうとして足を滑らせ、堀に落ちて心臓発作で死ぬ。
とね
万二郎の母。武家の母らしく、優しさと厳しさを合わせ持つ女性。夫の仇の妹であるお綾を許せず、食事を与えず死なせようとするが、江戸が洪水になると思わず助け、やがて万二郎と綾の結婚を後押しする。
庄助
かつて伊武谷家があった永沢村の庄屋。万二郎の歩兵隊創設に協力する。
多紀誠斉
種痘事業を妨害する狭量な漢方医。医学館副督事。蘭方医を敵視して徹底的に排斥するが、自身がコレラに罹患するに至ってもあくまで漢方にこだわり、回復することなく死亡する。
多紀元迫
誠斉とともに蘭医を迫害するが、中途から蘭方の優越性を認め協調を図る良心派。そのため誠斉に地下倉に監禁されてしまう。
おせき
元麻布善福寺住職・旦海貞徴の娘。良庵と万二郎が思いを寄せる。人殺しが嫌で武家を嫌うが万二郎に惹かれていく。しかしヒュースケンに犯されたことをきっかけに、以前より望んでいた尼寺に入る。
十三奴
曾根崎新地の廓の妓。客として来た良庵に治療を受けるが、漢方医の誤診で死亡する。
星鶴
曾根崎新地の廓の妓。声の出なくなる漢方薬で良庵をだまし、からかっていた。
豆鶴
曾根崎新地の廓の妓。星鶴の言葉を伝える役で、星鶴とともに良庵をだます。
丑久保陶兵衛(山犬陶兵衛)
新田宮流居合術の達人。蘭医の誤診で妻を不治の体にされたため、蘭学者、外国人すべてに屈折した恨みを持つ。攘夷派の旗本の配下で幾度となくテロ行為に及び、万二郎とたびたび切り結ぶ。
さと
陶兵衛の妻。安政の大地震で死亡。
佐伯甚七郎
府中潘江戸詰家老。出世と保身のために要領よく立ち回るだけの人物で、万二郎が安政の大獄に連座した際は脱藩者扱いにして無関係を決め込む。
お品
安政の大地震で助けられた万二郎に思いを寄せる大坂の商家の娘。万二郎を憎む陶兵衛に犯されるが、万二郎を守るため陶兵衛の妻に甘んじ、やがて子をもうける。陶兵衛の死後は将来を悲観して子を殺め、彰義隊に参加した万二郎のもとへ向かうもそこで戦死する。
お紺


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