陰獣
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『陰獣』(いんじゅう)は、江戸川乱歩の著した推理中編小説である。
概要

博文館の雑誌『新青年1928年昭和3年)の8月増刊号、9月号、10月号に3回に分けて連載された。

連載長編『一寸法師』に自己嫌悪を覚えた乱歩は、一旦断筆して、放浪の旅に出かけた。そして、14か月の後に執筆されたのがこの「陰獣」であった。当時『新青年』の編集長であった横溝正史の宣伝もあって、乱歩は華々しい復活を遂げることとなった。

この作品に登場する二人の探偵作家のうち、「寒川」は甲賀三郎、「大江春泥」は乱歩自身をモデルにしている。また春泥の著作として、セルフパロディとして乱歩の著作を元にした小説名が作中に複数登場している[注 1]

題名の「陰獣」は、乱歩によれば、猫のような「おとなしくて陰気だけれど、どこやらに秘密的な怖さ不気味さを持っているけだもの」の意[1]。しかし、作品発表直後から「淫獣」と誤解・混同されてセクシュアルな意味で受け取られることが多く、変態的な犯罪が発生するたびに、新聞記事などでしばしば「陰獣」という見出しが用いられるようになった[注 2]ため、乱歩は「私はそれを見るたびに、実にいやな思いをしたものだ」と不快の念を示している[3]

1987年刊行の春陽文庫・江戸川乱歩文庫版の発行部数は新版(2015年2月)の発売までに22刷・9万5000部[4]
結末の変更

発表当初、甲賀三郎や平林初之輔、井上良夫などから、故意にぼかした形の結末が蛇足であるという批判を受けたため、乱歩は『石榴』(柳香書院、1935年)に本作を再録した際、結末をはっきりさせる形に書き改めた。しかし、『鏡地獄』(鎌倉文庫1946年)への再録以後は、発表当初の形に戻されている[5]
あらすじ

探偵小説家の寒川は、上野の帝室博物館で、実業家小山田六郎の妻で、寒川の探偵小説の愛読者だという小山田静子と偶然知り合った。静子は寒川に、自分がかつて捨てた男である、謎の探偵作家・大江春泥こと平田一郎に脅迫されていると語る。静子への下心と作風の異なる春泥への興味から、寒川は春泥を追うことになるが、行方を掴めぬ内に、春泥の脅迫通り、静子の夫・六郎が死体で発見される。しかし、そこには思いもよらない真相があった。.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

この節にあるあらすじは作品内容に比して不十分です。あらすじの書き方を参考にして、物語全体の流れが理解できるように(ネタバレも含めて)、著作権侵害しないようご自身の言葉で加筆を行なってください。(2013年2月)(使い方

登場人物
寒川(さむかわ)(「私」)
本作の語り手。探偵型の
探偵小説家で、明るく常識的な作風。モデルは甲賀三郎
小山田静子(おやまだ しずこ)
実業家小山田六郎の妻。出身地は静岡女学校4年の頃に平田一郎(大江春泥)と一時付き合っていた。春泥に脅迫され、寒川に助けを求める。
小山田六郎(おやまだ ろくろう)
静子の夫。合資会社碌々商会の出資社員。静子とは年齢が離れている上、年齢よりも老けて見える。
大江春泥(おおえ しゅんでい)
本名は平田一郎。謎に満ちた犯罪者型の探偵小説家で、暗く病的でネチネチとした作風。『新青年』に原稿の写真版が掲載されたことがある。かつて静子と付き合っていたが、捨てられたことで彼女に恨みを持っている。極度の人間嫌いで、原稿の依頼や受け渡しは手紙を通じて行うことが多い。引っ越しを繰り返す癖があり、2年間に7か所も住居を変えている。モデルは江戸川乱歩(本名は平井太郎)自身。
大江春泥の細君
洋髪で近眼鏡をかけている。人間嫌いの春泥に代わって原稿を取りつぐことが多い。
本田(ほんだ)
寒川の友人。博文館の外交記者で、大江春泥本人と会話したことのある数少ない人物。
糸崎(いとざき)
検事。小山田六郎変死事件の担当。法学士。探偵作家・医学者・法律家などで作っている「猟奇会」の会員で、寒川とは旧知の間柄。
青木民蔵(あおき たみぞう)
小山田家のお抱え運転手。
平山日出子(ひらやま ひでこ)
女流探偵小説家として作品を発表しているが、実は男性で政府の役人。モデルは久山秀子
横溝正史による解説

1927年昭和2年)正月に、横溝正史は神戸で結婚したが、その間に森下雨村は、自宅のある小石川小日向台町に横溝のための借家を用意していた。当時小日向町には延原謙松野一夫平林初之輔(のち『太陽』の編集長)らがいて、雨村を中心に「新青年グループ」を形成しており、横溝は「小日向台町に住むことによって、ハッキリと雨村傘下に編入された」という。

博文館に入社して三月ほどのうちに、横溝は博文館で人事の大改革を聞かされた。編集局長の長谷川天渓が退職し、雨村が就任するので、『新青年』を横溝に一任するから相棒を物色せよというものだった。この年の暮に改革は断行され、『農業世界』以外の雑誌の編集長は全て首となった。隠密裏にこの計画は進められ、横溝は「その申し渡しがあったとき、博文館が騒然とし、殺気だったのを私は今でも覚えている」と語っている。しかしこの計画は横槍が入って長谷川退陣が実現せず、雨村が『文芸倶楽部』編集長として雌伏せざるを得ないこととなって挫折した。

こうなると、『新青年』を一任された横溝はかねてから眼をつけておいた渡辺温を引っ張り込んだものの、主力作家としての頼みの綱は乱歩ただひとりとなった。ところが、当時乱歩は夫人に下宿屋をやらせながら「クサリにクサリ切っていた」ときだった。それというのも、乱歩は『新青年』が横溝のモダン主義によって、旧来の味の探偵小説を追い出してしまい、自分はもう『新青年』に顔出しできないと考えていたのである。乱歩はたびたび横溝に、「今の新青年みたいなモダンな雑誌に、ぼくみたいな作家は不向きだろう」との言葉を被害妄想気味に聞かせていたという。

横溝によると当時乱歩は躁鬱気味だったそうで、これは思いもよらぬ話だった。が、ちょうどそのころ、横溝はファーガス・ヒュームの探偵小説『二輪馬車の秘密』を匿名で黒岩涙香風に翻訳し、『新青年』6月増大号に掲載していた。当時博文館では、普通号では編集者がいくら書いても原稿料は出なかったが、増刊や増大号なら原稿料が出たのである。横溝は「そこは同好の士だけに、乱歩はすぐにそれが私であることを看破したにちがいない」ということで、すぐに乱歩はこの『二輪馬車の秘密』の訳筆についての長文の批評を手紙で送って来た。「横溝のやつ、いやにモダンがっていると思ったら、まだこういう趣味も持っているのか」と気を好くしたと見た横溝は、下宿屋「緑館」を経営していた乱歩の家に、読み切りの執筆依頼を持ち込んで行った。
破格の原稿依頼

横溝は乱歩に、増刊用に100枚ほどの原稿を頼み、原稿料として1枚「8円」を提示した。『パノラマ島奇譚』当時の乱歩の原稿料は1枚「4円」であり、この倍額の提示に乱歩も驚いた風で、森下の名を出したが、横溝は「『新青年』はぼくが任されているから」と保証した。当時『新青年』の編集費は原稿・画料ひっくるめて2千円だったが、増刊・増大号は頁数も多いので千円上積みされた(合計3千円?)。横溝は乱歩一人に800円払っても残り1200円(2200円?)でなんとか賄ってみせる自信があったので、この破格の条件を提示したのである。乱歩は納得したようだったが、確たる返事は得られなかった。1928年昭和3年)、5月の7日ごろの話だという。

6月号増刊の発行日は7月20日だったが、随筆や評論以外すべて翻訳という編集内容は、横溝から見てあまりにも貧弱だった。改めて乱歩に手紙で懇願した横溝は、6月末に再び乱歩宅を訪ねた。すると乱歩は5、60枚の原稿を見せてくれた。その原稿には覚書として、「短冊形に切った原稿用紙が、まるで御幣のように、あちこちに一杯ヒラヒラ貼りつけてあった」という。乱歩によるとそれは『改造』からの依頼で書いたものの、200枚ちかく書きたいが『改造』が難色を示し、枚数で折り合いがつかない小説だといい、『新青年』に廻してもいいと言うのだった。

乱歩からその内容を聞かされた横溝は大いに乗り気となり、「ぼくが大々的に宣伝しますから」と『新青年』での発表を持ちかけた。原稿料についても、前回提示を再び約束した。ただ、1枚8円で200枚となると原稿料は1600円、これを乱歩一人に持っていかれては『新青年』は破産必至ということで、ここだけは守る気はなかったという。横溝は「ここが乱歩狐と正史狸の化かし合い」と述懐している。

この小説は、当初あまりにも平凡な題名だったため、夏の増刊の呼び物にしたかった横溝は「宣伝のしよがおまへん。なんかもっと凄みがあって、色気のある題に変えてくださいよ」と交渉し、気もほぐれてきた乱歩は『陰獣』とこれを改めた。横溝によると「乱歩という作家は筆を執るまでが大変なのだが、いったん筆を執るとそれほどの遅筆家ではなかった」とのことで、まもなく総頁数175枚の『陰獣』原稿が出来上がった。横溝はその内容を読んで、トリックも犯人も知っている筈ながら「そこに漂うオドロオドロしき妖気に打たれ」て、大きな興奮に包まれ、森下雨村も「乱歩君も大した自信だねえ」と、驚嘆していたという。


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