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陪審制(ばいしんせい、英: jury trial, trial by jury)とは、陪審員が判決や事実認定を行う合法的な手続きのことである。これは、裁判官または裁判官団がすべての決定を下すベンチ・トライアル (bench trial)とは異なる。
陪審員裁判は、多くのコモン・ローの司法制度において、重大な刑事事件のかなりの部分で用いられているが、すべてではない。アジアのコモン・ロー地域(シンガポール、パキスタン、インド、マレーシアなど)では、陪審員が偏見を持ちやすいという理由で陪審員裁判を廃止している国が多い。また、多くの大陸法国では、刑事事件については、陪審員や裁判員が法制度に組み込まれている。米国のみが、刑事事件以外の様々な事件で陪審員裁判を日常的に利用している。他のコモン・ロー法域では、民事事件全体の中でごく一部の事件(イングランドやウェールズにおける悪質な起訴や誤った投獄の訴訟など)でのみ陪審裁判を採用しているが、世界の他の地域では、民事陪審裁判はほとんど行われていない。しかし、一部の大陸法地域では仲裁パネルが設置されており、法的な訓練を受けていないメンバーが、仲裁パネルのメンバーの専門分野に関連する特定の主題分野の事件を決定している。
陪審裁判は、大陸法制度ではなくコモン・ロー制度の中で発展してきたものであり、たとえ特定の事件で実際にはベンチ・トライアルが想定されていたとしても、米国の民事訴訟規則や刑事訴訟規則の性質に大きな影響を与えてきた。一般的に、適切に要求されれば陪審員裁判を受けることができるため、事実認定は複数回の審理ではなく1回の裁判に集中し、裁判の判決に対する上訴審査は大幅に制限されている。コモン・ロー制度を持たない国では、陪審裁判の重要性ははるかに低い。 陪審には、刑事事件で被疑者を起訴するか否かを陪審員が決定する大陪審(だいばいしん、英:grand jury、起訴陪審)と、陪審員が刑事訴訟や民事訴訟の審理に参加する小陪審(しょうばいしん、英:petit jury、審理陪審)がある。これらの名称は、伝統的に大陪審は23人、小陪審は12人で構成されていることによる。一般に陪審という場合は小陪審のことを指す。 陪審員は一般市民から無作為で選ばれ、刑事事件や民事事件の審理に立ち会った後、陪審員のみで評議を行い、結論である評決を下す。同様に一般市民が裁判に参加する制度として参審制や、日本で実施されている裁判員制度があるが、陪審制は裁判官が評議に加わらず、陪審員のみで事実認定と法の適用を行う点でこれらと異なる。 陪審制はイギリスで古くから発展し、アメリカ合衆国等に受け継がれたものである。 アメリカでは連邦や各州の憲法で刑事陪審及び民事陪審が保障されており、年に9万件以上の陪審審理が行われている。イギリスでも刑事陪審は行われているが、民事陪審はほとんど行われていない。その他、オーストラリア、カナダ、韓国、デンマーク、ニュージーランド、ロシア等で陪審制が行われている。 日本でも戦前、1928年(昭和3年)から刑事陪審が実施されたが、1943年(昭和18年)に施行停止されたまま現在に至っている。 現在陪審制が実施されている主な国であるアメリカ(連邦、各州)及びイギリス(イングランド、ウェールズ)における一般的な陪審審理の手続は、以下のとおりである[1]。 陪審員の数は、伝統的には12人であるが、法域(国や州)[注 1]によって、これより少ない人数としているところもある。陪審員は、一般市民の中から無作為で選任され、宣誓の後、法廷の中に設けられた陪審員席に着席して審理(対審[注 2])に立ち会う。ネバダ州にある裁判所の陪審員席。通常は陪審員席は左右どちらかの壁際にあり、法廷の中央に設けられているのは珍しい。 陪審員の参加する審理においては、裁判官は法廷を主催して訴訟指揮(異議の裁定など)を行い、陪審員が偏見を与えられたり、不適切な証拠が法廷に持ち込まれたりすることを防ぐ。そして、裁判官は、審理が終わった段階で、陪審員に、どのような法が適用されるべきかという詳細な説示 (英:instruction, charge) を行う。陪審は、法廷に提出された証拠と、裁判官の説示を踏まえ、事実認定とその事実に対する法の適用の双方について密室で評議した上で、評決 (英:verdict) を答申する[注 3]。民事陪審では、例えば被告の責任の有無だけでなく損害賠償額についても評決を答申する。刑事事件では、陪審が有罪・無罪を答申し、有罪の場合の量刑については裁判官が決定するのが原則である。
概要
構成
審理手続「対審」も参照