閾値電圧
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MOSFET電界効果トランジスタの一種)でのチャネル(電子密度)の形成と閾値電圧の印加のシミュレーション結果。このデバイスの閾値電圧はおよそ 0.45 Vである。

閾値電圧(しきいちでんあつ、Vth、英語:Threshold voltage、スレッショルド電圧、スレッシュホールド電圧)とは、デジタル信号を H(もしくは 1)/L(もしくは 0)信号として検知するのに必要となるしきい値となる電位のことである。仕組みを簡単に言うと、トランジスタをスイッチングさせるのに必要な電圧である。

電界効果トランジスタ(FET)を例とすると、ソース-ドレイン間の伝導パスを形成するために印加されるゲート?ソース間電圧VGS (th)にかかる電圧の事である。このように、トランジスタを内蔵しているICが信号として認識するのに必要な信号グランド間の最低限電位など色んな場所で使用される。この電圧は、電力効率や信号を維持するためには、最も重要な数字である。

接合型電界効果トランジスタ(JFET)における閾値電圧は「ピンチオフ電圧」と呼ばれることもあるが、これは若干紛らわしい言い方である。なぜなら絶縁ゲート電界効果トランジスタ(IGFET)において「ピンチオフ」とは、ソース-ドレイン間バイアスが大きい場合の電流飽和挙動を示すチャネルピンチオフのことを指し、このとき電流はゼロでは無いためである。「ピンチオフ」とは違い「閾値電圧」と言う言葉には曖昧さは無く、他の電界効果トランジスタにおいても同じ考えを表している。

なお、MOS型のFET(MOSFET)の閾値電圧については、MOSダイオードの「エネルギーバンド図」の項を参照されたい。
基本原理

nチャネル エンハンスメント形 デバイスでは、トランジスタ内に伝導チャネルが自然に存在せず、伝導チャネルを作るためには正のゲート-ソース電圧が必要である。正の電圧によって自由電子をゲートに引きつけ、伝導チャネルを形成する。しかしまずFETの基板に加えられたアクセプターイオンを中和するために十分な電子がゲート近くに引きつけなければならない。これは空乏層と呼ばれる移動キャリアが存在しない領域を形成する。これが起きる電圧を、FETの閾値電圧と呼ぶ。さらにゲート-ソース間電圧を大きくすると、より多くの電子がゲートに引きつけられ、ソースからドレインに伝導チャネルを作ることができる。これを「反転」と呼ぶ。

一方でnチャネル デプレッション形 デバイスは、トランジスタ内に伝導チャネルが自然に存在する。その結果「閾値電圧」という言葉はそのようなデバイスをオンするために用いられないが、その代わり電子が容易に流れることができるために十分なチャネル幅になる電圧のことを意味する。この流れやすい閾値はpチャネル デプレッション形 デバイスでも用いられる。ゲートから基板/ソースへの正の電圧が正孔をゲート-絶縁体/半導体界面から引き離すことにより空乏層を作り、キャリアが無く固定された負電荷のアクセプターイオンのみが存在する領域を作る。

幅広い平面のトランジスタにおいて閾値電圧はドレイン-ソース電圧に本質的に依存せず、よく定義された特徴がある。しかし現代のナノサイズMOSFETではドレイン誘起障壁低下によりあまり明確ではない。.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}閾値電圧以下でのnMOSFETの空乏層閾値電圧以上でのチャネルが形成されたnMOSFETの空乏層

図では、ソース(図の左側)とドレイン(図の右側)は、高濃度にドープされたn領域(青)を示すため「n+」と記してある。空乏層(ピンク)ではイオンは負に帯電しており、正孔がほとんど無いことを示すため「NA?」と記してある。バルク(赤)では、正孔の数p = NAはバルク電荷を中性にする。

ゲート電圧が閾値電圧以下の場合(左図)、トランジスタはオフとなり、理想的にはトランジスタのドレインからソースへは電流は無い。実際は閾値電圧以下のゲート電圧でも小さい電流は存在し(サブスレッショルド電流)、ゲート電圧について指数関数的な変化する。

ゲート電圧が閾値電圧以上の場合(右図)、トランジスタはオンとなり、酸化膜-シリコン界面でのチャネルに多くの電子が存在するため、ドレインからソースへ電荷が流れることができる抵抗が小さいチャネルが作られる。閾値電圧を大きく上回る電圧では、この状況は強く反転していると呼ばれる。VD > 0の場合、チャネルは先細になる。なぜなら抵抗チャネルの電流による電圧降下は、ドレインに近づくにつれてチャネルを支える酸化物の電場を減少させるためである。
基板効果

基板効果とは、ソース-バルク電圧 V S B {\displaystyle V_{SB}} の変化にほぼ等しい大きさだけ閾値電圧が変化すること。(ソースは関係しない場合)基板が閾値電圧に影響するために起こる。基板は第二のゲートと考えることができるため「バックゲート」と呼ばれることもある。また基板効果は「バックゲート効果」と呼ばれることもある[1]

エンハンスメントモードNMOS MOSFETでは、閾値電圧の基板効果はShichman?Hodgesモデルで計算でき[2]、以前のプロセスノードでは正しく[要説明]、次の方程式を用いる。 V T N = V T O + γ ( 。 V S B + 2 ϕ F 。 − 。 2 ϕ F 。 ) {\displaystyle V_{TN}=V_{TO}+\gamma \left({\sqrt {\left|V_{SB}+2\phi _{F}\right|}}-{\sqrt {\left|2\phi _{F}\right|}}\right)}

ここで V T N {\displaystyle V_{TN}} は基板バイアスが存在する場合の閾値電圧、 V S B {\displaystyle V_{SB}} はソース-基板バイアス、 2 ϕ F {\displaystyle 2\phi _{F}} は表面ポテンシャル、 V T O {\displaystyle V_{TO}} は基板バイアスがゼロの場合の閾値電圧、 γ = ( t o x / ϵ o x ) 2 q ϵ Si N A {\displaystyle \gamma =\left(t_{ox}/\epsilon _{ox}\right){\sqrt {2q\epsilon _{\text{Si}}N_{A}}}} は基板効果パラメータ、 t o x {\displaystyle t_{ox}} は酸化膜厚、 ϵ o x {\displaystyle \epsilon _{ox}} は酸化膜の誘電率、 ϵ Si {\displaystyle \epsilon _{\text{Si}}} はシリコンの誘電率、 N A {\displaystyle N_{A}} はドーピング濃度、 q {\displaystyle q} は電気素量である。


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