閏秒
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追加する場合は、通常は存在しない23時59分60秒(協定世界時での時刻)を追加し調整する

閏秒(うるうびょう、: leap second)は、現行の協定世界時 (UTC) において、世界時のUT1との差を調整するために追加もしくは削除されるである[1][2]。この現行方式のUTCは1972年に始まった。2022年までに実施された計27回の閏秒は、いずれも1秒追加による調整であった[3]

直近の閏秒の挿入は、日本においては2017年1月1日午前9時直前(日本標準時)に行われた[4]

現代においては、閏秒の調整がシステム上の様々な問題を引き起こしているため、その廃止について議論が続けられてきた。その結果、2022年の国際度量衡総会(CGPM)において、2035年までにUT1UTCの差分の許容値(現在は0.9秒)を増加させることが決議された。2023年12月11日には国際電気通信連合(ITU)が同様の決議を行った[5]。これらの決議は閏秒を廃止するものと紹介されることがあるが、正確にはUT1とUTCの差分の許容値を大きく広げるというものであり、閏秒の廃止ではない(後述)。

なお、閏日は「地球の公転」に基づく考えであり、「地球の自転」に基づく閏秒とは直接の関係は無い。
概要
1日の長さ LOD (Length of Day)1962年から2021年までの1日の長さ (LOD) の変動(緑線が一日の長さから86 400秒を差し引いたものの365日移動平均)

地球の自転に基づく世界時は、太陽が朝に出て夕方に沈むといった、日常生活に関係する時間観念からは便利である。しかし、地球の自転の角速度、すなわち「1日の長さ (LOD : Length of Day)」は一定ではない[6]。なお「LOD」は、1日の長さそのもの(例えば、86400.002 秒)をいう場合もあるが、1日の長さから86400 秒を差し引いたもの(例えば、0.002 秒または2 ミリ秒)をいうことが多い[7]ので注意が必要である。

24時間×60分×60秒 = 86 400秒であるから、歴史的には1秒の長さは1日の長さの86 400分の1と定義されてきた。問題は、この1日の長さとして、いつの時点における1日の長さを採用するかである。

1956年、秒の長さを1900年1月1日時点の地球の公転速度によって定義した(これを暦表秒という)とき、その秒の長さは、1750年から1892年までの間(約140年間)のLODの天文観測結果によっていた(これはほぼ1820年時点でのLODの1/86 400を1秒と定めたことになる)。

1955年頃、アメリカ海軍天文台 (USNO) のウィリアム・マーコウィッツとイギリス国立物理学研究所 (NPL) のルイ・エッセンは、セシウム原子の超微細遷移周波数暦表秒との関係を研究し[8]、1秒が9192631770周期だという数値を得たが、彼らが基準とした秒の長さは、上記の暦表秒であった。

そして、1967年に国際原子時 (TAI) における秒の長さを決めたとき、その長さは、マーコウィッツとエッセンが求めた9192631770周期の通りに定義された。

LODは長期的な傾向として100年間(正確にはユリウス世紀 = 36 525日)につき約1.4ミリ秒/日だけ長くなる[9]。1967年は、暦表秒の基準であった1820年から約150年が経過しており、この時点ですでに、LODは86 400.002秒(つまり2ミリ秒だけ長い)程度になっていた[10]

したがって、1967年に国際原子時による秒の定義がスタートしたときには、1日の長さ (LOD) と86 400秒(国際原子時によるもの)との間には、すでに数ミリ秒の差が存在していた。

現在の秒の定義の基であるセシウム原子の振動数(精度は10-11)は、地球の自転(1日の長さ)(精度は10-8)とは全く無関係であり、かつ精度が1000倍も違うので、国際原子時世界時との差が1950年代からすでに生じていたことと、その差(マイクロ秒 - ミリ秒単位)がそれ以降は不安定になることは、当初から想定されていた。
LODの変化

LODは、1820年から150年後の1967年に約2ミリ秒/日程度長くなっていた。そして閏秒が導入された1972年のLODは約3ミリ秒/日に、1990年のLODは約2ミリ秒/日となり、1820年時点と比べて約2 - 3ミリ秒程度長くなってしまった[6]。1秒 ÷ 3ミリ秒/日 = 333日 であるから1972年頃には約1年( = 約365日)おきに、1秒 ÷ 2ミリ秒/日 = 500日 であるから1990年頃には約1年半( = 約548日)おきに閏秒を挿入する必要があった。

更に2003年のLODは 約86 400.001秒であり、1990年頃と比べてLODは更に短くなった。1秒 ÷ 1ミリ秒/日 = 1000日 であるから、2003年頃には、約3年( = 約1095日)おきに閏秒を挿入することとなった。LODが約86 400.001秒程度である傾向は、2015年に至っても継続している。

LODが長期的には100年間につき約1.4ミリ秒/日だけ長くなることは前述のとおりであるが、上記の1972年(3ミリ秒/日)、1990年(2ミリ秒/日)、2003年以降(1ミリ秒/日)の値からわかるように、ここ40年間では、一日の長さ (LOD) はむしろ短くなっている(地球自転速度が速くなっている)。日々のLODが86 400秒と比べてどれほど長いかは、IERS(後述)のウェブページで見ることができる[11][12]。また、これまでの約50年間のLODの変動も、IERSのウェブページで見ることができる[13]。これらによれば、現在(2015年)の平均的なLODは、86 400.001秒程度であり、年間を通じると86 400秒より長いが、6月 - 8月にかけては86 400秒より短くなる期間もある。
精度と歩度のずれ

上記のように、「1日の長さ」LODは一定でなく、10-8程度の精度しかない。このためUT1における1秒も一定しておらず、時間の精密な標準としては不適当である。

この点では1秒の長さに10-11以上の精度がある国際原子時の方が適切である。しかし国際原子時の歩度(時間の進み方)は地球の自転とは全く無関係なので、両者の歩度のずれは避けられない。
LODの変動要因

LODの変動に最も大きな影響を及ぼすのは、潮汐であり、朔望月の周期で0.6-0.8ミリ秒程度の変動がある[14]

1年から数年程度の周期のLOD変動の原因は、その大部分が大気(地殻の相互作用)によることが確かめられている[15]

一方、LODの年単位より長周期の変動の原因は分かっておらず、未解決の課題である[16][17]による潮汐摩擦、地震による地球内部の質量の分布変化、マントルと外核の相互作用[18]、氷床の消長[19]、地球内部の核、風、海水などによる影響が考えられているが、定量的には分かっていない。
閏秒による調整の概要

現行の協定世界時 (UTC) は、国際原子時 (TAI) とUT1という2つの時刻系を基にしており、TAIと同一のSI秒の定義を用いている。

国際原子時は「原子や分子が2つのエネルギー準位間の遷移によって、ある特定の振動数を持つマイクロ波を放射する」原理を利用した原子時計に基づいており[20]、他方、世界時であるUT1は地球の自転に基いている[1][20]

国際原子時の利点を保ちつつ、昼と夜という生活感覚とずれないようにする方法が、閏秒による調整である。協定世界時は、1秒の長さは国際原子時に合わせつつ、UT1との時刻の差を閏秒によって調整している[21]
閏秒挿入の理由についての間違った理解

閏秒の必要性や閏秒挿入の理由については、次のような説明がしばしば見られる。
地球の自転速度が徐々に遅くなっているために、これと国際原子時との差を調整するために閏秒を挿入している
[22][23]

頻繁に閏秒が挿入されてきたのは、地球の自転が徐々に遅くなっており、この遅れを調整するためである。

以上の説明は、間違った理解に基づくものである[24][25][26][27]

正しくは以下のとおりである。

セシウム遷移の9 192 631 770周期を1秒とする国際原子時の歩度は、1750年 - 1892年の間(平均的には、1820年頃)に行われた天文観測からサイモン・ニューカムがTables of the Sunに基づいて計算した秒の長さに基づいて決められた。したがって、1958年当時の地球自転の歩度(86 400.0025 SI秒程度)とは合わなくなっていた[28]

もし、国際原子時の歩度を、セシウム遷移の9 192 631 770周期ではなく、9 192 631 997周期にしておけば、1972年以降、2回のマイナス(閏秒の削除)と1回のプラス(閏秒の挿入)の3回だけの閏秒の削除・挿入で済んでいたはずである[29][30]


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