鏡_(映画)
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ЗЕРКАЛО
監督
アンドレイ・タルコフスキー
脚本アンドレイ・タルコフスキー
アレクサンドル・ミシャーリン
音楽エドゥアルド・アルテミエフ
撮影ゲオルギー・レルベルグ
配給日本海映画
公開 1975年3月7日
1980年6月14日
上映時間108分
製作国 ソビエト連邦
言語ロシア語
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『鏡』 (ロシア語:ЗЕРКАЛО [Zerkalo],英語:The Mirror) は、アンドレイ・タルコフスキーが監督した1975年ソ連映画である。作者の自伝的要素の強い映画であるが、また同時にロシアの現代の歴史を独特の手法で描き出した作品でもある。タルコフスキーの作品において、中心をなす代表作である。
キャスト

母マリア/妻ナタリア:マルガリータ・テレホワ

父:オレーグ・ヤンコフスキー

少年時代の作者(アレクセイ)/現代の作者の息子(イグナート):イグナート・ダニルツェフ

幼年時代の作者:
フィリップ・ヤンコフスキー

医者:アナトーリー・ソロニーツィン

挿入詩朗読:アンドレイ・タルコフスキー

ナレーション:イノケンティ・スモクトゥノフスキー

概説
オープニング?反響の暗喩

『鏡』は、言語症の少年が回復訓練を受けているTV画面の情景から始まる。女医が話しかけ、少年は吃音でうまく話せない。女医は少年をリラックスさせ暗示を与えつつ、「ぼくは話せます」と言ってごらんなさいと指示する。女医の言葉に合わせて少年が鏡像のように言葉を繰り返したとき、彼はうまく話すことが出来る。そして同時に「鏡」というタイトルが出てくる。

このオープニングはきわめて示唆に富んでおり、ここにタルコフスキーの映画のエッセンスが表現されているとも言える。無意識のなかに確かに存在するが、何かの障害によって意識にうまく再現されない記憶・情景。このような「心の深層」のイマージュが、ある魔術的とも言える手順を通じて、この現在に、に映る像のように再現され意識化される。これがタルコフスキーの映画の基本的な構造でもある。
フラッシュバックと記憶

映画はそこから一挙に過去にフラッシュバックし、作者 (タルコフスキー) の少年時代に戻る。まだ若かった母が農場の柵に腰掛けている情景が出てくる。医者だと自称する見知らぬ男 (アナトーリー・ソロニーツィン) が現れ、作者の母と意味ありげな謎めいた言葉を交わし、風の吹くなか遠ざかって行く。その過ぎ去って行く医者の姿と共に、作者の父であるアルセニー・タルコフスキーの詩を朗読する声が流れる。

『鏡』は具体的な筋や物語を持っていない。妻との離婚問題に直面し退廃的に精神の絶望に陥って行く作者の「枠物語」はあるが、ふとした言葉や出来事が映画の場面を多様な過去の記憶の情景へと引き込んで行く。現在は過去の記憶に浸透される。

様々な魅力的でもあれば象徴性に富んだ情景が、あるときは田舎の自然として、家のなかの薄暗い情景として、印象的な雪のなかの坂道を登る少年の姿として現れる。映画は歴史ドキュメンタリーの映像を挿入しながら過去と現代を交互に行き来しつつ、記憶の積み重ねとして構成されている。展開して行く映像の場面に、詩人であった父アルセニーの詩を朗読するタルコフスキーの声が重なって行く。
個人の記憶とロシアの歴史

過去と現在を往復しながら、作者であるタルコフスキーの記憶が呼び出されると共に、ロシア旧ソ連)の歴史、過去の時代の政治状況などが描き出されている。祖父の別荘で、夜、納屋が燃えた事件。このとき以来、父は家族から去って行ったのだった。母が印刷所で校正係を務めていたとき、印刷物の校正ミスをしたかと思い、早朝に活版の文字を確認しに出かけた情景。誤植が政治的意味を持つとき、人のいのちにも関わった、スターリン独裁時代のソ連の記憶であった。

作者の部屋で、スペイン人たちが闘牛について話している。ニュース映画の映像が現れ、スペイン内戦時代の様々な情景が流れて行く。またソヴィエト最初の成層圏飛行船の成功を祝う人々の姿が映し出される。印象的な情景が幾つもあるが、そのなかの一つは、「魔術的な存在の消失」とも言える、映像の暗喩である。

一人の老婦人の要望に応え、作者の息子イグナートはプーシキンの書簡の一部を朗読する。それは、タタールチンギス・ハーンなど)の圧倒的な破壊暴力に対する防波堤となった、ロシア(ルーシ)のヨーロッパキリスト教文明史における存在意義に関する一節であった。婦人は部屋のなかのテーブルに向かい紅茶を飲んでいる。イグナートがわずかの時間席を外して部屋に戻って来ると婦人の姿は消えている。紅茶のカップも消えているが、テーブルの上にはついさっきまでカップが置かれていた痕跡があり、それが見ているなかで、湯気が消えるように見る見る消えて行く。
記憶のイマージュの交錯と交響

作者は少年時代、雪のなかの道を歩き、射的場で軍事訓練を受けたことを思い出す。再び、ニュース映像が現れ、濁った川を渡ろうとする兵士たちや、行軍する兵士たちの映像が流れる。ベルリンの陥落とヒットラーの遺体。広島長崎原子爆弾のキノコ雲。毛沢東語録を手にした中国人群衆が押し寄せる文化大革命のニュース。中国ソ連国境紛争であったダマンスキー島事件の情景。そして再び、現在へと時間は戻って来る。

一つの記憶無意識から呼び出されると、それは別の記憶を更に呼び出し、記憶と記憶が交錯し、それは現在の情景とも交錯して、複雑なこころのイマージュを形造って行く。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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