『鏡家サーガ』(かがみけサーガ)は、佐藤友哉の小説シリーズ。講談社ノベルスなどから出版されている。イラストは笹井一個。 鏡家の七人兄弟を主要キャラクターとする小説のシリーズ。北海道千歳市周辺を舞台に、鏡家、初瀬川研究所、祁答院財閥が中心となって起きる事件を描く。 第21回メフィスト賞受賞作であり、佐藤のデビュー作である『フリッカー式』を含め、2018年2月現在までに本編が4編執筆されている。また、「例外編」「入門編」「本格編」というサブタイトルが付けられた番外編も執筆されている(「本格編」は未完)。 「鏡家」はJ・D・サリンジャーの『グラース・サーガ』に登場する「グラース家」がモチーフになっている。『ナイン・ストーリーズ』はサリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」へのオマージュであり、タイトルはすべて野崎孝訳による邦題からもじってつけられている。 2000年代前半の講談社ノベルスや『ファウスト』で人気を博していた、舞城王太郎の「奈津川サーガ」や西尾維新の「戯言シリーズ」と似た趣向のシリーズで、ミステリ小説の体をとった作品がほとんどだが、SF小説や青春小説の要素も含まれている。『ナイン・ストーリーズ』に収められている短編は純文学的作品であり、いくつかは純文学誌である『群像』に発表され、書籍化の折には講談社ノベルスではなく単行本で出版された。 初期3作の発売時はアダルトゲームや萌え系アニメなどサブカルチャーからの大胆な引用で話題になったが、新本格ミステリとしての評価は低く売り上げには繋がらなかったため、講談社ノベルスでは一度シリーズ打ち切りになっている。その一方で大塚英志や東浩紀など非ミステリ系の批評家には評価され、彼らの支援を受けつつシリーズを続行した。 鏡家サーガには含まれないが、登場人物や世界観を一部共通している長編『クリスマス・テロル』『少年探偵にはむかない事件』がある。また、ゲーム『ダンガンロンパシリーズ』のノベライズ作品である『ダンガンロンパ十神』には、鏡家サーガの登場人物・設定がクロスオーバー的に登場した。 2021年11月より「佐藤友哉デビュー20周年記念復刊企画」として『フリッカー式』『エナメルを塗った魂の比重』『水没ピアノ』『クリスマス・テロル』が星海社FICTIONSより4カ月連続で刊行された。
概要
作品時系列
1978年12月 - 「コードウェイナー・スミスの青の時代」
1986年12月 - 「レディ」
1995年12月 - 「小川のほとりで」
1996年7月 - 『エナメルを塗った魂の比重 鏡稜子ときせかえ密室』
1998年7月 - 「チェリーフィッシュにうってつけの日」
1999年8月 - 「憂い男」
2001年8月 - 「愛らしき目もと口は緑」
2001年10月 - 「ナオミに捧ぐ――愛も汚辱のうちに」
2002年1月 - 『水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪』
2002年7月 - 「ラストオーダーの再稼働 鏡佐奈はおわらない探偵」
2003年6月 - 「対ロボット戦争の前夜」
2005年6月 - 『鏡姉妹の飛ぶ教室 〈鏡家サーガ〉例外編』
2005年9月 - 『クリスマス・テロル invisible × inventor』
2006年1月 - 「鏡姉妹の動物会議 〈鏡家サーガ〉本格編」
2006年7月 - 『青酸クリームソーダ 〈鏡家サーガ〉入門編』
2006年9月 - 「わたしのひょろひょろお兄ちゃん」
2006年?月 - 「七回忌」
2007年7月 - 『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』
主な登場人物
鏡家の七人兄弟
鏡 癒奈(かがみ ゆな)
1974年生まれ。長女。通称「神様」。公彦に「六人の意識と世界を決定づけた」と語られるほど、兄弟たちに大きな影響を与えた。2004年、30歳の誕生日を目前に動機不明の自殺を遂げ、この世を去った。登場作品:「コードウェイナー・スミスの青の時代」「レディ」「チェリーフィッシュにうってつけの日」「ナオミに捧ぐ」「七回忌」『青酸クリームソーダ』
鏡 潤一郎(かがみ じゅんいちろう)
1977年生まれ。長男。通称「精神的暴力男」。初瀬川研究所に勤める科学者。プライベートでも白衣を着用する。歳下の兄弟たちにも丁寧語で話すなど一見物腰柔らかであるが、狂気に満ちた思想を持つ。兄弟たちへ過保護に接し、「守るつもりですべてを壊してしまう」ほどに歪んだ愛情を抱いている。登場作品:「レディ」「よく規律のとれた七年だった」「対ロボット戦争の前夜」「七回忌」『青酸クリームソーダ』
鏡 稜子(かがみ りょうこ)
1979年生まれ。次女。通称「予言者兼同人馬鹿」。予言能力を持つ。能力としては「六十点くらい」であり、任意のタイミングで未来予知を行うことはできず、予言の範囲や対象を指定することもできない。生活の中、これから起こる未来の出来事が突然脳裏をよぎる程度のものである。周囲の人間の危機を予言することもあれば、未発表の新作ゲームの発売を予言することもある。高校中退後、札幌市を拠点に全国を放浪しており、漫画やアニメの成人向け二次創作同人誌の執筆活動で口を糊している。いかなる状況でもどのような相手でも飄々と話す。サブカルチャーのパロディ的な台詞を多用する。登場頻度は兄弟内最多。なにかと物語に絡むことが多い。登場作品:「レディ」「小川のほとりで」「チェリーフィッシュにうってつけの日」『エナメルを塗った魂の比重』「よく規律のとれた七年だった」『鏡姉妹の飛ぶ教室』「鏡姉妹の動物会議」「音楽の七番目の機能」「七回忌」『青酸クリームソーダ』『フリッカー式』
鏡 創士(かがみ そうじ)
1985年生まれ。次男。通称「引用病」。美形の交際家。読書と洋楽を好む。