鏡のヴィーナス
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この項目では、ベラスケスの絵画について説明しています。ルーベンスの絵画については「鏡を見るヴィーナス (ルーベンス)」をご覧ください。

『鏡のヴィーナス』スペイン語: Venus del espejo

作者ディエゴ・ベラスケス
製作年1647年 - 1651年頃
種類油彩
寸法122 cm × 177 cm (48 in × 70 in)
所蔵ナショナルギャラリー、ロンドン

『鏡のヴィーナス』(かがみのヴィーナス、西: Venus del espejo、: Venus at her Mirror)は、スペイン黄金世紀の巨匠であるスペイン人画家のディエゴ・ベラスケスが描いた絵画。『鏡を見るヴィーナス』とも[1]ロンドン・ナショナル・ギャラリーの所蔵で、英語圏では『ロークビーのヴィーナス (The Rokeby Venus)』と呼ばれることが多く、諸外国では他にThe Toilet of Venus、Venus and Cupid、La Venus del espejoor、La Venus del espejo などと呼ばれている。1647年から1651年にかけて[2]、ベラスケスがイタリアに滞在していたときに描かれたものといわれ、ローマ神話の女神であるヴィーナスが裸体でベッドに横たわり、彼女の息子である愛の神キューピッドが支える鏡に見入っているという構図の絵画である。

古代からバロック期にいたるまでの数多くの絵画が、ベラスケスのこの作品に影響を与えたといわれる。イタリアの画家たちが描いた裸体のヴィーナス、たとえばジョルジョーネの『眠れるヴィーナス (Sleeping Venus, 1510年 アルテ・マイスター絵画館蔵)』、ティツィアーノの『ウルビーノのヴィーナス (Venus of Urbino, 1538年 ウフィツィ美術館蔵)』などである。ベラスケスはこの絵画にそれまでのヴィーナスの作品でよく描かれた、ベッドや長椅子に横たわるヴィーナス、鏡に映った自分自身を見つめるヴィーナスという二つのポーズを取り入れている。この作品は以降のさまざまな絵画表現における出発点となった。それは中央に鏡を配置することにより、鑑賞者に背を向けているヴィーナスの向こうむきの表情まで表現していることなどである[3]

『鏡のヴィーナス』はベラスケスが描いた裸婦画で唯一現存している作品で、厳格なカトリック教国であった当時のスペインにおいて17世紀に異端審問によって徹底的に弾圧の的となった裸婦を描いたスペイン絵画で残っている非常に数少ないものの一つである[4]。こういった弾圧にもかかわらず、外国の画家たちによって描かれた裸婦画はスペイン貴族階級の間で熱心に収集されており、『鏡のヴィーナス』も、イングランドのヨークシャーにあるカントリーハウスのロークビー・パーク (en:Rokeby Park) へ持ち込まれる1813年まではスペイン宮廷人の家に飾られていた。

この絵画は1906年にナショナル・アート・コレクション・ファンド (en:National Art Collections Fund) によってロンドン・ナショナル・ギャラリーのために購入された。1914年にはフェミニスト活動家のカナダ人メアリ・リチャードソンによって切り付けられひどく損傷したが、すぐに修復され、ロンドン・ナショナル・ギャラリーに元通り展示されている。
概要

『鏡のヴィーナス』はローマ神話の愛と美と豊穣の女神であるヴィーナスが、しどけない姿でベッドにもたれかかっている様子を描いている。古代の芸術作品でも背中を向けたヴィーナスはよく見られた構図で、文学的性愛を表すモチーフであった[5].。この作品でもヴィーナスは背中を向けており、右ひざは左脚の下に隠れている構図となっている。神話をモチーフにした絵画に通常描き足されている、バラ宝石ミルトスといった装飾物は一切描かれていない。また、それまでに描かれたヴィーナスはほとんどがブロンドの髪だが、ベラスケスはこの作品でブルネットの髪のヴィーナスを描いている[6]。彼女の息子であるキューピッドがともに描かれていることによって、初めてこの作品の女性がヴィーナスであると理解できるようになっている。

ヴィーナスはキューピッドによって支えられている鏡を見つめているが、キューピッドにはその象徴である弓矢は描かれていない。この作品が最初に発表されたとき、恐らくは意図的に論争を巻き起こすために「裸婦像 (a nude woman)」として紹介された。この絵のヴィーナスの表情は鏡に映ったイメージとして描かれているが[7]、その顔の特徴はぼかされ、曖昧にしか表現されていない。美術評論家のナターシャ・ウォレスは、ヴィーナスの不明瞭な顔こそがこの絵の本質的な意味を表す鍵かも知れないと考えた。ウォレスは「ヴィーナスの肖像としての顔や描写に神話的な意味は何もない。この絵を観る人それぞれが夢中になる美のイメージが表されている[8]」「ヴィーナスの顔や描写には神話的な意味はなく、神話を隠れ蓑にした性愛画と言える。しかしそれと同時に魅力あふれる素晴らしく美しい作品である[9]」と述べている。

この絵には鏡のフレームに絡みつき、垂らされているピンクのシルクのリボンが描かれている。このリボンが何を表しているのかが美術史家たちによって議論されてきた。それらの議論の中には、恋人同士を結びつけ、また拘束するキューピッドの力を示したものである、鏡を壁に掛けるためのものである、ヴィーナスの目隠しに直前まで使われたものである、などといった見解もあった[6]。評論家のフリアン・ギャラーゴは、キューピッドの表情が非常に憂鬱に見えることに着目し、このリボンがヴィーナスを美の女神の名の下に拘束するものではないかと考え、この絵を「美に征服された愛 (Amor conquered by Beauty)」と名付けた[10]

ベッドのシーツはヴィーナスの身体に沿ってしわになり、そのなめらかな肢体を強調する役割を与えられている[3]。使用されている色は主にレッド、ホワイト、グレイの濃淡で、これらはヴィーナスの肌の色としても使われている。このシンプルな色の構成は非常に高く評価されてきたが、最近の研究によればグレイのシーツはもともとは深いモーブだったものが、色あせた結果グレイになったとされている[11]。光沢のある明るい色はヴィーナスの肌に「滑らかでクリームのように混ぜ合わされて[12]」使われ、シーツに使われているダークグレイやブラック、壁のブラウンとは対照的に描かれている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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