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様々な鋸。左側は丸太を縦挽きに製材するための「前挽き」。右側は伐採用の「窓鋸」(三木市立金物資料館

鋸(のこぎり、のこ)は、金属板に多くの刃(歯・目)をつけた切断用の工具
概要

主として木材金属を切断するために使用される工具である。

木工具としての鋸は、樹木や枝の伐採、造作などに用いられる[1]。金工具としての鋸は金鋸(かなのこ)と呼ばれる。また、プラスチック用の鋸もある。氷の切断には(氷鋸)を用いる。特殊なものでは外科手術用の鋸もある。

鋸は後述のように鋸身と柄から構成される[1]。現代の鋸の鋸身は一般的に鍛造薄板炭素工具鋼である[1]。鋸身の一端にのみ鋸歯があるものを片刃鋸、両端に鋸歯があるものを両刃鋸という[1]

鋸は押す、あるいは引くことによって材料を切断する。中国など多くの地域の鋸は押し挽きの鋸である[1]。一方、日本トルコイランイラクネパールでは、多くの場合、引く方向に刃がついている[2]
構造

鋸は鋸身と柄から構成される[1]
鋸身

鋸身は鋸歯のついた金属部分である。厚みは一様ではなく中央部が両端よりも厚いもの(胴ぶくれ)が多い[1]。薄い鋸身を補強するのに背金を付けた胴付き鋸もある[3]

先端の部分を「末」、手元に近い部分を「元」、その中間を「腰」という[1]。柄と連結する細い部分を「マチ」または「首」といい、柄に接合して隠れている部分を「コミ」という[1][4]

柄に最も近い歯を「あご歯」、柄より最も遠い歯を「検歯」という[1](刃先を「ケントウ刃」とするなど呼称と位置が異なる資料もある[4])。

木工用の鋸の刃には「縦挽き」と「横挽き」がある
縦挽き
縦挽きの刃は、木材の繊維に沿って切るための刃で、刃の形状は(のみ)のようになっており、刃は溝を切るような構造である[5]
横挽き
横挽きの刃は、木材の繊維を垂直に断ち切るための刃で、刃の形状は縦挽きよりも細かい[5]。横挽きの鋸歯は上刃と下刃のほか天目と呼ばれる刃からなっており、各鋸歯の裏表が交互になるように配列されている[5]

片刃鋸は一般的に横挽き鋸であり、片刃の縦挽き鋸は種類が少ない[3]。両刃鋸は1本の鋸の両端に横挽きと縦挽きの刃をつけた鋸である[3]

材料を切り進むと材料の切断面と鋸板との接触面が大きくなり抵抗が増すが、この抵抗を軽減するため、鋸の歯を一枚ごとに左右に振り分けた構造を「あさり」または「あせり」という[5]。ただしあさりのない鋸もある。

鋸は使用するに従って刃先が磨耗し、鋸の刃元が切断目と接触し、やがて切れ止む。再び切るにはやすりによって目を研磨し直す必要があり、これを「目立て」という。その際にあさりを調整したり、無理な使用や目立てによって生じた歪を直すことが多い。

柄は真っすぐに付いているもの(直柄)と斜めに付いているものがある[1]。柄にはヒノキやキリが使用されることが多いが、両刃鋸ではブナやサクラを使用することも多い[1]。柄に藤巻を巻いているものもある[1]
歴史
西洋

鋸が出現するまで、木の切断には縦方向には楔(くさび)、横方向には斧を用いた[1]。紀元前15世紀頃になって古代エジプトで製の引き挽きの鋸が使用されるようになった[1]

古代ローマになって刃は鉄製で堅くなり、個々の歯を左右に交互に突き出させる(あさり)ようになり刃の動きがスムーズになった。堅い胴付鋸も古代ローマで発明された。大鋸(枠鋸。現在の弓鋸)は、金属製の細い刃を木枠に取り付け紐でぴんと張るもので、19世紀に入ってからも長い間最もよくつかわれた鋸である。17世紀半ばにオランダとイギリスで、幅広の歯で木製のピストル型をした柄の鋸が使われ始める。これは現在の一般的な鋸である。1874年にフィラデルフィアのヘンリー・ディストンが「背が斜めになった刃」を発明している[6]

ヨーロッパの製材所では14世紀に水車水力で駆動する鋸が現れている。水力製材所は15世紀には普及し、板や角材の大量生産によって木造建築に革新をもたらした[7]。一方、林業において、木の伐採道具として鋸が普及したのは19世紀以降である[7]。斧から鋸への転換が進まなかった理由として、伐採夫の慣習や心理的抵抗の他に、屈んだ姿勢で鋸を引く身体的苦痛が挙げられる。この問題は19世紀に曲線形の刃先をもつ鋸が発明されたことで解消された。また、鋸自体の値段や維持コストの高さも普及の妨げとなった。鋸の値段は斧の約6倍であり、使用者が自力で手入れできる斧に対し鋸は目立て職人が研ぐ必要があった。鋸引きによる伐採は2人1組で作業する必要があることから、鋸は林業が個人による伐採から賃金労働の事業へと転換する過程で、事業主から供与される形で普及することになった[7]
日本「日本の鋸」および「」も参照富嶽三十六景・遠江山中」に描かれた、前挽き鋸による製材風景

古墳時代の出土品(木葉型の鋸)が、日本における鋸の初見である[1]。この鋸の刃は金切り鋸の刃のように細く、長さも10センチ程度。おそらくは金属やシカの角など、特定の硬いものの加工用に用いられていたと考えられている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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