「鋏脚」とは異なります。
様々な鋏角類の鋏角左上:ウミグモ、中上:カブトガニ、右上:ダイオウウミサソリ、左中:マダニ、中央:ヒヨケムシ、右中:カニムシ、左下:サソリ、中下:クモ、右下:ウデムシ
鋏角(きょうかく、英語: chelicera、複数形: chelicerae
)とは、クモ・サソリ・カブトガニなどの鋏角類の節足動物に特有で、口の直前にある1対の付属肢(関節肢)である[1]。主に餌を掴む用の口器として用いられる[2][1]。原則として先端2節で噛み合う構造となり、時おり歯(tooth, denticle)と呼ばれる棘を内側にもつ[3][4][5][2][6]。多くの場合は名前の通りはさみ型だが、クモなどの鋏角はむしろ鎌や牙に似る[1]。また、通常は小さく目立たないが、ヒヨケムシやダイオウウミサソリのように、大きな鋏角をもつ種類もある[7][2][1]。
英語名「chelicera」はギリシア語の「kh?l?」(鋏)と「keras」(角)の合成語[8][2]。種類により別名もあり、例えばウミグモでは一般に「鋏肢」(きょうし、chelifore)と呼ばれ[1]、クモでは「上顎」(じょうがく)[9]、カニムシでは「鋏顎」[10]とも呼ばれている。ただし鋏角は他の節足動物の顎(大顎と小顎)とは別器官であり、由来はむしろ触角に相同である[2][1]。
名前が「鋏脚」(きょうきゃく、cheliped)に似て、しばしば混同されることもあるが、これはカニやエビなどの甲殻類における、別器官であるはさみ型の脚(鉗脚)を専門に指す用語である[11]。
類型三種類の鋏角の形。A:折りたたみナイフ型・B:2節はさみ型・C:3節はさみ型
基本的な形態を基に、鋏角は大まかに次の3つのカテゴリーに分けられる[12]。
3節はさみ型サソリ(左)とカブトガニ類(右)の鋏角(I)
コヨリムシの鋏角(Chl)
ザトウムシの鋏角(A, B, D)
ウミグモの4節の鋏肢
短い柄部が背甲に隠れるサソリの鋏角
基本として3節の肢節でできたはさみ型の鋏角で、基部の肢節は柄部、途中の肢節ははさみの掌部と内側の不動指、先端の肢節ははさみの外側の可動指をなしている。
基本的な形の鋏角であり、クモガタ類のサソリ・ザトウムシ・コヨリムシ・多くのダニ、カブトガニ類やウミサソリ類など節口類、およびウミグモ類(鋏肢)に見られる[1]。ただしイトダニ科と一部のウミグモ類は、鋏角柄部が更に2節以上に分されたため、鋏角全体が計4節以上になる[13][14][1][15]。マダニの場合、鋏角は針状に著しく特化し、先端のはさみは小さく目立たない[1]。また、サソリの鋏角柄部は短縮して常に背甲の下に隠れるため、外見上では次の2節はさみ型に見える。
2節はさみ型
カニムシの正面(中央1対のはさみが鋏角)
強大の鋏角をもつヒヨケムシ
クツコムシの鋏角(I)
2節の肢節でできたはさみ型の鋏角で、前述の3節はさみ型から柄部を除いたような形をとる。基部側の肢節ははさみの掌部と内側/背側の不動指、先端側の肢節は外側/腹側の可動指をなしている。
クモガタ類のカニムシ・ヒヨケムシ・クツコムシ、および多くの胸板ダニ類のダニ[14]に見られる[1]。ただしクツコムシの場合、不動指はやや短いため、後述の折りたたみナイフ型にも似る[16]。
折りたたみナイフ型サソリモドキの鋏角(I)ワレイタムシの鋏角(Ch)
オオツチグモ(トタテグモ下目)の鋏角
クモ下目のクモの鋏角
ウデムシの鋏角
「Clasp-knife chelicera」とも呼ばれる[1]、2節の肢節でできた牙のような鋏角。基部側の肢節は太く、先端側の肢節は牙状で基部側に沿って背側/外側から内側/腹側に折り畳めるように湾曲する。
クモ・ウデムシ・サソリモドキ・ヤイトムシ・ワレイタムシ・コスリイムシなど、いわゆる四肺類に属するクモガタ類で見られる[1]。ウデムシ、サソリモドキとヤイトムシの鋏角は基部肢節に発達した1本の突起があるため、鋏角全体がややはさみ型に近い亜鋏状である[1][17]が、クモなどでは原則として突起があったとしても目立たないか鋸歯状の歯であるため、より折りたたみナイフ型に近い外見をもつ[4]。
折りたたみナイフ型鋏角は、通常では基部肢節の向きや牙状肢節の動作方向に基づいて「orthognath」と「labidognath」の2タイプに分けられる[18][4][19]。