鉱毒
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リオティント川の酸性鉱山排水

鉱毒(こうどく)とは、鉱山から排出される物質(排水煤煙など)であって人体に有害な影響をあたえる物質。鉱害の原因物質の概念のひとつ。鉱毒は主にヒ素硫酸水銀などの化学物質で構成され、周辺の土壌地表水地下水に有害な影響を及ぼす。適切な予防措置を怠ると、広範囲にわたる汚染を引き起こし[1]、生態系や地域生活に深刻な影響をもたらす。
原因物質
酸性鉱山廃水(AMD)詳細は「:en:Acid mine drainage」を参照

地下での採掘は水位より下で進行することが多いため、浸水を防ぐためには常に坑道から水を汲み上げなければならない。鉱山が閉山されると、水の汲み上げが止まり、鉱山が浸水する。ほとんどの酸性岩由来の排水はこの水がきっかけになることが多い。ポルトガルの酸性鉱山の排水

酸性の岩石による排水は、岩石の風化過程の一部として自然に発生することもあるが、通常、採掘やその他の大規模な建設活動特有の大規模な地盤のかく乱によって、硫化物鉱物を豊富に含む岩石で悪化する。地盤が乱された地域(建設現場、関連施設、輸送路など)では、酸性岩由来の排水が発生することがある。多くの地域では、石炭の貯蔵所、取扱施設、洗浄場、廃棄所から排水される液体が強酸性になることがあり、そのような場合には酸性鉱山排水(AMD)として扱われる。また、大規模な海面上昇が起きると、沿岸・河口条件で形成された酸性の硫酸塩を含む土壌が撹乱され、同様の化学反応やプロセスが発生し、環境問題となることがある。鉱山排水を監視・制御するために、分水、ため池への封じ込め、地下水の汲み上げ、 地下への排水、地下での障壁の建設が有効である。AMDの場合、汚染水は一般的に汚染物質を中和する処理施設に汲み上げられる[2]
重金属

流出水や地下水による金属重金属の溶解・流出も、ブリティッシュ・コロンビアバンクーバー近郊の旧銅鉱山ブリタニア鉱山(英語版)など、鉱山の環境問題の一例である。オクラホマ州ピッチャーの廃鉱地で、現在はアメリカ合衆国環境保護庁のスーパーファンド法(英語版)の保護対象となっているタール・クリーク(英語版)も重金属汚染が問題視されており、カドミウムなどの重金属が溶存した鉱山の排水によって地下水が汚染された[3]キプロスの廃銅鉱山スクーリオティッサ(英語版)では、長期に保管された鉱滓や粉塵が風で飛ばされたことが汚染の原因となった。地球温暖化や採掘活動の増加などによる環境変化で、河川堆積物中の重金属の含有量を増加する可能性が指摘されている[4]
生態系への影響鉱山の尾鉱で汚染されたオキ・テディ川(英語版)

鉱山を埋設することで生物の生息地を大きく変え、開発区域を越えて大規模に発生し、鉱山廃棄物の残留物による環境汚染などが起きる。鉱山の閉山後も、悪影響は長期間にわたって観察される可能性がある[5] 。生息地の破壊が生物多様性の損失の主な要因であるが、鉱山から抽出された物質による直接的な被毒や、食物や水を介した間接的な被毒は、動物植物微生物にも影響を与える。pH温度の変化などの生息地の環境変化は、周辺地域の生物群集を撹乱する。特に固有種は、非常に特殊な環境条件を必要とするため、影響を受けやすく、生息地の破壊やわずかな環境変化によって絶滅の危険にさらされやすい。

重金属の濃度は鉱山からの距離とともに減少することが知られており[5]生物多様性への影響も同じ傾向がある。影響は、汚染物質の移動性とバイオアベイラビリティによって大きく変化する可能性がある。例えば、堆積物中の金属イオンの溶解は、それらのバイオアベイラビリティを変更し、水生生物に対する毒性を変えることがある[6]

生物濃縮は汚染された生息地で深刻なものになる。生物多様性に対する鉱業の影響は、暴露された生物を直接殺すほどの濃度ではなくても、この現象により、食物連鎖の上位にいる種にとってはより大きなものになる[7][8]

採掘による生物多様性への悪影響は、汚染物質の性質、環境中に存在する濃度、生態系そのものの性質に大きく左右される。人為的な撹乱に対して非常に抵抗力のある種もあれば、汚染された地域から完全に消滅する種もある[9]。長期間を経ても生息地が汚染から完全に回復することは難しい。
河川・海洋

鉱業はさまざまな方法で水生生物の多様性に影響を与える可能性がある。汚染物質が堆積物中で移動している場合[10][11] や水中[10] で生物学的に作用する場合は、より高いリスクとなる。鉱山排水は水のpHを変化させる可能性があり[12]、生物への直接的な影響とpH変化による影響を区別することは困難である。にもかかわらず、pHの変化によって水生生物への影響が引き起こされることが証明されている[11] 。 汚染物質は物理的な影響を介しても水生生物にも影響を与える可能性がある[13] 金属酸化物の堆積は、藻類またはその基質を覆うことで個体数を減少させ、その群生を妨害する[11]汚染されたカナダのオジスコ湖(英語版)

酸性鉱山排水地の生物群集に影響を与える要因は、季節でも変化する。温度、降雨量、pH、塩分濃度、金属量はすべて長期的に変化し、生物集団に大きな影響を与える可能性がある。pHや温度の変化は金属の溶解度に影響を与え、それによって生物に直接影響を与える生物利用可能量に影響を与える可能性がある。さらに、その影響は長期間に持続する。例えば90年前に閉山した黄鉄鉱鉱山では、水のpHはまだ非常に低く、微生物の個体群は主に酸球菌で構成されていたことが確かめられた[14]
プランクトン

亜鉛濃度の高い酸性水では藻類群集の多様性が低下し[11] 、鉱毒による負荷が藻類の一次生産量を減少させる。珪藻類の群集は、あらゆる化学的変化[15] やpHの植物プランクトン群集[16] によって大きく変化し、金属濃度が高いとプランクトン種の多様性が低下する[15]。 珪藻類の中には、金属濃度の高い堆積物中に生育する種もある。 また、表層に近い堆積物では、シストが腐食や重被覆に悩まされる[15] 。 非常に汚染された条件では、藻類の総バイオマスが非常に少なく、浮遊性珪藻類群集が欠落している[15] が、機能的に補完されている場合は、植物プランクトンや動物プランクトンの質量が安定している可能性がある。
水生生物

鉱山周辺の水生昆虫や甲殻類は鉱毒によって 、栄養学的な完全性が低下したり、捕食者によって個体数が減少するといった影響を受ける[17]。しかし、影響を受けやすい種が耐性のある種に置き換えられれば、脊椎動物の生物多様性は高い状態を維持することができる[18] 。 地域の多様性が減少した場合でも、河川の汚染が個体数に影響を及ぼさないこともある[18] 。 これは汚染された場所で、同じ機能を果たす耐性のある種が、影響を受けやすい種の代わりを務めることを示唆している。魚類もまた、pH[19] や 温度変化、化学物質濃度に影響されることがある。[25]。
陸上
植物

鉱毒で汚染された場所では、表土の土質や水分量が大きく変化する可能性があり[9]、その地域の植生の変化につながる。ほとんどの植物は土壌中の低濃度の金属に対する耐性を持っているが、その感受性はによって異なる。地被類の多様性と総被覆率は、高濃度の汚染物質の影響を受けにくく、広葉草本や低木よりも影響を受けにくい[9]。より抵抗力のある種は、これらのレベルを生き延びることができ、土壌中の金属に耐えることができる。また、生態学的な主導権を獲得するために外来種が鉱山の周辺の土地に移動することもある[20]

例えば、ヒ素の土壌含有量は蘚苔類の多様性を減少させ[10]、化学的汚染による土壌の酸性化もまた、種の数の減少につながる[10] 。 汚染物質は微生物を改変したり、撹乱したりして、栄養の利用可能性を変え、その地域の植生の損失を引き起こす。 [10] 一部の樹木の根は、汚染地域を避けるため、より深い土壌層から遠ざかろうと深い土壌層内での定着力を欠いた結果、樹木高や地上部分の重量が増加し、風によって根こそぎされる可能性がある[20]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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