鉱床学
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鉱床学(こうしょうがく、: economic geology、: Lagerstattenkunde)は、鉱床がどのようにして形成されたかを解明し[1]、人類にとって有用な資源を得る方法を検討する学問。

資源工学の一部でも鉱床学を扱っている。
概要

有用な元素が人類が使用可能な化合物として濃集している岩石を鉱石といい、鉱石が経済的に採掘できる程度の十分な量の集合体を鉱床という[2]。各元素の地殻中の存在量と、重要な鉱石を下表にまとめた。鉱床学ではこれらの鉱石の生成や集中の経緯について検討を行う。すなわち 有用元素がもともと存在していた場所はどこか、その場所からどのようにして運ばれてきたか、いかにして現在の場所(鉱床)に濃集・固定化したかを解明する[3]

各元素の鉱床の規模はその存在量に依存している場合が多く、存在量の多い鉄の主要鉱床である縞状鉄鉱床は長さ数百から数千キロのものがあり[4]露天掘りで大量に採掘しているが、金の鉱山は幅数十cmから数m長さ数百m程度の鉱脈に沿って掘り進むような規模である。

有用元素が鉱物中に含まれていても工業的に分離・抽出できない場合は鉱石にならない。例えばアルミニウムは下表にあるように地殻中では非常に一般的な元素で、花崗岩中の長石や粘土鉱物カオリナイトにも大量に含まれているが、これらの鉱物からアルミニウムを工業的に単離する技術は確立していないため鉱石に相当せず、ボーキサイトのみが鉱石とされる。

地殻中の主な元素存在比率と主要鉱石鉱物[5]順位元素存在量(質量比)主要鉱石鉱物など
1酸素46.60%大気中
2珪素27.72%ガラス工業用としては石英を主成分とする珪砂(堆積鉱床)
3アルミニウム8.13%堆積鉱床のボーキサイト
45.00%赤鉄鉱(堆積鉱床の縞状鉄鉱床)、磁鉄鉱(スカルン鉱床)
5カルシウム3.63%堆積性の方解石
6ナトリウム2.83%海水から抽出される食塩または岩塩
7カリウム2.59%岩塩成分の「シルビン(KCl)」
8マグネシウム2.09%堆積性のマグネサイトドロマイト
9チタン4400ppm火成鉱床中のチタン鉄鉱
10水素1400ppm電気分解による
111050ppm堆積鉱床の燐鉱石
12マンガン950ppm堆積鉱床や熱水鉱床中の軟マンガン鉱
13フッ素625ppm火成鉱床中の蛍石
14バリウム425ppm堆積性や熱水鉱床中の重晶石
15ストロンチウム375ppm堆積性の天青石
16硫黄260ppm過去は火山で採掘されていたが、現在は石油の脱硫工程で回収
17炭素200ppm石炭または石油
18ジルコニウム165ppm砂鉱ジルコン
19バナジウム135ppm
20塩素130ppm海水中の食塩
21クロム100ppm火成鉱床中のクロム鉄鉱
22ルビジウム90ppm
23ニッケル75ppm火成鉱床中の「ペントランド鉱」や「針ニッケル鉱」
24亜鉛70ppm熱水鉱床中の閃亜鉛鉱
25セリウム60ppm火成鉱床のモナズ石
2655ppm熱水鉱床や斑岩銅鉱床中の黄銅鉱
27イットリウム33ppm火成鉱床の「ガドリナイト」
28ランタン30ppm火成鉱床の「モナズ石」
29ニオブ28ppm火成鉱床の「コロンブ石」や「フェルグソン石」
30コバルト25ppmスカルン鉱床の砒コバルト鉱
-ウラン1.8ppm堆積鉱床などの閃ウラン鉱
-0.07ppm熱水鉱床の輝銀鉱など
-白金0.01ppm砂金と同様な砂鉱または火成鉱床、いずれも鉱物としては自然白金
-0.004ppm熱水鉱床中の自然金や堆積性の砂金

金属資源利用の歴史

人類が初めて金属を利用したのは、紀元前4000年頃のメソポタミア北部アナトリア高原で自然銅が道具に加工された。その後銅の鉱石からの精錬も行われるようになった。銅に続いてが銅との合金青銅を作るために使用された[2]。青銅は銅より硬くて強いため武器や道具や容器に一般的に使用されるようになった(青銅器時代)。その後砂金から金製品が作られるようになり、古代エジプトでは多くの金製の装飾品が作られた。中国で発見された隕鉄、最初期の鉄器は隕鉄から作られた

鉄の使用は紀元前1400年頃から始まったが、当時まだ鉄鉱石から鉄を精錬する技術はなく、組成分析から鉄を主成分とする隕石(隕鉄)を精錬したものと推定されている[6]。鉄器は武器や工具として青銅よりも優秀であるため青銅に代わって金属の主流となり、精錬法も確立・改良された。中世以後の研究に伴い多くの金属元素が発見され19世紀末にはほとんどの金属元素が発見されたが、一部の金属を除き使用されることがなかった。実際に多様な元素が工業的に使用されるようになったのは20世紀からである。現在希少元素として重要視されている希土類などの元素の探求も鉱床学の分野である。

また古くから使用されてきた金属でも 資源の枯渇や精鉱・精錬技術の進歩により旧来とは異なったタイプの鉱床が開発されるようになった。例えば日本はかつて銅の大産出国であったが、その鉱床はいずれも熱水に由来する「鉱脈鉱床」(尾去沢鉱山や阿仁鉱山)・「スカルン鉱床」(釜石鉱山や長登銅山)・「塊状熱水鉱床、すなわち、黒鉱(小坂鉱山花岡鉱山)やキースラーガー(別子銅山日立鉱山)」等である。これらの鉱山は銅の含有率(銅品位)が高い鉱石が集中する鉱化部を有し(別子銅山で銅品位1.5%[7])、掘削はその鉱化部に沿って坑道を掘る形で行われた。これら日本の銅鉱山は現在資源が枯渇し、また外国からの安い買鉱に押されて、すべての鉱山は閉山された。現在諸外国で採掘されている主要な銅鉱石は斑岩銅鉱床で、銅品位は0.5%から1%と低品位であったため1900年代初期までは鉱床とみなされていなかった。しかし高品位鉱山の枯渇と精鉱技術の進歩により鉱床として価値が認められるようになった。これは直径1000-2000m、厚さ400-1000mという巨大な花崗斑岩全体がほぼ均一な銅鉱床を形成しており、大型機械で露天掘りして採掘している。[8]
鉱床の種類

鉱床とは有用元素が濃集して工業的に採掘・使用可能となったものであるため、有用元素の濃集過程を検討して分類している。鉱床の種類は大まかに3種類に分類される。

火成鉱床は
マグマが地下でゆっくり冷却固化する際に各元素が分離・濃集してできた鉱床を指す。

熱水鉱床は高温マグマから絞り出された高温の水 または高温のマグマの近傍に存在して熱せられた地下水が、マグマや近傍の岩石の成分を溶解して運搬し、特定箇所で晶出させたことに由来する。最近話題になっている海嶺近くの海底での熱水活動(ブラックスモーク)による鉱床生成もこのタイプに含まれる。

堆積鉱床は、地上の岩石が風化して風や水(河川)により運ばれ特定箇所で堆積したもの。ボーキサイトの様にアルミニウム以外の成分が溶け出してアルミニウムだけが残った鉱物(残留鉱床)も含まれる。石炭石油のような化石燃料鉱床も堆積作用の結果である。

火成鉱床有色鉱物が少ない花崗岩斑れい岩有色鉱物を多く含み黒っぽく見える火成岩

火成鉱床は地下深くで液体のマグマがゆっくり冷却固化する際に、凝固温度や比重の異なる各種鉱物がマグマ中で順次晶出・分離しマグマ中を沈降/浮上しながら各成分が濃集したもの。上記の理由により、火成鉱床は深成岩中に限られる。すなわち火山の噴出物などは急冷されるため有用成分の濃集は起こりえないことから、一般には鉱石にはならない。火成鉱床の元となる火成岩については、その成分や外見の違いによって分類がなされている。外見の違いは石英長石のような鉄やマグネシウムを含まない無色鉱物と、これらの金属を多く含むかんらん石輝石の存在比率に影響される。そのため火成岩は一般的に岩石中の有色鉱物の体積によって分類され、有色鉱物の占める堆積が全体の20%以下のものを花崗岩、20から40%に相当するものを閃緑岩、40から70%のものを斑れい岩、70%以上のものを橄欖岩と呼ぶ。鉱物学ではマグネシウムや鉄を多く含む有色鉱物をマフィック(mafic)鉱物、含まない無色鉱物をフェルシック(felsic)鉱物と呼び、花崗岩をフェルシック火成岩、斑れい岩をマフィック火成岩と称する[9]


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