金ぴか時代(きんぴかじだい)、ないし、金メッキ時代(きんメッキじだい、英: Gilded Age)は、1865年の南北戦争終結から1893年恐慌までの28年間、あるいは特に1870年代と1880年代をさし、アメリカ合衆国において資本主義が急速に発展をとげた時代である[1]。拝金主義に染まった成金趣味の時代として扱われることが多く、政治腐敗や資本家の台頭、経済格差の拡大を皮肉った文学者、マーク・トウェインらによる同名の共著小説に由来する[1]。いわゆる「西部開拓時代」とほぼ重複する。
目次
1 経済成長と金権政治の時代
2 政治の腐敗と混迷
2.1 ジョンソン時代
2.2 グラント時代
2.3 大統領選挙の闇取引
2.4 二大政党
3 西部の開発
4 独占資本の時代
5 ニューヨーク・シカゴの発展
6 フロンティアの消滅
7 脚注
7.1 注釈
7.2 出典
8 参考文献
9 関連人物
10 関連項目
経済成長と金権政治の時代 プロモントリー(ユタ準州)での大陸横断鉄道開通記念式典(1869年5月10日) ホレイショ・アルジャー
日本語で「金ぴか時代」とも訳されている「Gilded Age」の「gilded」とは、金箔や金メッキ、なにかを金色に塗ること、そして富裕層や成金を意味する。つまり芯まで金素材なのではなく、金色に粉飾する、という意味である。
南北戦争後、アメリカ合衆国は北部を中心とする一つの大きな国民経済のまとまりが確保された[2]。1869年、オマハとサクラメントを結ぶ最初の大陸横断鉄道が開通し、ヨーロッパからさらに多数の移民をひきつけた[2]。こうした資本主義の急速な成長の下、鉄鋼王アンドリュー・カーネギー(スコットランド出身)、石油王ジョン・ロックフェラー、銀行家ジョン・モルガン、鉱山王グッゲンハイムの父マイアー・グッゲンハイム(スイス出身のユダヤ系ドイツ人)など名立たる富豪が輩出した[2]。海運業から鉄道に転じたコーネリアス・ヴァンダービルト(オランダ系)、セントラル・パシフィック鉄道の創業者のひとりコリス・ポッター・ハンティントン(英語版)、カリフォルニア州にスタンフォード大学を創立したリーランド・スタンフォード、南満州鉄道の日米共同経営を提案したエドワード・ヘンリー・ハリマン、悪徳資本家の典型とみなされ、「泥棒男爵」と呼ばれたジェイ・グールドなどは、いずれも「鉄道王」と呼ばれた実業家である[2][3]。鉄道は、アメリカで最初に現れた大企業であり、19世紀末にはアメリカ1国の鉄道網が全ヨーロッパのそれを凌駕した[3]。また、「鉄道王」たちは豪奢をきわめた別荘を各地に建設した[3]。しかし、政治は腐敗し、国家の庇護を受けた資本家はさらに富を蓄え、下層の人々は貧困に喘いだ[2][3]。
「金ぴか時代」とは、浮付いた好況と拝金主義を皮肉り、こうした経済の急成長と共に現れた政治経済の腐敗や不正を批判して、皮肉の得意な小説家のマーク・トウェインが命名した時代名称である[1][3]。トウェインとチャールズ・ダドリー・ウォーナー(英語版)の共著『金ぴか時代(金メッキ時代)』では、議員やロビイストたちがいかに簡単にカネで買収されるかが、露骨に描かれている[3]。反面、多くの人びとが高度成長と成功の夢に自身の運命を託した時代であり、一代で巨富を築く「アメリカンドリーム」と称される成功物語や立身出世物語がもてはやされた[2]。落ちぶれた少年であっても、努力・勇気・決断などを通じて富と成功を実現させることができるというモチーフで小説を著したホレイショ・アルジャーの作品群はその代表例である。また、チャールズ・ダーウィンによる生物学の進化論を人間社会にも適用して、自由競争・自然淘汰・適者生存を説く社会進化論が流行し、一世を風靡した時期でもあった[2][3][注釈 1]。なお、作家・思想家のヘンリー・アダムスは、この時代を「市場が宗教に取って代わった時代」と評した。
「金ぴか時代」は、軽佻浮薄な時期として扱われる一方で、かつてのような西欧社会の辺境に位置する農業的社会から工業や都市を特徴とする社会へと大きく変貌し、また、世界の表舞台へと躍り出た時期でもあった[1]。その変化はあまりにも巨大かつ急激なものであったため、アメリカ社会そのものを大きく揺さぶり、従来からの価値観や生産様式等に固執する人びとは、こうした大変化とそれにともなう新しい現象に反発や違和感・疎外感をいだき、さまざまなかたちで抵抗した[1]。