量子統計力学(りょうしとうけいりきがく、 英: Quantum statistical mechanics)とは、量子力学的な系を扱う統計力学の手法。統計力学の基礎づけは量子力学に拠っているため、広義には統計力学一般を意味し、狭義には古典近似を用いないモデルを指す。対義語は古典統計力学。 量子統計力学に対し、古典力学に従う系の統計力学を特に古典統計力学という。例えば、常温付近での不活性気体の統計力学は、最も簡単には分子間相互作用のない理想気体モデルがあり、相互作用のあるモデルでは、二体間ポテンシャルを剛体球ポテンシャル
古典統計力学と量子統計力学
量子統計力学が物理学の世界に初めて登場したのは1900年、今日ではプランクの法則として知られる、マックス・プランクによる熱放射の理論で、これは実に量子力学が現在のような形式で認識される以前のことであった(光電効果がハインリッヒ・ヘルツによって発見されたのが1887年、アルベルト・アインシュタインの光量子仮説による説明が1905年。1924年のルイ・ド・ブロイによる物質波のアイデアに基づいて、ヴェルナー・ハイゼンベルクによる行列力学が1925年に発表、エルヴィン・シュレーディンガーによる波動力学が1926年に発表された。同年、シュレーディンガーは波動力学と行列力学が等価な理論であることを示している。また、ハイゼンベルクによる不確定性原理の発見は1927年の事である)。空洞の中に閉じ込められて、空洞の壁と熱平衡になっている電磁場(黒体放射)に古典統計力学を適用すると、エネルギー等分配の法則により、各単色光成分が平均としてはいずれも kBT なるエネルギーを持つことになる。ここで kB はボルツマン定数、T は壁の熱力学的温度を表す。しかしこれでは空洞内の電磁波のスペクトル分布がまったく実験と合わないばかりか、電磁場は無限に自由度を持っているため、空洞内のエネルギーも熱容量も無限大になってしまう。量子論では、振動数 ν の単色光成分は量子化されてエネルギーhν をもつ光子としてふるまい、光子はボース分布に従うので、この単色光成分のエネルギーの平均値は .mw-parser-output .sfrac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .sfrac.tion,.mw-parser-output .sfrac .tion{display:inline-block;vertical-align:-0.5em;font-size:85%;text-align:center}.mw-parser-output .sfrac .num,.mw-parser-output .sfrac .den{display:block;line-height:1em;margin:0 0.1em}.mw-parser-output .sfrac .den{border-top:1px solid}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}hν/(eβhν-1) となる。ここで、 β = (kBT)−1 は逆温度、また h はプランク定数である。これで分かるように、 hν ≫ kBT ⇔ βhν ≫ 1 を満たすような高い振動数の電磁波は、古典統計力学の記述から著しく外れる。
格子振動詳細は「デバイ模型」を参照
同様な問題は、固体内の格子振動でも見られる。古典統計力学によると、線形近似の下で、各原子が平均して 3kBT だけのエネルギーをもつことになるので、固体のモル比熱は 3kBT × NA = 3R ということになるが、低温になるにつれて、実際の比熱はこれより著しく小さくなり、絶縁体の結晶の例では、比熱が低温では温度の三乗 T3 に比例していることが知られている。