量子力学
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カテゴリ 物理学
表面に楕円状に配置されたコバルト原子(走査型トンネル顕微鏡により観察)

量子力学(りょうしりきがく、(: quantum mechanics)は、一般相対性理論と共に現代物理学の根幹を成す理論・分野である[1][2]。主として、分子原子あるいはそれを構成する電子などを対象とし、その微視的物理現象[3]を記述する力学である。

量子力学自身は前述のミクロなにおける力学を記述する理論だが、取り扱う系をミクロな系の無数の集まりとして解析することによって、巨視的な系を扱うこともできる。従来のニュートン力学などの古典論では説明が困難であった巨視的現象について、量子力学は明快な理解を与えるなどの成果を示してきた。例えば、量子統計力学は、そのような応用例の一つである。生物宇宙のようなあらゆる自然現象も、その記述の対象となり得る[4]

代表的な量子力学の理論として、次の二つの形式が挙げられる。ひとつは、エルヴィン・シュレーディンガーによって創始されたシュレーディンガー方程式を基礎に置く波動力学である。もうひとつはヴェルナー・ハイゼンベルクマックス・ボルンパスクアル・ヨルダンらによって構成された、ハイゼンベルクの運動方程式を基礎に置く行列力学である[5]。これらの二つの形式は、異なる表式を採用しているが、数学的には等価であり、どちらも自然に対する正しい理解を与える(考察する対象にとって利便なものが適宜使い分けられる)。

基礎科学において重要であるばかりでなく、現代の様々な応用科学や技術といった発展分野においても必須の分野である[2]

たとえば科学分野について、黒体放射(高温物体の電磁波放出・発光)の強度を定量的に説明することに成功した(#歴史)ほか、太陽表面の黒点磁石になっている現象は、量子力学によって初めて解明された[6]

技術分野については、半導体を利用する電子機器の設計など、微細・微小な領域に関するテクノロジーのほとんどは、量子力学をその技術の基盤的理解として成立している。工学上の応用例として、パソコン携帯電話[7]レーザーの発振器などは量子力学の応用で開発されている[6]電子工学も量子力学と不可分であり、特に超伝導は量子力学を基礎としてその現象を理解されている[8]。このように量子力学の適用範囲の広さは、現代生活のあらゆる分野に及ぶほど非常に大きなものとなっている[9]
関連する研究領域

現代的な立場から量子論を俯瞰すると、基本変数として「粒子や剛体の古典力学と同じもの(たとえば位置と運動量)」を選んだ量子論を「量子力学」と呼んでいる[注釈 1]。ここでは、スピンなどの古典論では足りないものは適宜新たな変数として補われている。一方、基本変数として「場とその時間微分または共役運動量」を選んだ量子論を場の量子論と呼ぶ。量子力学は、場の量子論を低エネルギー状態に限った時の近似形として得られる[10]

科学と工学(あるいは基礎と応用)の観点から研究領域をみたとき、量子力学を基礎とする応用理論一般を指して量子物理学と呼ぶことがある。これには物性物理学のほとんどの領域、素粒子物理学核物理学など広範な分野が属する。また、工学的な側面が強調される研究については、量子工学と呼ぶ場合がある。ナノテクノロジー半導体超伝導素材の基礎または応用研究など、広範な分野が属する。以上に述べた通り、量子物理学や量子工学という言葉はいずれもかなり広範囲の領域を含み、具体的な研究対象を示す必要がある場合は、さらに詳細な学術分野を示す術語が用いられる。
基本的な要請詳細は「量子力学の数学的定式化」を参照

量子力学における基本的な要請とその数理的な表現について以下に述べる(これについては、フォン・ノイマン量子力学の数学的基礎』以外にも、伏見康治が電子ファイルを公開している「確率論及統計論」で整理されている[11])。

シュレーディンガー方程式やハイゼンベルクの運動方程式によって量子力学的な問題を取り扱う場合においては、物理量作用素(さようそ、: operator)として扱われる。量子力学の個々の問題は、その基本方程式の解として得られる状態によって特徴付けられ、理解される。ここでは、測定され得る物理量の具体的な振る舞いは、対応する物理量の作用素をある状態に作用させることによって知ることができる。作用素は演算子とも呼ばれ、演算子によって記述される量子力学の様式は演算子形式と呼ばれる。作用素および状態が持つ一般的な性質は、それらが満たすべき物理的な要請によって与えられる。

量子力学においては、ある物理量の値が確定した状態をまず考える。このとき、その物理量に対する固有状態(こゆうじょうたい、: eigenstate)と呼ぶ。固有状態は、物理量を表す作用素の固有関数(こゆうかんすう、: eigenfunction)あるいは固有ベクトルとして記述される。物理量の値は、この固有関数(あるいは固有ベクトル)に対応する固有値(こゆうち、: eigenvalue)に結び付けられる。ある物理量の値が確定しない状態も、以下のように固有状態を基盤に理解される。

あるが取り得る物理量の値の確率分布は、具体的な系の状態によって決定される。この確率分布に関する規則はボルンの規則と呼ばれる。この系の状態はある物理量の固有状態の重ね合わせによって表すことができ、系に対して複数の物理量が与えられている場合は、それぞれの物理量に対して、その固有状態の線型結合によって系の状態を表すこともできる。

物理量作用素の固有値が実数であることや、状態の固有状態による展開が常に可能なことは、物理量に対応する作用素が自己共役作用素(じこきょうやくさようそ、: self-adjoint operator)であることに集約される。量子力学では観測や測定が古典論にもまして重要な意味を持っているため、「物理量」というような抽象的な呼称の代わりにオブザーバブル: observable)、「観測可能なもの」と呼ぶことがある。量子力学において自己共役作用素となるべきものは、このオブザーバブルとされている。

ある物理量を測定し、その測定値を得た場合に、すぐさま同じ測定を続けて行うことを考えると、2回目の測定についてはその直前の測定によって、測定したい物理量に関するほとんど同時刻における完全な知識が得られている。そのため、2回目の測定値は1回目の測定値と必ず一致することが期待される。測定に関する状態の役割はボルンの規則によって規定されるべきであることから、この1回目の測定後の系の量子状態は、測定値に対応する固有状態になっていることが要求される。このことは、系の状態を波動関数によって表せば、空間に広がっていた波動関数が測定によって、ディラックのデルタ関数のようなある一点に局在した形へと瞬間的に収縮することを示している。この現象は波束の収縮と呼ばれ、波束の収縮を起こすような測定は射影測定と呼ばれる。また上述の測定に関する仮定を射影仮説(しゃえいかせつ、: projection postulate)と呼ぶ。

演算子形式の量子力学においては、閉じた有限自由度系の純粋状態を扱うにあたって、以下の5つを量子論の基本原理としている。


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