量子コンピュータ (りょうしコンピュータ、英: quantum computer)は量子力学の原理を計算に応用したコンピュータ[1]。古典的なコンピュータで解くには複雑すぎる問題を、量子力学の法則を利用して解くコンピュータのこと[2]。量子計算機とも。極微細な素粒子の世界で見られる状態である重ね合わせや量子もつれなどを利用して、従来の電子回路などでは不可能な超並列的な処理を行うことができる[1]と考えられている。マヨラナ粒子を量子ビットとして用いる形式に優位性がある。 2022年時点でおよそ数十社が量子コンピュータ関連の開発競争に加わっており、主な企業としては、IBM (IBM Quantum)、Google Quantum AI、Microsoft、Intel、AWS Braket、Atos Quantumなどが挙げられる[3]。 研究成果の年表については、英語版のen:Timeline_of_quantum_computing_and_communication
概説
1959年、アメリカの物理学者リチャード・P・ファインマンが量子力学の仕組みを計算に持ち込み、1980年、アルゴンヌ国立研究所のポール・ベニオフ
(英語版)により、理論上量子コンピュータ(チューリングマシン)を開発することは可能であるとした。2011年、カナダのD-Wave Systemsより、量子アニーリングを用いた世界初の商用量子コンピュータ 「D-Wave One」を発表。2019年、IBM Quantum社からは、量子ハードウェア「IBM Q System One」を発表[2][4]。数千人の開発者がそれを利用できる状態になっている[2]。IBM Quantumは量子プロセッサを定期的に配布している[2]。量子計算を「量子ゲート」を用いて行う方式のものについての研究がいまは最もさかんであるが、他の方式についても研究・開発は行われている。
いわゆる電気回路による従来の通常の2値方式のデジタルコンピュータ(以下「古典コンピュータ」)[注 1]の素子は、情報について、なんらかの手段により「0か1」のような排他的な2値のいずれかの状態だけを持つ「ビット」(古典ビット)により扱う。それに対して量子コンピュータは、「量子ビット」 (英: qubit; quantum bit、キュービット) により、量子状態の重ね合わせ(量子波動関数)によって情報を扱う。ここで言う重ね合わせとは「0,1,重なった値」という第三の値と言う意味ではなく、両方の値を一定の確率で持っており、観測時にどちらかに確定すると言うものである。
n量子ビットがあれば 2 n {\displaystyle 2^{n}} の状態を同時に計算し、 2 n {\displaystyle 2^{n}} 個の重ね合わされた結果を得ることができる。しかし、重ね合わされた結果を観測しても確率に従ってランダムに選ばれた結果が1つ得られるだけであり、古典コンピュータに対する高速性は得られない。高速性を得るためには欲しい答えを高確率で求める工夫を施した量子コンピュータ用のアルゴリズムが必須である。もしも数千量子ビットのハードウェアが実現したならば、この量子ビットの重ね合わせ状態を利用することで、量子コンピュータは古典コンピュータでは到底実現し得ない規模の並列コンピューティング(計算速度の量子超越性)を実現すると言われている。
量子コンピュータの能力については、理論上の話(予測や予測に関する議論)と、製作中の量子プロセッサの製作者が考えている予定値と、すでに製作された現実の機械についての実測値がある。実現した値については、やはり上述の英語版の年表が詳しい。(当記事の後半の#計算能力や#実際の節は、内容が更新がされておらず、かなり古い内容なので、あまり参考にはならない。)
将来に量子コンピュータの販売が行われるようになれば、初期の発展段階で量子コンピュータの重要な特許を多く取得した会社が莫大な収益や利益をあげると予想され、後手にまわった側は、特許を保有する側に対して膨大な特許実施使用料を支払う立場になったり、競争に負けて会社が衰退してしまう可能性もある。そのため2022年の時点では上で説明した数社だけではなくて、ほかにもあわせて数十社ほどが量子コンピュータ関連の開発を競い合っている。
なお単なるコンピュータの利用者になるだけのつもりの人にとっての「目先の利用価値」について言えば、2022年の時点ではスーパーコンピュータや普通のPCの方が利用価値が高いといえる(量子コンピュータが実用的な問題の処理に本格的に使えるようになるまでには「もうしばらく」時間がかかると考えられている)。 量子コンピュータの歴史は、1980年に ポール・ベニオフ 1992年に、ドイッチュとジョサ
歴史
1980年代
1990年代
1994年にピーター・ショアは、実用的なアルゴリズム『ショアのアルゴリズム(英語版)[11]』を考案し、量子コンピュータの研究に火をつけた。これは、ヴァジラーニらの量子フーリエ変換や、同年のSimonの研究[12]を基礎に置いている。古典コンピュータでは現実的な時間では解けないと考えられている素因数分解は、量子コンピュータに特有であるこのショアのアルゴリズムでは理論上極めて短時間で解けることになるので、素因数分解の困難さを暗号の安全性の根拠としているRSA暗号は,もしも実用的な量子コンピュータが実現されたならば容易に破られることを示した。
1995年に、アンドリュー・スティーン[13]やピーター・ショア[14]により、量子誤り訂正のアルゴリズムが考案された。1996年に、ロブ・グローバー(英語版)により、その後、様々なアルゴリズムに応用されるグローバーのアルゴリズム[15]が考案された。同年、セルジュ・アロシュは、実験的観測によって量子デコヒーレンスを証明し、[16][17]量子デコヒーレンスが量子コンピュータ実現への障害となることが実証された。1997年に、Edward FarhiとSam Gutmannにより、量子ウォーク[18](Continuous-time quantum walk、略称: CTQW)が考案された。1998年に、量子コンピュータ用のプログラミング言語である、QCL (Quantum Computation Language) の実装が公開された。
また西森秀稔による、量子焼きなまし法(量子アニーリング法)の提案もこの時代であった。 ハードウェア開発に大きな進展があり、2008年にイオントラップの専門家デービッド・ワインランドは、個々のイオンをレーザー冷却して捕捉できることを示し、個々の量子もつれ状態にあるイオンをマニピュレーションする、トラップド・イオン量子コンピュータの研究が進展した。
2000年代