野焼き
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この項目では、農業技術について説明しています。その他の用法については「野焼き (曖昧さ回避)」をご覧ください。
草原の野焼き作物残渣の野焼きごみの野焼き

野焼き(のやき、: open/field burning)とは、野外で植生などを焼却する行為をいう。

古今おこなわれるものとして、土地の維持管理を目的とした山野の野焼き(火入れ、: controlled/prescribed burn)がある。現代においては刈株など作物残渣の野焼き(: agricultural/stubble burn)があり、社会問題とされる。ごみ全般の野外焼却: backyard burn)も野焼きと呼ばれるが、本項では主に農林における野焼きについて解説している。

田んぼ(あぜ)を対象とするものをあぜ焼き[1]庭園などの芝を焼くことを芝焼きなどとも呼ぶ[2][3][4]
概要違法に行われている焼き畑

野焼きは古来より焼き畑を行い農地をならすために、近年では山火事の防止、生態系の管理などを目的として行われてきた。一方、PM2.5などの大気汚染の大きな原因となっており、国境を越えた越境汚染が国際問題に発展する例もある[5]。現代において農業における野焼きは、大気や土壌の環境を悪化させ、健康、経済や生物多様性に害をもたらす慣習として認識されており、各国において禁止が進む動向にある[6][7][8]
草原の野焼き

草原の野焼きはアフリカなど世界各地の草原で主に放牧のためにおこなわれており、ロシアのステップや北アメリカのグレートプレーンズにおける研究では、土壌の窒素を放出させたり、野焼き後に成長する若い植物は収量は減るが栄養価や採食嗜好性は高まるといったことが知られている[9]
作物残渣の野焼き

穀類豆類サトウキビの残茎・藁稈・殻・葉などの作物残渣(英語版)の野焼きは世界各地で多くは規制のもとで行われている。原因として、伝統的に雑草・病害虫を防ぐために必要であるとみなされてきたこと、経済的理由により野焼きを行う以外に処分する選択肢を持てない農民が多いことが挙げられる[10][11]世界銀行によれば、上位の国として中国、インド、米国、ブラジル、インドネシア、ロシアが挙げられるほか、アフリカ、メキシコ、タンザニアなどで割合が高く、この数十年の間に世界の多くの国々で増加した[6]

作物残渣の野焼きは世界の多くの地域の大気汚染において、工業、車両に次ぐ第3位の人為排出源であり、全世界のバイオマス燃焼(森林火災を含む)の約4分の1を占めると考えられている[12]。特にアジア諸国においては、バイオマス由来の大気汚染の約6割を占めるとされる。
悪影響インドデリースモッグ。世界で最も大気が汚染された都市であり、その主要な原因は野焼きである[13]インド・ニューデリーにおける一年間のpm2.5濃度推移グラフ。野焼きが行われる秋から冬にかけて非常に高濃度の汚染が確認できる北インドで行われた野焼きの煙がヒマラヤ山脈を沿って遠方に流れる様子。煙は遠隔地にたやすく移動する
汚染物質

野焼きは低温燃焼のため、不完全燃焼となり煤煙を大量に発生させる。この煤煙はベンゾ[a]ピレンなど発癌性の多環芳香族炭化水素を含んだ粒子状物質PM2.5など)や、揮発性有機化合物硫黄酸化物窒素酸化物アンモニア一酸化炭素などの汚染物質を含む[14][15][16]国立環境研究所の報告によれば、麦や稲の野焼きで発生するPM2.5粒子は、大気中のPM2.5粒子と同程度もしくはそれ以上に毒性を持つと考えられる[17]

また植物残渣の低温燃焼においてもダイオキシン類が発生し、煤煙から大気を汚染し、焼却灰から土壌を汚染する[18]。ダイオキシン類の発生量は燃焼物に含まれる塩素の量や燃焼状態によって左右され、特に塩素を含む農薬、除草剤の影響により発生量が増えることが知られている。
健康上の問題

野焼きはPM2.5などの汚染物質を大量に排出するため、慢性心不全などの循環器疾患や呼吸器疾患、子供の早死、アルツハイマー病パーキンソン病認知症のリスクを高めることが懸念されている[6][19][8][20]

野焼きの煙は特に喘息慢性閉塞性肺疾患 (COPD) を増悪させる[8]。稲藁焼きが社会問題となった秋田県の医師の間でも、野焼きの季節になると喘息発作の救急外来が急増するという事象がよく知られていた[21]。野焼き規制による健康増進の報告もあり、タイ王国で2010年代半ばに進められた厳正な野焼き禁止政策によって、呼吸器疾患の受診者数が約10%減少したとの分析がある[22]

新型コロナウイルス感染症のパンデミックに際しては、野焼きによるリスク増大が懸念され、いくつかの地域で野焼きが禁止された(#アメリカ合衆国#カナダの例を参照)。PM2.5などの大気汚染は統計的に新型コロナの死亡率を高めると考えられており[23][24]、実験によっても罹患リスク、重症度を高めることが示されている[25][26]。また、煙害によって感染症対策の換気が困難になり、感染拡大につながることが懸念されている[27][28]
農業生産力の低下焼かれた農地

本来、植物残渣などの有機物は施用・堆肥化によって土壌有機物腐植)となり、土壌の理化学性・生物性ひいては地力を維持・増進する役割がある。この機会が野焼きによって失われ、また表土も焼かれることで、必要な施肥量の増大や、土壌侵食、収量低下などを引き起こし、経済的損失や生物多様性の低下を招く[8]国際連合環境計画によれば、野焼きは土壌の保水力や土壌肥沃度を25 - 30%低下させる[20]

野焼きで得られる草木灰は、伝統的な「肥料」として利用される場合があるが、これは誤った認識に基づいた慣習とされ、前述の有機物の土づくり効果が失われるほか、燃焼に伴い栄養の多くが失われることが知られている[8][6]アジア工科大学院のMohammad Esmaeil Asadiによれば、稲藁の野焼きは炭素のほぼ全量、窒素の99%、リンの18%、カリウムの44%を失わせる[29]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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