多重国籍(たじゅうこくせき)は、二つ以上の国籍を持っている状態のこと。重国籍[1]とも言い、二つならば二重国籍[2]。重国籍を認めない国、制限つきで重国籍を認めている国、重国籍を認め政治家や公務員(上級職員、外交官、軍人、情報機関職員など)以外の者の重国籍は特に問題にしない国など、様々な国が存在している[3]。 多重国籍の場合、複数の国家から国民としての義務(兵役など)の履行を要求されたり、いずれの国家の外交的保護を認めるかという点で紛糾を生じたりする場合がある。このような不都合を避けるために1930年に「国籍の抵触についてのある種の問題に関する条約[4][5]」(「二重国籍のある場合における軍事的義務に関する議定書」「無国籍のある場合における議定書」「無国籍に関する特別議定書」(未発効)[6])が締結されているが、当事国は20か国にとどまっている。日本、ドイツ、フランス、スペイン、スイス、イタリアなどは署名したが、現在でも批准や加入に至っていない。米国は署名すら行っていない。この国籍抵触条約では、前文で「すべての人が国籍を持ち、各人が持つ国籍は1つのみであるべき」(「国籍単一の原則」または「国籍唯一の原則」[5])との認識を全ての構成国が持つことが「国際社会の一般的利益である」とし、「人類が努力を傾けるべき理想は、 あらゆる無国籍および二重国籍の事例をともに消滅させることにある」としている[4][7]。しかしながら、現代では、重国籍を認める国も多いことから「国籍唯一の原則」は絶対的な理想ではなく、現実的にも国際的趨勢ではない、との見方もある[5][7][8]。他方、「国籍自由の原則」という考えもあるが、これは国籍の変更(国籍選択、他国への帰化)の自由などを意味し、多重国籍の自由を意味しないと理解されている[5]。(後述「国籍取得における血統主義・出生地主義」)。 多重国籍の利点は、国籍を保有する国における生活の利便などがある。他方、短所としては、主権在民の観点から複数の国の主権者として振る舞うことの矛盾が挙げられる[5]。例えば、大韓民国(韓国)は兵役の義務を国民に課しているが、日本と韓国の多重国籍である国民がいる場合などは、韓国は日本での居住者には兵役の義務を免除する法律があるため、そのような矛盾は発生しないとされる[5]。このほか、犯罪人の引渡し、重婚などが挙げられている[5]。 船舶の国籍(船籍)は基本的に一つに限られるが、便宜置籍船対策として「第2船籍制度」が登場している。 航空機は多重国籍が禁止されており、外国へ売却する前に登録を抹消して無国籍とし、購入者が新規登録する[9]。 出生した子の国籍取得の形式には、血統主義と出生地主義がある。血統主義とは、親が自国民であれば子も自国民であるとする方式で、父親が自国民であることを要件とする場合は父系優先血統主義と、父母どちらかが自国民であれば子も自国民となる場合は父母両系血統主義という。日本、中華人民共和国、大韓民国、イタリア、ノルウェー、フィンランド、スイスなどの国々で採用されている。原則として血統主義であるが出生地主義を認める例外規定を設けている国にはイギリス、オーストラリア、オランダ、ドイツ、フランス、ロシアなどがある。
概要
国籍取得における血統主義と出生地主義