重力波の初検出
[Wikipedia|▼Menu]

重力波の初検出(じゅうりょくはのはつけんしゅつ)は、2015年9月14日に行われ、アメリカ重力波望遠鏡LIGOヨーロッパの重力波望遠鏡Virgoの研究チームによって2016年2月11日に発表された[1][2][3]

それまで重力波の存在は、連星系を成すパルサーが出すパルスの周期変動から間接的に示されているだけであった。LIGOで検出された重力波の波形[4] は、36太陽質量と29太陽質量の連星ブラックホールが互いを周回し、合体し、ひとつのブラックホールが作られた時に現れる重力波の波形[注釈 1]一般相対性理論による予言)とよく一致していた [6][7][8]。この重力波発生イベントは、GW150914 (重力波 Gravitational Waveの頭文字と、観測された日付2015年09月14日)[1][9] と名付けられた。これは、連星ブラックホールが合体する様子が初めてとらえられたものであり、恒星質量ブラックホールの連星が存在すること、それが現在の宇宙年齢の間に合体しうることを示すものであった。

重力波の初検出は、特筆すべき成果として世界中で報道された。重力波の直接的な存在証明は50年以上にわたって研究者が目指してきたことであり、またアルベルト・アインシュタイン自身も重力波の検出可能性には疑いの目を持っていたこと[10][11] などがその理由である。ブラックホール合体によって生み出された重力波は、時空のさざ波として地球に到達した。これによって、LIGOの長さ4キロメートルの腕は、陽子の大きさの1/1000だけ伸縮した。これは、太陽にもっとも近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリまでの距離が髪の毛1本の太さ分伸縮したことに相当する[12][注釈 2]

ふたつのブラックホールが合体することによって生じたエネルギーは膨大なものであり、重力波として3.0+0.5
?0.5 c2 太陽質量 (5.3+0.9
?0.8×1047 ジュール or 5300+900
?800 フォエ) が放出された。しかもそれは合体過程の最後の数ミリ秒間にピークとなり、3.6+0.5
?0.4×1049 ワットであった。これは、観測可能な宇宙にあるすべての星が放つ光のエネルギーの総計よりも大きなものであった[1][2][13][14][注釈 3]

一般相対性理論によって予言されながらも最後まで未検出であった重力波だが、GW150914によって、大規模な天文現象が生み出す時空のゆがみが実際に存在することが観測で確かめられた。また、GW150914の検出は重力波天文学の幕開けを告げるものでもあり、それまで電磁波では観測不可能であった劇的な現象の観測を可能にし、さらにビッグバン直後の宇宙の直接探査に道を開くものであった[1][16][17][18][19]。このあと、2015年後半に2件の重力波の検出があったことが2016年6月15日に公表された[20]。さらに2017年には8件の重力波検出があり、その中には初めて電磁波でも観測された連星中性子星の合体現象 GW170817も含まれている。
重力波詳細は「重力波 (相対論)」を参照GW150914として検出されたブラックホールの合体によって作られる時空のゆがみと重力波を示したモデル映像。[21]

アルベルト・アインシュタインは、自らが構築した一般相対性理論[22] をもとに、1916年に重力波の存在を予言した[23][24]。一般相対性理論では、物質が質量を持つことで引き起こされる時空のゆがみによって重力が生じると考える。このため、アインシュタインは時空のゆがみが宇宙の中をさざ波のように広がっていくと考えた。しかし、その波は極めて微弱であるから、アインシュタインはこれを実際に検出できる日は来ないだろうと予想していた[11]。また、軌道運動する物体は周囲に重力波を放射し、エネルギー保存則に従って徐々にエネルギーを失っていくことも予言された。この場合も、非常に特殊なケースを除いて、失われるエネルギーは極めて微々たるものであるとされた[25]

宇宙で起きる様々な現象の中で最も強い重力波が放出されるのは、非常にコンパクトで高密度な天体、例えば中性子星ブラックホールが合体する最後の瞬間である。連星を成す中性子星やブラックホールは、数百万年以上の長い時間をかけて重力波を放ちながら徐々にエネルギーを失っていき、やがて衝突する。合体の直前に、ふたつの天体の移動速度は極限まで大きくなり、合体の瞬間に相当量の質量が重力エネルギーに変換され、そして重力波となって宇宙に放たれる[26]。しかし、このような過程を経るコンパクト天体の連星系が宇宙にどれほど存在し、その衝突にかかる時間がどれほど長いものであるのかはほとんど解明されていなかったため、重力波の発生頻度についても確かな予測はなかった[27]
観測詳細は「重力波天文学」および「観測された重力波の一覧」を参照連星ブラックホール系GW150914が合体する最後の0.33秒間を、非常に近くからスローモーションで見た場合のイメージ映像。ブラックホールの重力が引き起こす重力レンズ効果によって背景の星はゆがんで見える。これは、回転する連星ブラックホール系によってその周囲の空間そのものがゆがむことに起因する。[21]

重力波は、重力波が引き起こす天体現象を観測することによって間接的に、またLIGOのような重力波望遠鏡によって直接観測される[28]
間接的な観測

重力波の証拠が初めて得られたのは、1974年、連星中性子星系PSR B1913+16の運動の観測を通してであった。連星を成すふたつの中性子星のうち、一つは極めて規則正しい電波パルスを出す天体「パルサー」であった。この系を発見したラッセル・ハルスジョセフ・テイラーは、時間とともにパルスの周期が短くなっていること、すなわちふたつの中性子星の軌道が徐々に小さくなっていることを見出した。そのエネルギー変化は、重力波を放出していると仮定したときに失われるエネルギーと非常によく一致していた[29][30]。この発見によって、ハルスとテイラーは1993年のノーベル物理学賞を与えられた[31]PSR B1913+16や他の連星系(例えば連星パルサー PSR J0737-3039) がさらに詳しく観測され、高い精度で一般相対性理論との一致が認められた[32][33]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:120 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef