里親
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里親(さとおや、foster care)とは、児童福祉法に基づき通常の親権を有さずに児童を養育する者のこと。2020年度末で、1万4401世帯が登録し、ファミリーホームは427か所あり、里親とファミリーホームで暮らす子は7707人いる[1]。厚生労働省「新しい社会的養育ビジョン」において、今後「里親」の名称を変更することとなっている[2]

通俗的な用法としては、飼い主のいないペットを引き取る者、環境保護目的で森林を買い取る者、ぬいぐるみ等の物品を買い取る者も「里親」と呼ばれることがある。(詳細は各個別のページを参照)
日本の里親制度

2016年現在では、通常の親権を有さずに児童を養育する者は、個人間の同意の下で児童を養育する「私的里親」と、児童福祉法に定める里親制度の下で、自治体などから委託された児童を養育する「養育里親」「専門里親」などがある。里親は児童福祉法により定められた研修を受けたのち児童福祉審議会里親認定部会で審議され、里親として認定された者でなければならない。また、子どもを里親に預けたい場合は居住地の児童相談所へ問い合わせをする。東京都では養育家庭をさらに親しみやすく、かつ多くの方に覚えてもらうため、平成18年に愛称を公募し、「ほっとファミリー」[3]もしくは「養育家庭」という愛称も使っている。

厚生労働省では2016年の改正児童福祉法を具体化した「新しい社会的養育ビジョン」において、原則就学前の施設入所停止や、7年以内の里親委託率75%以上など数値目標を定め、養護施設に対しては、入所期間を1年以内とし、機能転換も求めている[4]。この児童福祉法改正では、実親による養育が困難であれば、特別養子縁組による永続的解決(パーマネンシー保障)や里親による養育を推進することを明確にしており、これは、国会において全会一致で可決されたものとなっている[2]児童養護施設側では、児童養護施設の存在意義が否定されたと感じている[5]場合もあり、高い目標値の設定に反発している。一方で、家庭での養育を推進するために里親制度の普及活動に取り組む児童養護施設長もいる[6]。なお、児童養護施設に入所する子どもの大学・専門学校進学率は11%程度に対し、里親養育下の子どもの大学進学率は例年20%程度で約10%上回っており[7]、里親下での養育の方が進学に適切な支援が得られている可能性がある。
「いまは引き取れないが、いつでも会いに行けるように、まだ施設で預かっていてほしい」「自分で育てるのは無理だが、手放すのは嫌だ」などの親の意向から、里親や養子縁組が進まないことがある [8]。しかし、里親制度は特別養子縁組と異なり、里親は一時的支援を目的としており里親と子どもの間に新たな戸籍関係などは構築しない。里親支援者は一時的に養育をお母さんと一緒にやって行く、“お母さんのサポーター”とその制度を表現している [9]
兵庫県明石市ではあかし里親100%プロジェクトとして市が里親開拓に取り組み、2年間で1.6倍に里親を増やした[10]

2021年2月「全国家庭養護推進ネットワーク」は、里親家庭を支える役割を児童相談所が担っているが多忙のため進まないことを懸念し、民間機関への委託を厚労省に提案することを表明している[11]
公的里親の種類

[12]里親制度における里親には、養育里親、専門里親、養子縁組を前提とした里親、親族里親の4種が「里親の認定等に関する省令(平成14年厚生労働省令第115号)」に定められている。

里親の種類
養育里親実の親が引き取る見込みのある子どもを実親の元へ家庭復帰できるまで、あるいは18歳まで家庭内で養育する里親。(短期里親については、平成21年度より「養育里親」に分類された)
専門里親一定の期間、里親としての養育経験や児童福祉分野の経験がある者が、専門的な研修を修了した上で登録を受けられるもので、児童虐待等により心身に有害な影響を受けた児童、知的障害を持つ児童、非行傾向を持つ児童などを預かることができる。
専門里親による養育は原則2年を限度とするが、必要に応じて更新することができる。
養子縁組を前提とした里親将来的に里子との養子縁組を目的として登録を希望をする。
親族里親両親が死亡・行方不明等で児童を養育できないときに、児童の3親等以内の者が代わって養育する場合の制度である(疾病による入院や精神疾患により養育できない場合を含む[13])。この場合叔父叔母など扶養義務のない親族ならば里親手当も支給される。
このような場合、児童扶養手当の受給も考えられるが、養育する者が児童の祖父母など高齢者で、老齢年金等の受給を受けている場合、児童扶養手当は受給できないという問題があった。この問題を解決するために親族里親の制度が創設された(児童扶養手当#年金との併給の問題)。

2005年の児童福祉法改正前には、これらのほかに義務教育修了後行き場のない児童を引き受け、職業指導を行なう保護受託者(職親とも)という制度が存在したが廃止された。
週末里親・季節里親

児童養護施設などが独自に採用している制度で、児童養護施設の収容児童を週末や夏季や年末年始のみ預かる者を、「週末里親」「季節里親」などと呼ぶ。週末里親とは週末に、季節里親は夏休みや冬休みに子供を迎え入れる里親のこと。目的は施設で生活している子供に家庭的な雰囲気を味わってもらうこと。地域によって呼び名が違い、フレンドホーム・ボランティア里親と呼んでいる地域もある。
養育里親研修

児童福祉法により、養育里親希望者には認定の要件として、研修を受けることが義務づけられている。養育里親になることを希望する人は、都道府県又は、都道府県からの委託を受けた社会福祉法人その他の者が行う養育里親研修を受ける必要がある。おおむね1週間程度でその中で児童養護施設や乳児院での見学、実習も行う。

里親登録の認定までに受講することが必要な養育里親研修には、まず基礎研修(講義と実習)があり、その後認定前研修(講義と実習)へと進む。里親は認定前研修と並行して児童相談所に里親認定の申請を行い、児童相談所からの家庭訪問・調査を受ける。それらのすべてを認められると修了認定が行われる。修了認定後に調査結果をふまえて、児童福祉審議会里親認定部会で審議され、認定されれば里親として通知される。その後里親登録の申請をして正式に養育里親名簿に登録される。

また里親登録後も、5年ごとに更新研修を受けて登録の更新をしなければならない。

研修の具体的な内容は、

(1)養育里親を希望する者を対象とした ・期 間 1日+実習 1日程度
里親制度の基礎Tについての里親養育論(60分)

保護を要する子どもの理解について(ex 社会的養護の下で生活する児童)養護原理(60分)

里親以外の子育て支援(ex 地域の子育て支援)についての児童福祉論(60分)

先輩里親の体験談・グループ討議(ex 里親希望の動機、里親にもとめられるもの)里親養育演習(120分)

実習(児童福祉施設の見学を主体にしたもの)養育実習(1日間)

(2)認定前研修 ・期 間 2日+実習 2日程度
里親制度の基礎II(里親が行う養育に関する最低基準)

里親養育の基本(マッチング、交流、受託、解除までの流れ、諸手続等)

@、Aを里親養育論として90?120分

子どもの心(子どもの発達と委託)についての発達心理学(60分)、

子どもの身体(乳幼児健診、予防接種、歯科、栄養)小児保健・医学(60分)

更新研修では社会情勢や法律の改正を知る児童福祉制度論や子どもの行動の理解するための発達心理学の講義や養育実習などである。
公的里親の概要

児童を里親に委託する権限は国が都道府県知事に与えており、知事は実務権限を児童相談所長に与えることで児童相談所により行われることが日本では一般的である。公的里親のうち8割以上が養育里親であり、比率としては一番多い。なお、児童福祉法による養育里親とは、「厚生労働省令で定める人数以下の要保護児童を養育することを希望し、かつ、都道府県知事が厚生労働省令で定めるところにより行う研修を修了したことその他の厚生労働省令で定める要件を満たす者であって、第34条の18に規定する養育里親名簿に登録されたもの(児童福祉法(昭和22年法律第164号) 第6条の4第2項」である。次は養子縁組里親が多い。養育里親は様々な事情で実親と暮らせない児童がふたたび親と一緒に暮らせるようになるまで、養子縁組は目的とせずに期間限定で一時的に預かり家庭復帰をサポートするものである。児童福祉法による養育里親の役割は、一時的に実親と暮らせない児童の家庭復帰をサポートするものと位置付けられており、児童の親になりかわるものではない。養子縁組里親は将来的には里子と特別養子縁組を目指すものである。

厚生労働省によると新生児等の新規措置の場合に、乳児院への措置の割合が著しく高い自治体が多く、新生児等からの里親委託の取組が必要とされている。乳児院退所後の措置変更先でも、里親ではなく100%児童養護施設入所措置が取られている自治体もある。また、児童相談所の里親担当職員及び、里親支援機関事業における里親委託等推進員の体制も自治体によりばらつきがある[14]

大阪府では里親登録家庭を増やす0?2歳の乳幼児の世話に限定した里親の募集を行った[15]。東京都では養育家庭の内養育家庭のうち、原則として2ヶ月以内の短期間の子供の養育という短期条件付きや、養育家庭のうち、他の里親が受託している子供を数日間預かるレスパイト限定の制度も設けている[16]

第10次地方分権一括法により、令和3年4月より保護者の病気などの場合利用する子育て短期支援事業において、市町村が児童養護施設等を介さずに児童を里親等に直接委託し、必要な保護を行うことができるようになった [17]
問題

里親による暴力や性的・身体的虐待が問題になっており[18][19][20]、委託された児童が殺害される事件も起きている[21][22]。また児童福祉施設などでも預かっている児童への性被害も報告されている[23][24]。厚生労働省の「被措置児童等虐待届出等制度の実施状況」によれば、養育者による虐待の割合は里親の下の方が、児童養護施設の下より高いとされる[25]
日本の里親制度の歴史

日本において里親の制度は平安時代からあった。里子に出す風習は上流階級であった公家の社会で「母親の乳不足や親許に置くと柔弱になる」などの理由から始まったが、京都の公家衆や京都の富裕な町家でも子女を洛北の村々の農家に養わせる里子に出す慣行が広まった。

現在の法律で定められた里親制度については、1948(昭和23)年に施行された児童福祉法において制度化された。ただし当初の里親に関する規定は、児童福祉法第27 条第1項第3号に述べられるに過ぎなかった。この条文では、「都道府県知事」は、「児童を里親……に委託し」とし、里親とは、「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童を養育することを希望する者であって、都道府県知事が、適当と認める者」と規定するのみであった。


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