酸化鉄(さんかてつ)は、鉄の酸化物の総称。酸化数に応じて酸化鉄(II) (FeO) や酸化鉄(III) (Fe2O3) など組成が異なるものが知られる。いずれも鉄の酸化物であり、水酸化鉄と並んで錆を構成する成分である。
酸化鉄は自然界では鉱物として見い出され、代表的なものは赤鉄鉱(ヘマタイト)、褐鉄鉱(リモナイト)、磁鉄鉱(マグネタイト)[1]、ウスタイト、磁赤鉄鉱(マグヘマイト)[2]である。 金属鉄が酸素によって酸化された際に生じる酸化鉄(さんかてつ、iron oxide)、水酸化鉄およびオキシ水酸化鉄
種類
(各化合物や鉱物の詳細は各語のリンク先も参照のこと) 以下の3種類とその異性体が存在する。 表. 鉄酸化物組成式異性体化合物名別名鉱物名物質名 金属鉄は酸化還元電位がプロトンより正であるため、酸性水溶液中では酸化されて金属鉄からFe2+イオンが溶けだすが、それが酸素により酸化されることで様々な種類の鉄の酸化物を生成し、それらは鉄錆として知られている。水溶液中ではpHに依存してFe(OH)2(緑色)からα-、β-、γ-、δ-オキシ水酸化鉄(褐色)、酸化鉄(II,III)まで様々な組成の酸化物が生成する[4]。 鉄表面の不動態皮膜もこれらのオキシ水酸化鉄や酸化鉄(II,III)により構成されると考えられているが、赤熱した鉄に水蒸気を反応させる焼き止め処理により生成する黒錆では、酸化皮膜は酸化鉄(II,III)や酸化鉄(II)などにより強固な酸化被膜が形成される。 いくつかの酸化物は陶器やセラミック用素材として広く利用される。釉薬(鉄釉)にも使用され、多くの金属酸化物と同様、高温で焼結させることで釉薬を発色させる。鉄を含む釉薬の特徴として、焼成時に酸素が十分ある酸化的雰囲気だったか酸素が足りない還元的雰囲気であったかで発色が(例えば飴色と青色の様に)全く異なるという点が挙げられる。
酸化物
FeO酸化鉄(II)ウスタイト
Fe3O4酸化鉄(II,III)マグネタイト磁鉄鉱黒錆、黒皮
Fe2O3総称酸化鉄(III)-赤錆
αα-酸化鉄(III)ヘマタイト赤鉄鉱
ββ-酸化鉄(III)
γγ-酸化鉄(III)マグヘマイト
εε-酸化鉄(III)
オキシ水酸化物
α-FeOOH – α-オキシ水酸化鉄、(針鉄鉱、goethite)
β-FeOOH – β-オキシ水酸化鉄、(赤金鉱、akaganeite)
γ-FeOOH – γ-オキシ水酸化鉄、(鱗鉄鉱、lepidocrocite)
δ-FeOOH – δ-オキシ水酸化鉄、(フェロオキシハイト、feroxyhyte)
Fe5HO8・4H2O approx.、(フェリヒドライト、ferrihydrite)
高圧FeOOH
(シュベルトマンナイト、schwertmannite)
FeIIIxFeIIy(OH)3x+2y-z(A-)z[注釈 1](緑錆)
水酸化物
Fe(OH)2 – 水酸化鉄(II)
Fe(OH)3 – 水酸化鉄(III)、(パーナライト、bernalite)
鉄錆
用途
顔料
酸化鉄は顔料としても利用され、日本ではしばしば弁柄(ベンガラ)という呼び名で用いられる。天然の酸化鉄の顔料は黄土(オーカー、Ochre
化粧品
鉄顔料は化粧品の分野にも広く利用されており、非毒性で耐湿性を持ち退色しないと理解されている。化粧品に使用される等級の酸化鉄顔料は原料の酸化鉄(II)、酸化鉄(III)の原末を含まないように合成的に製造される。そして酸化鉄顔料に天然由来の不純物が含まれることは普通のことである。通常、酸化鉄(II)系の顔料は黒色で、酸化鉄(III)系の顔料は赤色ないしは錆色である(酸化物以外の鉄の化合物はほかの色を示す)。
食品添加物
ヨーロッパではE番号E172として、茶色の色を出す着色料として利用されている[5]。日本でも、三酸化二鉄 (Fe2O3) などと呼ばれ、赤こんにゃくとバナナの果柄にのみ使える着色料として利用されている[6][7]。
塗装
(黒色酸化物と呼ばれる)マグネタイトは鉄製工具の被覆(黒染)に利用される[8]。