酒米
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酒米

酒米(さかまい)は、日本酒醸造する原料、主に麹米(こうじまい)として使われるである。日本では玄米及び精米品質表示基準において「うるち米」と定義されているが[1]、正式には酒造好適米もしくは醸造用玄米と呼ばれ、特有の品質が求められる。このため、通常の食用米や一般米として利用されるうるち米とは区別される。ただし、酒米を炊いて米飯として食べることも可能[2]なほか、精米技術の向上などで食用米を使った日本酒醸造は現代でも行われている[3]

酒米として広い地域で使用される品種・産地としては山田錦兵庫県産など)や雄町岡山県産など)が有名であるが、近年は地方自治体が新たな酒造好適米を開発したり、酒蔵が地元産酒米(自社栽培を含む)を使ったり[4]するなど注目すべき変化がある。
特徴

1951年以降は正式には酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)といい、公的な統計で使われる農産物規格規程(農産物検査法)の醸造用玄米(じょうぞうようげんまい)に分類される品種を指し、一般米と区別されるようになった。心白米(しんぱくまい)と呼ばれることもある。イネ科でほとんどがジャポニカ米である。酒造適正米に関しては「酒の原料に使われる一般米」参照。
外観

同じ米でも、家庭の炊飯器などで調理して食べる食用米に比べ稈長(稲の背丈)は高くなり、穂長(稲穂の長さ)も長いのが通例である。しかし、風の強い地方では倒れにくいように、品種改良によって稈長も穂長も小さいものが次々と作られている(「都道府県開発の酒米」参照)。

一般に米の粒が大きい。これは中央部の心白を出すため精米しやすい大きさでもある。このことは専門的には「精米特性が高度精米/高度精白に耐えられる」などと表現される。食用米のように粒が小さいと、深く精米するとすぐ砕けてしまうからである。
性質

心白(「構造」参照)が大きく、タンパク質の含有量が少ない。また、磨きこんでも砕けることがないよう粘度が高く、によく溶ける。その品種の心白の大きさは心白発現率(%)で表される。

食用米と同じように、気候・土壌などそれぞれに好適な栽培環境があること(現地適応性)も重要な性質の一つで、同種であっても産地によって品質の違いが生まれる。ゆえに、たとえば山田錦のように人気の高い品種には、栽培地によって特A地区、A地区などと栽培地区分が存在する。
醸造適性

日本酒への醸造のしやすさのこと。「醸造適性が高い」などと表現される。「醸造適正」「酒造適性」などと書かれることも多い。内容としては、心白発現率の大きさ、精米特性の態様、製麹性すなわちへの造りやすさ、破精込み(はぜこみ)の良し悪し、蒸米吸水率、粗タンパク質含有率などが挙げられる。

米が豊作の年には、米の質の関係から、醸造に失敗しやすい事もある。これは豊作の年の米が比較的硬いため、酒を造る時に米が溶けにくく酵母が充分繁殖するのに時間がかかり、その間に雑菌が繁殖してしまうためだとされる。大正4年(1915年)には、この現象(後に「大正の大腐造」とも呼ばれたという)により日本各地で醸造に失敗、酒造業全体に深刻なダメージを被ったとされている[5]。反対に、不作の年は、酒を造る杜氏の大半が農家出身であるために、不作の年は貴重な米を特に大切にして丁寧に酒を造り、不作の年は米が軟らかいために、酒の醗酵が早まりやすくなるものの、それを抑えるために低温で仕込む[5]ので非常に良い酒ができやすい[6][5]とされる。
構造

米粒の中心部にある白色不透明な部分を心白(しんぱく、言葉では「目ん玉」などと称される)という。デンプンから成っている。この部分は細かい空隙を含んでいて光を反射するので不透明になる。またこの空隙に麹菌が入っていって醗酵することも、酒造りにおいて心白が好まれる一因である。逆に、精米の工程で削り落とされる外殻部は、デンプンだけでなくタンパク質脂肪を含んだ混合体なので、空気が入っても光を透過するため白色透明である。

醸造適性の大きい(酒に造りやすい)酒米の条件とは、

ある程度、粒が大きい。

ほどよい線状心白(せんじょうしんぱく)がある。

タンパク質や脂肪分が少ない。

外硬内軟(がいこうないなん)。外側はかたく、内側はやわらかいこと。

保水力に優れていること。

などである。

酒造りにおける醸造工程では、麹菌と酵母がデンプンとアルコール二酸化炭素に変えていくので、米に含まれるデンプン質が重要視される。米粒の含むその他の成分、すなわち食用米の旨みの素となるタンパク質や脂肪は日本酒にとっては雑味の原因となるため[7]、酒米もこれらの成分ができる限り少ないことが望ましいとされることから、酒米には食用米の旨み成分がほとんど含まれていない。また酒米は心白の空隙が多いゆえに炊飯するとパサパサした食感になりがちで炊き方も非常に難しく、たとえ特A地区山田錦のように高価な酒米を炊飯しても美味には仕上がりにくいことも、酒米が食用のうるち米と区別される理由になっている。[8][9]

またこれゆえに酒米として用いる米は、 などの外殻部を食用米の場合よりも大きく削り落とす。この工程を酒造りの用語では「精米する」、あるいは平たく「米を磨く」「削る」と表現する。元の米粒の大きさや重量に比べてどれくらいまで外殻部を削り落とすかが、精米歩合(単位: %)として示される。精米歩合とは磨かれて残った割合を示すものであり、数値が低い程磨きがかかっていることを指す。ちなみに精白度という呼び方もあるが、こちらは逆で磨いた割合を示すもので、数値が高いほど磨かれていることとなる。
心白発現率

その品種の一粒に対して、心白がどのくらいの大きさを占めるかを%で表したもの。たとえば「美山錦」で20%程度、「蔵の華」で9%程度とされる。1998年平成9年)以前は、全ての酒造好適米において心白は「粒の平面の1/2以上の大きさ」と規定されていたが、多様な新種の開発にともなって同年、食糧庁検査課長による通達により「品種固有の特性をふまえ、形質全体で判断する」という内容へ規制緩和された。
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この節には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(2015年9月)

山田錦とその他の酒米

一般に山田錦が「酒米の王者」などといわれて最も尊重され、各蔵が鑑評会へ出品する酒は山田錦で造ったものが多い。また鑑評会においては山田錦の酒米としての有利性を考慮し、山田錦の使用率が50?100%である製成酒については、第II部といって出品部門を別にしている。
このような背景もあってか、酒造関係者の間では俗に「YK35」といって、「(Y)山田錦を使い、(K)きょうかい9号酵母を用い、(35)精米歩合35%まで高めれば、良い酒ができて鑑評会でも金賞が取れる」などと公式めいた言葉が流行したことがあった。もちろん実際の酒造りはそんな単純なものではない。

とくに1980年代以降、各都道府県の特性を生かした酒米が多く開発されてきている。(「都道府県開発の酒米」参照)。五百万石、美山錦、八反錦のように国際市場を含めて高い評価を得る品種も増加している。

ゆえに、まだまだ山田錦の名声は根強いものの、「山田錦でなくては良い酒は造れない」といった価値観は過去のものとなりつつあり、色々な米からそれぞれの米の特質を生かし、色々な味や香りの酒が造られるようになってきている。
品種と精米歩合

こうした酒米の種類の多極化は、精米歩合の技術にも変化を与えている。たとえば、熟成した仕上がりに強い山田錦は35%まで精米して、ようやく心白に迫るような粒の大きさであるため「YK35」などとも言われていたのであるが、逆にフルーティな仕上がりに強い五百万石は粒が小ぶりであるため、35%まで削ると砕けてしまう恐れが大きい。


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