都市環境破壊(としかんきょうはかい、英: Urbicide
)は、単に都市における環境(生活環境・自然環境)の破壊ではなく、都市空間の文化的環境や都市が持つ資源的価値(文化的財)を排除・破壊する行為のことで、景観破壊を含む社会浄化(英語版)の一つとされる。Urbicideという言葉は、1963年にマイケル・ムアコックが著書『Elric: Dead God's Homecoming』の中で創作した、「都市」を意味する"urban"と「殺す」の接尾辞である"cide"を組み合わせた造語である。出版直後にアメリカ各地で起こった再開発[1]にて、スラムの撤去に伴う下町的な歴史や伝統ある建物の解体と景観損失、人的流動とジェントリフィケーションを問題視した文化人らがUrbanicideと改変し用いたことで広まった。
その後、哲学者のマーシャル・バーマン(英語版)と建築家のボグダン・ボグダノヴィッチ(英語版)の共著で、ユーゴスラビア紛争におけるボスニア・ヘルツェゴビナのモスタル損壊を紹介した『Mostar '92』で引用されたことで、それまでやや情緒的意味合いだったUrbicideが一気に現実的表現へと転じた[2]。
日本での事例解体が惜しまれたホテルオークラ(谷口吉郎設計のロビー)
2014年7月にイギリスのエコノミスト紙に「Capital Crimes(資本犯罪)」と題した記事が掲載された[3]。そこでは2020年東京オリンピックに向け東京の再開発が進む中で、ホテルオークラの建て替えに触れ、都市環境破壊の典型だと警鐘した。
オリンピックに伴う再開発では国立競技場から新国立競技場への建て替え賛否もあり、「2016年問題」といわれる首都圏のコンサートホールの相次ぐ閉鎖解体(約4万席相当の喪失)[4][5] は創造都市や文化芸術創造都市[6]を標榜する上でマイナス要因となりかねないという声がある。 2016年1月に旧京都会館がロームシアター京都としてリニューアルオープンした。当初は解体される予定だったが、世界遺産(文化遺産)の学術的評価を下すICOMOSの日本委員会はじめ再検討を促す意見が多く[7]、改築という判断がくだされた。しかし、改築された建物は京都市が定めた景観条例によるこの周辺の高さ15m規制を例外的に解除し倍の30mとなったことから、重要文化的景観に選定された岡崎公園の景観を害し、ひいては古都京都の景観問題とも捉えられ[8]、文化資材の真正性
京都会館の建て替え
衰退による崩壊東京のしゃれた街並みづくり推進条例で消える武蔵小山の路地裏
健全な都市環境の維持には自治体と民間企業の両輪が必須であり、行政による都市計画と民間の開発による経済循環で都市環境は形成される。反面、企業は業績悪化により都市から撤退することもあり、アメリカのデトロイトのように行政でも破綻する場合もあり、劣化が営繕されることなく放置され自然に朽ち果てることもある。
現代都市における環境破壊の要因には、少子化・人口減少による都市機能不全から生じる衰弱もあり(縮退都市)[9][10]、コンパクトシティの推進により都市圏から切り捨てられる範疇の衰退は否めず、都市環境破壊に抗う論点は持続可能性から存続可能性へと遷移しつつある[11]。
東京においては老朽化した民家が都市的建造物の合間に残る木造住宅密集地域(木密)や空き家があり、高齢化社会が進めば深刻な都市問題に発展しかねず、防災の観点からも整備が望まれるが、下町風情が損なわれると惜しむ意見もある。
原子力と都市環境破壊核の事故は一瞬で都市を崩壊させる―チェルノブイリ