遺伝性非ポリポーシス大腸癌
概要
診療科腫瘍学
分類および外部参照情報
ICD-10C18
遺伝性非ポリポーシス大腸癌(いでんせい・ひポリポーシス・だいちょうがん、英: Hereditary nonpolyposis colorectal cancer、HNPCC )とは常染色体優性の遺伝的素因による大腸癌である[1]。子宮癌、卵巣癌、胃癌、小腸腫瘍、胆嚢癌、尿管癌、脳腫瘍、皮膚癌など、他臓器における発癌もしばしばみられる。これらの発癌リスクの上昇はDNAミスマッチ修復酵素の変異による。 ヘンリー・リンチ 1962年ころ、リンチはネブラスカ大学メディカルセンターに勤務している時、癌を極端に恐れている患者と出会った。この患者は、家族の多くが大腸癌や婦人科系癌により亡くなっており、自分も癌で死ぬのではないかという不安を抱えていた。リンチは家系調査を行い[8]、この患者は1895年にAldred S. Warthinが報告した Family G[9]の子孫であることを発見した。 マイクロサテライト不安定性[11]により病理組織学的には3つのグループに大きく分類される。 HNPCCの遺伝的素因を持つヒトの一生を通じての大腸癌発癌の可能性は80%である。これらの癌の3分の2は右半結腸にみられる。アムステルダム基準に合致した家系での大腸癌の発症平均年齢は44歳であった。HNPCC素因を持つ女性は、一生を通じての子宮内膜癌発症は30?50%にみられる。その発症平均年齢は46歳である。大腸癌と子宮内膜癌の両方を発症した女性のうち半数は子宮内膜癌が先行して発症している。HNPCC関連胃癌の発症平均年齢は56歳であり、多くの場合病理組織は腸上皮化した腺癌である。HNPCC関連卵巣癌の平均発症年齢は42.5歳である。そのうち約30%は40歳未満で診断される。他のHNPCC関連癌も特性がある。Warthinの報告したFamily Gでは、大腸癌よりも胃癌が多くみられる。当時は水道や冷蔵庫が普及しておらずピロリ菌や塩漬け肉が関与していたと考えられる。尿路での癌は、腎盂と尿管にみられる移行上皮癌である。小腸癌は、十二指腸と空腸に最も多くみられる。中枢神経系の腫瘍で最も多くみられるのは 膠芽腫である。 HNPCCではDNAミスマッチ修復能が欠損しており、マイクロサテライト不安定性(MSI)を呈する。高不安定性を示すことはHNPCCの特徴である。マイクロサテライト不安定性は癌組織でも検出される[12]。 HNPCCはDNAミスマッチ修復系の遺伝子の変異と関連することが知られている。 OMIMR[13]名HNPCC関連遺伝子HNPCC家系に占める頻度遺伝子座第一報告論文
定義
歴史
2007年にはミスマッチ修復遺伝子の異常やマイクロサテライト不安定性が認められるHNPCC症例をLynch症候群と呼ぶことが提唱された[10]。
分類
マーカーで30%以上の不安定性を示す高不安定性(MSI-high)
不安定性30%未満を示す低不安定性(MSI-low)
不安定性を全く示さない安定性(MSI-stable)
徴候と症状
大腸癌の危険性
遺伝学HNPCCは常染色体優性遺伝である。図ではHNPCC素因者を赤で示している。
HNPCC1 (120435
HNPCC2 (609310
HNPCC5MSH67-10%2p16
HNPCC4PMS2比較的まれ[16], <5% [17]7p22
HNPCC3PMS1
HNPCC6TGFBR2症例報告[19]3p22
HNPCC7MLH3議論がある[20]14q24.3
MSH6の変異を持つ患者は新アムステルダム基準には合致しない傾向がある。[21] MSH6表現形とは、MLH1およびMSH2がやや異なるため、MSH6 症候群という表現も用いられてきた。[22]ある研究では、ベセスダ基準はアムステルダム基準よりもこのことを検出しやすいと報告されている。[23]
PMS2変異については、体質性ミスマッチ修復欠損症候群(constitutional mismatch-repair deficiency syndrome; CMMRD syndrome)[24]やPMS2異常症[25]とし、リンチ症候群とは別の疾患概念とすることもある。CMMRD症候群146例の検討では 中枢神経系悪性腫瘍が81例 (55%、中央発症年齢9歳)、結腸直腸癌59例(40%,中央発症年齢16歳)、造血器腫瘍48例(33%,中央発症年齢6歳)であり、リンチ症候群とは違う疾患スペクトラムであった。
HNPCCにおける変異のある家系のうち、その39%はアムステルダム基準に合致しないともいわれる。[要出典] それ故にHNPCC遺伝子に欠失を持つ家系は、家族歴にかかわらず、HNPCCに留意しなくてはならない。これはアムステルダム基準では、リンチ症候群の危険性を同定することに失敗することもあるということも意味している。研究の最先端ではスクリーニングのための基準の改善が進められており、この記事のスクリーニング戦略に記載がある。
HNPCC は常染色体優性遺伝である。多くのHNPCC患者は両親から受け継いでいる。しかし罹患率・診断年齢・癌危険率低下・早期死亡については検討が不完全なため、すべてのHNPCC遺伝子変異をもつ患者の両親が癌に罹患したとはされていない。一部の患者は、遺伝ではなく、その世代で遺伝子突然変異を起こし、新たにHNPCCを発症している(de novo HNPCC)。これらの患者はしばしば若年発症大腸癌により診断されている。HNPCC患者は50%の確率で子供に遺伝子を受け継ぐ可能性がある。 DNAミスマッチ修復遺伝子のスクリーニング検査をHNPCC家系では勧められる。
スクリーニング検査