遺伝子疾患
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遺伝子疾患(いでんししっかん、: Genetic disorder)は、遺伝子の異常が原因になって起きる疾患の総称。遺伝性疾患、遺伝疾患。

狭義に遺伝病とも称されるが、現在では次世代に遺伝しない場合も含めた概念となっている。
基本的な種類

遺伝性疾患は染色体異常症、単一遺伝子疾患、多因子遺伝の3種類に分類される。
染色体異常症詳細は「染色体異常」を参照

染色体異常症は染色体全体あるいは染色体の一部分に含まれる複数の遺伝子の過剰あるいは不足が原因である。21番染色体トリソミーによるダウン症候群などが有名である。
単一遺伝子疾患詳細は「遺伝形式」を参照

単一遺伝子疾患は1つの遺伝子の変異により発症する。単一遺伝子疾患はメンデル遺伝形式に従うという大きな特徴がある。これまで知られている単一遺伝子疾患は、Vector A.McKusickによる著書である「Mendelian Inheritance in Man」に記載されており[注 1]、殆どの単一遺伝子疾患は稀なものである。しかし単一遺伝子疾患群としてみると、およそ2%の人が生涯のいずれかの時期で単一遺伝子疾患に罹患していることに気がつくという報告もある。小児期に発症する重篤な単一遺伝子疾患の頻度は0.36%であり、入院している小児疾患の6?8%は単一遺伝子疾患に罹患していると推定されている。小児疾患が多いが単一遺伝子疾患の10%以下だが思春期以降に症状が発現し、1%は生殖期間が終わった後に発症するものもある。単一遺伝子疾患は診断が家系構成員の健康に大きく影響する点が非常に重要となる。DNA配列の変異による疾患として初めて明らかにされたのは1983年ハンチントン舞踏病のHTT遺伝子のCAGリピート伸長である。[1]

単一遺伝子疾患が従うメンデル遺伝学では常染色体優性遺伝常染色体劣性遺伝X連鎖性優性遺伝X連鎖性劣性遺伝の4つが基本形式になる。いくつかの例外も知られており、ゲノムインプリンティングによる特異的な遺伝形式を示す偽性副甲状腺機能低下症や母系遺伝などを示すミトコンドリア病などがあげられる。
常染色体劣性遺伝

劣性遺伝の古典的定義はホモ接合体でのみ発現し、ヘテロ接合体では発現しない表現型のことである。劣性遺伝疾患の多くは、遺伝性産物の機能を減じるか消失させる変異、いわゆる機能喪失型(loss-of-function)が原因である。常染色体劣性遺伝疾患の罹患者の両親は通常は変異アレルの無症候性保因者である。近親婚がある場合は常染色体劣性遺伝疾患の発症リスクが高くなる。インドや中東諸国、アジアの一部では未だに血族婚があふれている地域もある。血族婚ではないにもかかわらず偶然に無症候性保因者同士で結婚したことが劣性遺伝性疾患では一番多い原因になる。特に白人では嚢胞性線維症という常染色体劣性遺伝性疾患の原因遺伝子であるCFTR遺伝子の変異アレル保因者が多く、血族婚でなくとも嚢胞性線維症を発症しうる。このように、劣性遺伝形式が集団において高頻度に保持されている場合もある。家族歴を聴取する場合は血族婚の有無の他にカップルが似通った民族もしくは地理的起源がないかに関しても聴取する必要がある。新生突然変異で常染色体劣性遺伝性疾患を発症する可能性は極めて低い。この点は他の優性遺伝性疾患とX連鎖性疾患の状況と大きく異なる点である。以下に常染色体劣性遺伝の特徴をまとめる。

常染色体劣性の表現型は2人以上の家系構成員に出現するならば、典型的には発端者の同胞群にのみみられ、両親、子、他の血縁者にみられない。

ほとんどの常染色体劣性遺伝疾患は男女が等しく罹患する。

罹患した子の両親は、変異アレルの無症候性保因者である。

罹患者の両親は近親性をもつことがある。これは、その疾患の責任遺伝子が集団内で稀ならば、特に可能性が高い。

発端者の同胞の再発率はそれぞれ1/4である。

常染色体優性遺伝

変異アレルがホモ接合体でもヘテロ接合体でも発現する場合を優性遺伝という。完全優性では変異アレルがホモ接合体でもヘテロ接合体でも同様の症状を示す。しかし完全優性は実際の医療においては稀である。多くの優性遺伝疾患では通常はヘテロ接合体よりもホモ接合体の方が症状は重篤になる。ホモ接合がヘテロ接合体より重篤になる場合を不完全優性という。常染色体優性遺伝疾患の罹患率は少なくとも特定の地域では高い。ヨーロッパ系集団もしくは日本人集団では家族性高コレステロール血症が500人に1人であり、北ヨーロッパ系の集団ではハンチントン病神経線維腫症多発性嚢胞腎が2500人から3000人に1人である。常染色体優性遺伝疾患は子に遺伝するという点が大きな特徴である。また医学的重要性をもつ多くの優性遺伝の多くは、親から変異アレルを受け継ぐことで罹患するのみではなく、変異アレルを持たない親からも自然発生の新生突然変異が生じることで罹患する。常染色体優性遺伝の特徴を下記にまとめる。浸透率(ある遺伝子が何らかの表現型を発現する確率)の低下や表現型が軽度で気づかれていない場合などもあり、家系図が常染色体優性遺伝らしかぬように見えることもある。ポリグルタミン病の多くは常染色体優性遺伝である。

優性遺伝の表現型は通常どの世代にも出現し、各罹患者は罹患した親をもつ。

罹患した親のどの子も、その形質を受け継ぐリスクは50%である。

表現型が正常な家系構成員は、子に疾患表現型を伝達しない。

男女は等しくいずれの性の子にも表現型を伝達する。特に男?男伝達がありえるし、男性は非罹患の娘を持つことがある。

孤発例の大部分は新生突然変異による。疾患の適応度が低い(子孫を残せない)ほど新生突然変異の割合が大きくなる。

X連鎖遺伝

男性はX染色体は1本しか持たないが、女性は2本持つ。男性は野生型アレルのヘミ接合か、変異型アレルのヘミ結合の2つの可能性がある。女性は野生型アレルのホモ結合、変異型アレルのホモ結合、野生型アレルと変異型アレルのヘテロ結合の3つの可能性がある。正常な女性の体細胞ではどちらか1本のX染色体が不活化されるため、男性でも女性でもX連鎖遺伝子の発現は同等である。このX遺伝子の不活化のため、X連鎖遺伝疾患の女性ヘテロ体では組織ごとに異常アレルが発現される細胞の割合が異なり、臨床症状が異なる場合がある。X連鎖性遺伝の優性と劣性は遺伝形式は、ヘテロ接合体の女性の表現型に基いて区別される。ヘテロ接合体の女性が表現型を示せば優性であり、示さなければ劣性である。しかしX染色体の不活化によって表現型を示さないこともあり、優性、劣性という表現を用いない方がよいという意見もある。

よく知られたX連鎖疾患の40%近くは、女性ヘテロ接合体のほとんどが発症しない(浸透率数%未満)ため劣性と分類される。30%は女性ヘテロ接合体の大多数(>85%)が発症するため優性と分類される。残り30%はいくらか(15 - 85%)の女性ヘテロ接合体で発症するため優性、劣性のいずれにも分類できない。このような実情であるが、慣習上X連鎖性疾患でも優性、劣性という分類が使われ続けている。


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