遺伝子検査
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この項目では、医学における遺伝子検査について説明しています。個人識別を目的とする遺伝子の検査については「DNA型鑑定」をご覧ください。
ヒトの細胞の核のクロマチン(染色質、chromatin)には遺伝情報を保持するDNAがヒストン(histone)という蛋白に巻き付いた形で収納されている。(なお、DNAは核以外にミトコンドリアにも存在する。)

遺伝子検査(いでんしけんさ、英語: gene-based tests[※ 1])とは、生物の遺伝子染色体などの遺伝情報の検査全般をさす。遺伝子検査は、
病原体核酸(遺伝子)検査、

ヒト体細胞遺伝子検査(がん細胞の後天的な遺伝子変異など、親から子に受け継がれないと考えられるもの)、

ヒト遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査、すなわち、遺伝性疾患や体質など親から子に受け継がれる遺伝情報の検査)、

の3つに大別される。これらを総称して遺伝子関連検査ともいう。また、染色体検査についても、がんなどの後天的異常に関わるものは体細胞遺伝子検査、生殖細胞系列の染色体異常にかかわるものは遺伝学的検査に含まれる[1][2]。「臨床検査#遺伝子関連・染色体検査」、「遺伝子疾患」、および「遺伝子診断」も参照
病原体核酸検査

病原体核酸検査(英語: human somatic cell genetic test)とは、細菌ウイルス真菌、などの病原微生物の遺伝子(DNAまたはRNA)の検査である。鋭敏で迅速な病原微生物の同定法として広く用いられているほか、治療方針決定のための微生物の遺伝子型検索、定量、薬剤耐性遺伝子の検索などが行われる。よく知られている例としては、新型コロナウイルスSARSコロナウイルス2)のPCR検査があげられる[3]:496-504。日本で実施されている遺伝子関連検査のほとんどはこの範疇に属する[4][5]。詳細は「微生物学的検査#病原体遺伝子検査」を参照
体細胞遺伝子検査ヒト体細胞遺伝子検査の例:慢性骨髄性白血病に特徴的なBCR-ABL融合遺伝子の染色体検査(FISH法)。青が染色体、緑がBCR遺伝子、赤がABL1遺伝子。赤から黄・緑が隣接している部分がBCR-ABL融合遺伝子。

ヒト体細胞遺伝子検査(英語: human somatic cell genetic test)とは、主に、悪性腫瘍(特に白血病悪性リンパ腫など血液がん)の、後天的な遺伝子異常や遺伝子発現の差異を検出する検査である[※ 2]。悪性腫瘍の診断のみならず、抗癌剤の適応決定(コンパニオン診断)の指標としても用いられ、近年はがん診療に欠かせないものとなっている。

遺伝子関連検査の中では体細胞遺伝子検査は病原体核酸検査に次いで多く、また、その過半は白血病・悪性リンパ腫など造血器悪性腫瘍関連検査である[4][5]。固形がんについては、通常、腫瘍組織を用いて検査する(病理検査用のホルマリン固定パラフィン包埋標本も検査の対象となる)。近年は血液中の微量の腫瘍由来成分(細胞や核酸など)を検査するリキッドバイオプシー技術が発展してきている[6]。「悪性腫瘍遺伝子検査」、「コンパニオン診断」、および「リキッドバイオプシー」も参照
造血器悪性腫瘍

白血病の診断(病型分類)と治療方針決定には遺伝子検査が不可欠となっている。また、治療後の微小残存病変(測定可能残存病変)の遺伝子検査による検出の有無が寛解の判定にも用いられている。

白血病の遺伝子異常の代表的なものとして、慢性骨髄性白血病(CML)のBCR-ABL融合遺伝子急性前骨髄球性白血病(APL)のPML-RARA融合遺伝子がある。詳細は外部リンクにあげた日本血液学会のサイトを参照されたい[7]

リンパ系の悪性腫瘍の多くはB細胞T細胞由来であり、抗原受容体遺伝子の単クローン性の変化がみられる(正常のリンパ球の集団は抗原受容体遺伝子が再構成により多クローン性の変化をもっているが、腫瘍細胞はみな同じ再構成をもつ)。リンパ球が腫瘍性に増殖しているかどうかの診断のために、T細胞系ではT細胞受容体遺伝子の再構成、B細胞系では免疫グロブリン遺伝子の再構成の検査が行われる[3]:476-477。「急性骨髄性白血病」も参照
固形がん

癌・肉腫について、よく行われる遺伝子検査としては、EGFR遺伝子検査(肺癌)、RAS遺伝子検査(大腸癌)、c-kit遺伝子検査(消化管間質腫瘍)、マイクロサテライト不安定性検査(リンチ症候群)、などがあげられる[5]。近年は、複数の遺伝子を同時に検索する遺伝子パネル検査も増えている[8]
遺伝学的検査

医療の場で実施されるヒト遺伝学的検査(英語: human genetic test)は、ヒトの遺伝子の病的バリアント(変異)を検出するものである[※ 3]。通常、血液を用いて行うが、原理的には、口腔粘膜、皮膚、毛髪、爪、などDNAを抽出できるものであれば検査可能である。

日本で実施されている遺伝学的検査のうち、頻度が多いのは、臓器移植のための検査(HLAタイビングなど)と薬理遺伝学検査であり、それに次ぐのが、単一遺伝子疾患の検査である[5][4]。その他、非発症保因者遺伝学的検査、発症前遺伝学的検査、易罹患性遺伝学的検査、出生前遺伝学的検査、着床前遺伝学的検査、などさまざまな検査がある。また、先天代謝異常症等に関する新生児マススクリーニングも、それ自体は遺伝子の検査ではないが検査されている疾患の多くは遺伝性疾患であり、日本の遺伝学的検査のガイドラインでは適用範囲に含まれている[1][3]:729-741。

遺伝学的検査については、遺伝子が生涯変化せず、血縁者間で一部共有されており子孫にも伝わる可能性のあること、症状のない人についても将来の発症の予想や子孫への伝達の可能性の推定ができる場合があること、不適切な利用や情報漏洩は検査を受ける当事者のみならず血縁者にも社会的不利益をもたらすリスクがあること、などを十分に考慮しなければならない。また、本人、または、代諾者への十分な説明と同意が必要である(代諾者に説明する場合も可能な限り本人の了解[※ 4]を得ることが望ましい)。詳細は典拠にあげたガイドライン[1]を参照されたい。
既に発症している疾患の診断

既に発症している疾患について、遺伝疾患の診断、または、その可能性を考えての鑑別診断に用いられるのが通常である。診断に臨床的意義があることが前提であり、また、血縁者への影響を含めた十分な説明と意思決定の支援の上での同意と、遺伝カウンセリングも含む十分なサポートが必要である[1]

2023年4月現在、191の遺伝疾患の遺伝学的検査が保険適用となっており、例としては、筋強直性ジストロフィーデュシェンヌ型筋ジストロフィーベッカー型筋ジストロフィー球脊髄性筋萎縮症ハンチントン病、先天性難聴、などがあげられる[9][10][11]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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