遷移元素(せんいげんそ、英: transition element)とは、周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の総称である[1][2]。遷移金属(せんいきんぞく、英: transition metal)とも呼ばれる。第12族元素(亜鉛族元素、Zn、Cd、Hg)は化学的性質が典型元素の金属に似ており、またイオン化してもd軌道が10電子で満たされて閉殻していることから、典型元素に分類されることも遷移元素に分類されることもある[3]。IUPACのRed Bookでは「the elements of groups 3?12 are the d-block elements. These elements are also commonly referred to as the transition elements, though the elements of group 12 are not always included」(p51)、つまり第3-12族はdブロック元素で遷移元素とも呼ばれるが,第12族は(遷移元素に)含まれないこともある、記されている。
遷移元素の単体は一般に高い融点と硬さを有する金属である。常磁性を示すものも多く、鉄、コバルト、ニッケルのように強磁性を示すものも存在する。
化合物や水和イオンが色を呈するものが多い。種々の配位子と錯体を形成できるほか、触媒として有用なものも多い。
簡潔にまとめると、似たような性質の元素が周期表において、横に並ぶようなものである。反意語は、典型元素といって周期表において縦に似たような性質の元素が並ぶものである。
歴史メンデレーエフの短周期表。まずVIII族元素が遷移金属と呼ばれるようになる。IUPAC分類に従い3族から11族までを遷移元素とした長周期表。
最初に「遷移金属」という言葉が使われるようになったのは19世紀の最終四半世紀ごろであり、当時は周期表のVIII族(現在の第8族-第10族)に属する元素を指していた。
当時の周期表は「短周期表」と呼ばれるもので、現在の第1族-第7族と第11族-第17族がともにI族-VII族とされていた。第18族(希ガス)はまだ同定されておらず、第8族-第10族は同じ周期であれば互いに性質が似通っていることから、VIII族にまとめられた。このVIII族が、VII族とI族を繋ぐ元素グループという意味で「遷移金属」(ドイツ語:Ubergangsmetalle
/英語:transitional metal)と呼ばれるようになった[3]。その後、量子化学により元素のもつ電子殻の構造が理解され、K、L、M電子殻やそれを構成するs、p、d、f電子軌道など電子ブロック分類に基づく長周期表や拡張周期表で元素が分類されるようになり、第3-第11族元素を指して「遷移元素」と呼ぶようになった。 遷移元素は典型元素とは異なりd軌道あるいはf軌道が閉殻になっていない。そして、原子番号の増加によって変化するのは主に、d軌道ないしはf軌道電子である[注釈 1]。 s軌道ないしはp軌道電子においては、主量子数の小さい軌道は大きい軌道を超えて外側にほとんど分布しないのに対し、d軌道ないしはf軌道電子はより主量子数が大きいs軌道、p軌道の内側にも外側にも分布する。この性質は、遷移元素の特徴に大きく影響を与えている。 d軌道ないしはf軌道電子が、より主量子数の大きいs軌道の外側にも分布するということは、そのs軌道電子に対する核電荷遮蔽(しゃへい)の効果が弱いことを意味している。そのため、d軌道ないしはf軌道が閉核でない元素ではs軌道準位が、それより主量子数の小さいd軌道あるいはf軌道よりも低くなる。この効果により、遷移元素では原子番号の増加に対し、s軌道よりもエネルギー準位の高いd軌道やf軌道が変化することになる[注釈 2]。 d軌道ないしはf軌道の外部にも広く分布する電子が多数存在するという性質は、金属結合に関与しうる電子が多いということも意味する。その多数の電子が結合力を増大させるため、遷移金属では典型元素金属に比べて融点が高いものが多く、とりうる酸化数も多数存在することになる。 遷移元素においては第4・第5周期はd軌道に電子が存在するが、第6・第7周期にはd軌道とf軌道に電子が存在することになる。このことは、ランタノイド系列やアクチノイド系列が存在するという理由以上には電子配置や核遮蔽による準位への影響度合いが、第4・第5周期の場合と第6・第7周期の場合とでは異なることを意味する。したがって、典型元素では同じ族の元素の性質が似通っていたのに対し、遷移元素においては第4・第5周期と第6・第7周期とでは性質が異なる場合もしばしば見られる。 むしろ同じ周期であれば、s軌道電子の構造が等しい隣接する族と性質が似通う面も多く、三組元素の鉄族元素や白金族元素のように同じ属だけではなく、同じ周期でも区分される場合もある。 遷移元素は全て金属元素であるが、d軌道またはf軌道など内殻に空位の軌道を持つため、典型元素の金属とは異なる化学的性質を持つ。そのため、これら金属元素は「遷移金属」とも呼ばれる。 例えば、内殻のd軌道に安定な不対電子を持つことが可能なため、遷移金属の多くは常磁性であったり、複数の酸化数をとることが容易である。あるいはd軌道はさまざまな配位子と結合して、同じ元素でも多様な錯体を形成する。 一方、内殻軌道が閉殻の亜鉛、カドミウム、水銀(亜鉛族元素)は電子配置も化学的性質も典型元素の金属に近いので遷移元素とはされない。 第一遷移元素(3d遷移元素)[4]元素記号元素名電子配位(基底状態、中性原子) 第二遷移元素(4d遷移元素)[4]元素記号元素名電子配位(基底状態、中性原子) 第三遷移元素は、ランタン(La)から金(Au)までの元素をいう[1][6][4]。不完全4f殻への電子充填であるランタノイドを内部遷移元素としてさらに区別する場合がある。 第三遷移元素(5d、4f遷移元素)元素記号元素名電子配位(基底状態、中性原子)
特徴
遷移金属
遷移元素の電子配位一覧
第一遷移元素
Scスカンジウム3d4s2
Tiチタン3d24s2
Vバナジウム3d34s2
Crクロム3d54s
Mnマンガン3d54s2
Fe鉄3d64s2
Coコバルト3d74s2
Niニッケル3d84s2
Cu銅3d104s1
亜鉛(Zn [3d104s2])を含めることがある[5]。
第二遷移元素
Yイットリウム4d15s2
Zrジルコニウム4d25s2
Nbニオブ4d45s1
Moモリブデン4d55s1
Tcテクネチウム4d55s2
Ruルテニウム4d75s1
Rhロジウム4d85s1
Pdパラジウム4d10
Ag銀4d105s1
カドミウム(Cd [4d105s2])を含めることがある[5]。
第三遷移元素
Laランタン5d16s2
Ceセリウム4f15d16s2
Prプラセオジム4f36s2
Ndネオジム4f46s2
Pmプロメチウム4f56s2
Smサマリウム4f66s2
Euユウロピウム4f76s2
Gdガドリニウム4f75d16s2
Tbテルビウム4f96s2
Dyジスプロシウム4f106s2
Hoホルミウム4f116s2
Erエルビウム4f126s2
Tmツリウム4f136s2
Ybイッテルビウム4f146s2
Luルテチウム4f145d16s2
Hfハフニウム4f145d26s2
Taタンタル4f145d36s2
Wタングステン4f145d46s2
Reレニウム4f145d56s2
Osオスミウム4f145d66s2
Irイリジウム4f145d76s2
Pt白金4f145d96s1
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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